第20話 魔法と魔石
大きな息を吐いた後、シャルは半目で俺を見た。
「それであなたの魔法はなんですか? カゲロウ、とは言ってましたよね?」
「んあ? ああ、あれは幻覚魔法だ」
「幻覚魔法?」
俺が言った言葉に怪しむようにシャルが俺を見た。俺が言ったことを本当であるのか疑っているようだ。
「火魔法、風魔法、水魔法、雷魔法を使って相手に俺の幻覚を見せる魔法だ」
「相手に幻覚ですか?」
「ああ。相手に俺の幻覚を見せて攻撃させている。実際の位置と違う位置に俺の虚像を相手に見せて、相手に攻撃させて失敗させるんだ」
俺は使った魔法をシャルに説明すると、彼女は眉間にシワを寄せて俺に言ってくる。
「あなたが複数の属性の魔法を使えるのも初めて知りましたし、幻覚魔法という魔法を初めて聞きました」
俺がシャルに伝えたないので、知らないのは当たり前だと思う。
「そもそも、あなたは魔石を使ったとは言え、五属性の魔法を使えるのですね。魔法使いとしてかなり優秀な部類ではありませんか?」
優秀な部類。あくまで優秀な方だけであり、天才的な存在ではない。
「別にそうでもない。俺には才能がなかったんだよ。五属性を使えても極めることまでは出来なかった」
この世界の魔法は神が与えたという言い伝えがある。
火の神サラ、水の神ウィンディーネ、風の神シルフ、土の神ノエル。そして、主神ニケ。五体の神が各属性を人間に与えたと言われている。
それによって、火、水、風、土、雷魔法を人間が使えるようになったのだ。これが基本五属性と言われている。
ただ、使える属性は人によって違い、基本的には一つの属性だけ。多いと三つの属性を使える。
かくいう、俺も得意な属性は火、風、土の三つだけだった。
「魔石を使ってようやく五属性を使えるようになった。苦手な水と雷属性は石がなければ使えない」
指輪にはめられた魔石。赤、青、緑、黄、橙の輝きを放つ宝石のような存在だ。
魔石に魔力を込めると石の能力に準じた属性の魔法を使うことができる。いわゆるエネルギー変換器だ。
得意な属性は体内で魔力を変換し、体外に魔法を放出することができる。対して苦手な属性は体内で変換することが難しい。
だから、魔石は苦手な属性を補うために使う。
「不思議なのは、あなたが得意な属性の魔石も使っていることです」
「それが極められなかった理由だよ」
俺は転生してとある村に生まれた。とても普通な一般家庭だった。
早く言葉を覚えて、文字を読めるようになって、魔法を使えるようになった。
一時は天才と言われる時期もあったが、十歳を過ぎた頃に自覚した。
「俺は魔力量と変換速度が平均値だったんだ」
「……変換速度?」
「気にしたことないよな。単純に魔力を魔法に変換する速度だ。調べると意外と出てくるぜ」
シャルは眉間にシワを寄せて俺を見る。
「今まで旅だらけでしたから、調べごとなどほとんどしていません」
「あー、そうか。まあ、簡単に言えば、魔石は魔力を込めることができる。つまり、魔力を溜め込む力があるんだ」
俺はそう言って指にはめている指輪に魔力を込める。そうすると人差し指にはめた指輪の宝石部分から炎が出てくる。
「魔力を込めて、属性に変換する。この時に魔石は魔力を吸収して、魔法を発動する。この吸収する力が溜め込む力で、この発動している炎は魔力が属性変換して、溜め込んだ魔法が溢れ出ている状態。ここから魔法を発動すると変換する時間が短縮される」
指輪の宝石部分から出ている炎を大きくして、手のひらを広げると、火の球を作り出して乗せた。
「要約すれば、魔石に魔力を込めておいて、魔法をずっと発動している状態かもな」
「ずっと魔法を発動しておくと魔力切れが早くなりませんか?」
「前もって魔石に魔力を込めとくんだよ。それで戦う時は少ない力で発動だけしておく。必要に応じて、魔力を足して魔法を大きく使ったりする」
簡単に言えば車のようなものだ。エンジンをかけて走り出すまではエネルギーを多く必要とするのでガソリンの消費が激しいが、走り出してしまえば必要に応じてエネルギーを加えるだけで良いのでガソリンの消費が抑えられる。
謂わば、効率良く魔法を発動している。
「……正直、驚いてます」
シャルは眉間にシワを寄せたまま俺をじっと見ていた。
「何がだ?」
「あなたの魔法の知識が人並み外れているので驚いているのです。はっきりと言って知らないことばかりでした」
人並み外れているというと、レベル感がわからないのでリアクションに困る。
「個人的には魔法は才能がないって思っているんだけどな」
「五属性を使って戦う人が才能がないとは言いませんよ。それなのに魔法使いではなく、剣士を役職にしているのも理解できません」
魔法の才能があれば魔法使いになって、パーティの攻撃の中核を担っているだろう。それでも魔法使いには弱点がある。
「魔法使いは前衛がいないと戦えないからな。ソロプレイヤーの俺には向かない」
「ああ、仲間がいないんでしたよね。配慮が足りませんでした」
「あんたの今の言葉の方が配慮が足りてねぇよ。仲間がいるかもしれないだろ。俺は一人で戦いたいだけなんだよ」
つか、ソロプレイヤーって言葉の意味は通じるのかよ。この世界の言語はよくわからん。
「魔法っていうなら、あんたの鎖の魔法の方がすごいだろ。あれ何魔法なんだ? なんちゃって魔法か?」
「なんですか、その意味のわからない魔法名は。……あれは“ヘブンズチェーン”という天属性の魔法です」
はい、新しい属性出てきましたー。
基本属性は五つ。火、水、風、土、雷なのに、英雄特許で新しい属性です。
「はんっ、チートだな。そもそも、訳すると天国の鎖とか厨二感たっぷりだぜ」
「ちーと? それに“ちゅうにかん”というのもわけわかりませんね。言葉は正しく使うものですよ」
「ごめぇーん☆」
「……」
シャルの視線が鋭くなる。しかし、俺は気にしない。
「んで、天属性ってなんだよ。天使様でも現れたのか?」
「よくわかりましたね。その通りです。女神イリス様の使い……、つまり、天使ウリエル様から借りているものです」
「……」
もうね、なんでもありだよ。勇者一行って。
この感じだと勇者も海を斬り裂く剣とかもらってそう。
新しく出てきた女神イリスはニケの妹に当たる女の神様だ。慈悲深い回復魔法は女神イリスが人間に与えたとしている。……神話ってなんでもありだね。
「でも、便利な魔法だよな。何もない空間から出てくる鎖だから相手は攻撃を読みにくい。いくらでも出せるから手数には困らない。太くて頑丈だから防御にも使える。万能だな」
「まあ、私もそう思います。しかし、これを借りるには苦労しました」
シャルが遠い目をし始めたので、俺は深追いをやめる。ぶっちゃけ、話を聞くのが面倒くさい。
どうせ、女神と出会うイベントが発生して、修行編からの天使から力を授かったんだろ。知らんけど。
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