第16話 活路を見出す

「貴様等、不審な真似をすれば……わかっているだろうな?」


 暗に殺すと訴え掛けてきている事ぐらい、平和な地球で過ごしていた俺でもわかる。

 内心冷や汗を流しながら、両手を上げて降参のポーズを取った。相手がどんな手を使って来るか分からないし、こんな場所じゃ助けも来ないだろうな。


 隣をチラリと見れば棚見もまた同じように両手を上げていたが、その顔は随分と余裕があるように見える。まさか、何か策があるのか? ……いや、多分無いだろうな。

 単に図太い性格故の余裕だろう。ある意味では羨ましかった。


「おい、本当にそうなのか?」


「ええ、間違い無いわ。確かに反応がある」


 棚見の前に立つ女は腕の中に水晶のような物を持っていて、それが仄かに赤い光を放っていた。

 それが反応、というやつなんだろうか? しかし、それが何かわからないし。理解したからといってこれ以上に関わり合いたくない。


(一体俺達が何をしたと? 何か切り抜ける方法は……)


 頭の中をこねくり回すが、いい案が思いつかない。言わば情報が全くないの状態なのだ。

 これではどうしようも無かった。しかし、情報といっても……待てよ。


(この女達、確かに見た目は良くあるエルフの特徴だな。俺の前に立つ女は髪が短くて口調が荒い。棚見の前に立つ女は髪が長くて比較的落ち着いているようだ)


 まずは落ち着いて視覚情報から洗い出しをする。何気ない仕草や表情から、少しでも情報を得る事に徹するべきだ。もしかしたら活路があるかも知れん。


 俺は女達に気づかれない程度に棚見を見た。するとあちらも丁度俺に視線を合わせてくれたようで。これで察してくれるといいが、どうだ……?


「お姉さん達さ、こんな所で何してたの? 綺麗な見た目なのに、ほら髪とか土が着いちゃうんじゃない?」


「無駄口を叩く……! 詰まらない問答等する気が無い事が分からんか!」


「だってオレってばバカだも~ん。もっと親切にアレコレ教えて欲しいな~って」


「生意気ッ……」


「落ち着きなさいな。わざわざ相手のレベルに合わせて上げる事も無いでしょ」


 俺の意図を汲んでくれたのか、女達に話しかけてくれた。これで時間稼ぎが出来るぞ。

 といってもあまり長時間という訳じゃない、今はこの貴重な隙間に活路を見出すのみ。


 短髪の女は血の気が多いのか簡単に怒鳴る。長髪の方はそうでは無いかもしれないが明らかに俺達を見下しているな。


 性格は大体分かった、でももっと情報が欲しい。


「丁寧に説明してくれたら合コンのセッティングとかしていいよ。良い男揃えて二対二で盛り上がらない?」


「残念だけど人間基準じゃ話にならないわね。でも、そうね……こちらの言う事を聞いてくれたらご褒美を上げなくもないわよ」


「おい!」


「だから貴女は大げさなのよ。簡単な事、私達はとある物を探しているの。元々は手元にあったのだけれどね……残念ながら今は無いのよ」


「へぇ~。じゃ、それ探して欲しいとか? だったら鼻ヒクヒクさせて見つけて上げようじゃん、オレってば人助け大好きだし? みたいな」


 探し物……それは一体何か?

 さっき反応がどうとか言ってたが、この辺りにそれがあるって事か。


 なるほど、だからこんな所に居た訳だな。

 ……本当にそうか? なんだかピンと来ないな。いまいちしっくり来ないが、それで自分を納得させる事にする。

 協力する事でここは切り抜けるぞ。


「ふざけた喋り方をする人間だ。こっちではこういう頭の悪そうなのが普通なのか?」


「あ、ひっどーい。オレってばバカだけどそういう言い方されると傷ついちゃうんだよね。そんなんじゃお姉さんとお友達に慣れないべ」


「人間の友などハナからいらん」


「この子の友達なんて、それこそ今はどうでもいいでしょう? さっきの返答だけど、別に一緒に探してくれる必要なんて無いわ」


 協力する必要は無いって事か? 不味い、当てが外れたぞ。

 心臓の音が早くなる。どうする? どう切り抜ければ……。


「……うん、貴方がそうなのね」


 水晶のような物を持った女が俺の前に立ってニヤリと笑った。な、何だ? 悪寒が走って仕方が無い。


「な、なにか?」


「貴方、私達の探し物を持ってるわね? 手を降ろしていいから差し出しなさい」


 何だと!? どうやら俺はどこかでこの女達が探している物を手に入れたらしい。

 しかし何だ? 一昨日から今日に掛けて手に入れた物は……この指輪? いや、それなら同じ物を棚見も持ってるし、入ってる物も全く同じだ。


(棚見に無くて俺にあるもの……?)


 そこで、俺はふと宿屋での出来事を思い出した。

 椅子に置いてあった石だ。何の変哲もない石。後で捨てようとズボンのポケットに入れっぱなしにしたまま忘れていた。


(だけどこれか? ただの石突き出してふざけるなって殺されるんじゃ……。でも他に思い当たるものが無い。……ええい、ままよ! どの道他に突破口なんか無いんだ!)


 俺はポケットに手を突っ込んで石を掴むと、それを取り出して女の前に突き出した。


「ふふ、お利口ね。やっぱりそうだったじゃない」


「何を言って! 大体お前が落とさなければ……」


 この女達の会話からして、やはりそうだったらしい。

 水晶のような物を見れば、さっきよりも光が強くなっている気がする。


「お姉さんってば石コレクターだったんだ。見た目の割に渋い趣味してんじゃん。でもま、これでオレ達もお役御免っしょ?」


「そうね、確かにあなた達の役目は終わったわ。おかげで余計な苦労をせずに済んだもの。だからお礼に――」


 急に身の毛がよだつような感覚に襲われた。まるで体が地面に縫い付けられたように言う事を聞かなくなるような。


 ちっ! この女達はやっぱり俺達を殺す気だ。

 隙が見えなかったが、こうなったらこのまま抵抗するしかない。


 そんな時だ、手のひらの石が急に光始め……。


「が!? 目がっ!?」


「くっ! これで間違いないわ。でもなんでこのタイミングで……!」


 女達が何かを言っているが、辺りを覆う光で顔もよくわからなくなった。


 でもこれじゃ俺の目も……。くそ、何が回りにあるか分からないから動きようが無いぞ。


 次の瞬間だった。

 俺の手が誰かに引っ張られて、そのままどこかに連れ去れてしまったのだ。

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