第28話 家出少女と王国騎士
カイリと修行する話をした次の日。ギルドの酒場でシャルとアリアの二人と話をした。
「と、言うわけで、カイリの話は俺の修行を付けてくれるっていうわけらしい」
そういうとアリアは意外そうな顔をして驚いた。
ちなみにシャルは相変わらずフードを被っているが、アリアはフードを被っていない。もう顔が知られているから開き直ったらしい。
周りの連中が騒がないのは、遠出していた最中にオリバーが何かしらの根回しをしたからだと思われる。根拠はないが、オリバーはそう言ったことは細かく手を回している。
「修行を付けてくれるなんて意外だね」
そう言ったアリアに対して、冷静に表情を変えないシャルは言った。
「彼女はあなたを気にかけているようですし、おかしな話ではないかもしれませんね。たしか、弟さんとあなたの名前が同じなんでしたっけ?」
「まあ、そうらしいけど、それが関係しているのか、わからないぞ」
実際に彼女は手助けしてくれる人が簡単に死なせないためと言っていた。特に俺の名前とは関係ないような気がする。
「でも、ユウリって朝と夕方に自分で稽古しているよね? これに加えて稽古するの?」
「聞いている話だと、基本的に稽古を見て管理してくれるのと、昼にも稽古を増やすかもしれないって話だ」
稽古する場所はいつも宿裏の広場なので、場所は変わらないだろう。
そんな話をしていると、ギルドの扉が開き、銀の鎧に白と赤のマントを付けた金髪の男の子が入ってきた。
入ってきた瞬間に周りがざわつき、「王国騎士団のマントだ」と小声で話しているのが聞こえてきた。
「ほーん。偉そうな人が来たんだな」
視線を向けて呟くが、二人からリアクションがなく、気になって視線を向けると、アリアは目を大きくしており、シャルは目を細めていた。
王国騎士団の少年は周りをキョロキョロと見回すとオリバーに一礼したのちに、コチラに気が付いて近づいてきた。
そして、側まで来ると、紺碧の瞳を俺に一瞥し、シャルへと向けた。
「姉さん、迎えに来たよ」
……姉さん。そう言った少年にシャルは一つ息を吐いた。
「頼んでいませんよ、レン。どうせ、お父様のお使いでしょ?」
……レン。その言葉に浮かぶのは勇者一行の一人、レン・シュバリエ。シャルの弟で稲妻の騎士と呼ばれている。
金色の跳ね髪に紺碧の瞳はシャルにそっくりであり、実の
正直、オリバーと血が繋がっていると考える方が難しい。
「お父様のお使いでも、僕自身の意志でもあるよ。姉さんには家に帰ってきて欲しい」
「レン。例え離れていても私たちは姉弟です。だから、必ず側にいなくても、繋がりはありますよ」
「繋がりがあっても、僕は家に帰ってきたら姉さんの顔が見たいんだ。いつも僕を守ってくれた姉さんを今度は僕が守りたいんだ」
え、何こいつ。シスコンなの?
姉弟って、そんなに顔を合わせて、守りたいなんて言うものなのか? それとも、シャルから聞けていない過去の話が影響しているのか?
視線だけアリアに向けると、彼女は苦笑いしており、これがいつものやりとりのように見える。俺の視線に気がついたアリアが仕方なさそうに小さく息を吐くと、シャルとレンの間に手を入れて振り始めた。
「レン! 久しぶりっ! 元気にしてた!?」
「ああ、アリア。久しぶりだね。元気だとも。君は……とても元気そうだね」
同じ勇者一行にも関わらず、シャルに比べて簡素な答えをレンは返す。
「レンもお姉ちゃん離れしないとダメだよ!」
「そんなにべったりはしてませんよ。僕はいつも姉さんと過ごしたいだけだ」
いや、かなりシスコンっぷりだったぞ。何でもないように言うけど、言葉選びに若干引いたからな。
「レン。そんなに一緒に過ごさなくても、あなたならきっと、もっといい時間を過ごすことができます」
シャルはそう言って諭すが、レンは首を振る。
「姉さんといるときが一番いい時間なんだ」
どえらいシスコンじゃねぇかよ。
「間に入って悪いが、シャルにも自分の時間が必要じゃねぇのか?」
俺がそう言って話に加わると、レンに思いっきり睨まれる。
「なんだ、この醜男は。姉さんを知ったような話し方するな。姉さんが光のような存在だからって、虫けらのように近づいてくるんじゃない」
「あんたの罵声が今までで一番酷いわっ! シャルにすらそんな罵声を浴びせられたことないっ!」
今まで生きてきて経験したことのない拒絶のされ方をしている。
「レン。彼は醜男かもしれませんが、私の友人……いや、知人? ……顔見知りです」
「これとばかりに醜男でいじめてくるな! それと顔見知り程度の関係で納得するなら味方してくんな!」
くっ、真顔で言っているあたり、わざとでもわざとではないように取り繕っていやがる。横目で見ると、アリアが口を押さえて笑っている。
「ともかく、彼を愚弄するのは許しません」
「そう言って愚弄してくるのはあんただけどな」
「ちょっとうるさいです。黙っててください」
「ひゃい」
シャルに睨まれる。俺に意見するような権利はなかった。
「この男を馬鹿にするのはやめる。だから、帰ってきてくれ、姉さん」
レンはシャルの意見を聞き入れる代わりと言わんばかりに家へ帰ってくることをお願いする。
「それは嫌です」
そう言ったシャルは席を立ち上がり、とさくさと歩いてギルドから出て行ってしまった。
妙な姉弟ゲンカに出くわしてしまった。そもそも俺はシャルが家出した理由を聞いていない。だから、この姉弟ゲンカに加わり、誰かを援護することはできない。
「おい、ユウリ」
そう思っていると、いつの間にか後ろに立っていたオリバーに話しかけられる。
「なんだよ、オリバー」
「お前、シャルの護衛が任務だろ? ほれ、どっか行ったんだから着いて行けよ」
「……その依頼、完全に忘れてたわ」
「ああん?」
「ひゃい。すぐに追いかけます」
オリバーに睨まれて、俺は席を立つとギルドから出て行く。
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