02 再起

Side:真司


「すまなかった……」

飛行艇に乗り込んだ俺たちが落ち着きを取り戻した時、目を赤く腫らした勇者エステマが頭を下げていた。


広い飛行艇の中では、ベットが2つ設置されているが、その一つに茉莉亜まりあが座っておりこちらに穏やかな笑みを向けている。

その両隣には真理とリザが目を赤く腫らしくっついている。


さっきまで泣きながら色々な話をしていたようだ。

俺も茉莉亜まりあのことを思い出していた。


たしか真理の親戚のお姉さんで俺らとは10才年が離れているはずだ。

真理のお母さんからは真理の名もこの可愛すぎた茉莉亜まりあから取ってつけたものと聞いたことがある。家も近く真理はもちろん俺も混じって多少なりとも遊んだ記憶はある。


だが10年ほど前の夕方、学校を出たまま行方不明となっていた。

その時に聖女として召喚されたという。


俺が過去を思い出しながらも三人の話をチラ聞きしている間に、先ほど謝っていたエステマは綺麗な土下座をしていた。


「なあエステマ、さすがにそこまでされると俺も心が痛いのだが……」

俺がそう言うとベットの上の女性陣もうんうんと頭を縦に振っていた。それをエステマは頭だけ上げて見る。そして恥ずかしそうに立ち上がり膝の埃をパンパンと落とす動作をして誤魔化していた。


「と、ともかく!勇者として、魔王と戦わずのほほんとしてた俺を……許してほしい!」

そんな見当違いの謝罪で最敬礼して謝るエステマ。


「それはやっぱり俺を殺すということか?」

「そ、そんなわけないだろ!」

あまりに畏まっているので茶化して見たが、焦りながらも割と本気の返答が返っていた。


「本当ならすぐに迎えに行くべきだったんだ。何が無くともな……だが、マリアが目覚めたのを見てつい……」

「じゃあ私のせいってことですね?」

「違うー!」

茉莉亜まりあのおっとりしながらも茶化す返答にエステマが「違うんだよー!」と縋り付いて否定していた。どうしよう。さっきから勇者のキャラ崩壊が凄い。俺を叩きのめして西に行けといったエステマが割とかっこよかったのに……


「エステマ様、あの場に居ながら魔王に一矢も報いず取り逃がしてしまったのは私たちです。エステマ様のせいではありません」

「ほ、本当か?俺は、許されて良いのか?」

「私はエステマ様を悪いと思ったことなど一度たりともありませんよ」

その言葉で今度はリザにくっつき「リザー!」と甘えるように縋り付くエステマ。それを見て何故かメイド服の金髪美女が悔しそうにハンカチを噛みこちらを睨んで

いる。


この金髪美女はイザベラというらしい。

真理の前に召喚された『生者』という珍しジョブを持ち、アンデットを操ったりできるらしい。イタリア人であのバカ王、つまり前魔王に召喚され死にかけたところをエステマにより助けられたとか。


俺はそこまで考えて頭をひねる。

あれ、なんで真理が普通に会話してるんだ?こっちの言葉をリザに習っっていたのか?


「なあ真理、いつのまにこっちの言葉を習ったんだ?すげー流暢に話せてるけど……」

「あっ!ほんとだ!もう首輪なくなってるのに!」

茉莉亜まりあの膝から顔を上げた真理が、驚きながら首を手で触ったりと若干戸惑っているようだった。


「それならステータスに異世界語ってのが出てるはずだ」

「異世界語?あっ!ほんとだ!」

エステマの言葉にステータスを開いたのか真理は嬉しそうに声をあげた。


なるほど、首輪をしている間か破壊された後かは分からないがそう言う事もあるのか。だからイタリア人のはずのイザベラとも話せるということなんだな。


俺は納得したところで飛行艇の中を見渡す。

俺が座るソファーの隣にはクロが丸まって眠っている。


その前には大きなテーブルがあり先ほどのイザベラが入れてくれた紅茶とマドレーヌのような焼き菓子が5つほど皿に置いてあった。


あとは操縦席にはクリスチアという女性がいるらしい。

その人は召喚者ではないが放置奴隷という放置されてしまった奴隷をエステマが助け侍女になっているらしい。まだ挨拶はしていないがチラリと操縦席に見える顔はかなりの美人だということだけは分かる。


総じてこの世界の女性は綺麗な人が多いなと改めて思う。

もちろん俺は真理一筋なのでなんの意味もない。意味なんてないのだが目の保養にはなるのは事実だ。


そんな事を考えていたら真理がクロを押しのけて隣に座り込みこちらをじっと見ている。エスパーかな?俺は少しだけ動揺した声で真理に話しかけた。


「ま、真理?どうした?」

「真司、大丈夫?」

心を読まれたわけでは無いようだ。


真理の心配顔で繰り出す上目遣いが可愛い。


「ああ、大丈夫だよ」

「ならいいけど……無理しないでね。一人で頑張ってたって聞いたから……」

俺の腕にぎゅっと抱き着く真理を見て、このまま二人でまったりと暮らしたくなる。


「俺は、一人じゃなかったよ。魔王には奪われてしまったけど、まだ他にも眷属はいる。これからももっと増やす。今は目的地のログマリオンの西の森に集まるように指示してるから後で会いに行ってみるか?」

「うん!でも離れてる眷属に指示とかそんなこともできるんだね!」

真理の言葉に俺は影鼠かげねずみを呼び出した。


影鼠かげねずみ、いるだろ」

「チュー(もちろんです魔王様!)」

影から飛び出てくる影鼠かげねずみが俺の肩に乗る。


「きゃっ!ね、鼠?」

突然の出現に少しびっくりして腰を引いた真理がクロのお腹にちょこんとのっかってしまう。突然のお腹に乗られたクロが小さく『ぐぅ』と唸っていた。


一瞬クロが怒るかなと思ったが、すぐにお腹からどいた真理の顔をチラリと見てまた眠りについたようだ。俺が同じことやったら激しい頭の痛みに苛まれるだろう……理不尽な現実である。


「この影鼠かげねずみは一応魔物で今は数えられないぐらい数がいる。それぞれの眷属に付いてるのでこいつに指示を送れば他の眷属にその指示を伝達してくれるんだ」

「便利だね。私の影にも入ったら真司と連絡とれるかな?」

そう言いながら影鼠かげねずみの頭を撫でる真理。


「チュー!チュチュー!」

「あっこれじゃ分からないか」

影鼠かげねずみが真理に向かって何か言っているようだが当然何を言っているのかわからない。そして俺に向けての言葉じゃないから俺にも分からない。本当に謎なスキルだ。


「でも別行動する時は一匹入れておけば俺が状況を把握できるけどな」

「そうだね」

真理も嬉しそうに影鼠かげねずみを撫でている。


「ねえ……この子を通して覗き見とかはできないんだよね?」

俺はその言葉に飲みかけていた紅茶を噴き出した。


「ごほっ、ごほ。何言ってんだ!そんなことできないし、できたとしても俺は絶対にやらないからな!」

「ふふ、そうなんだ。ごめんね」

そう言いながら舌をぺろりと出す真理に、弄ばれている感じがして心地よかった。やっと元の関係に戻れたような感覚に幸せを感じた。


「あっ、ありがとう」

「いえ。仲がよろしいのですね」

「はは」

俺が紅茶を噴き出したことでイザベラがそれを片付けに来てくれていた。そして茶化された。恥ずかしさで思わず頬を掻く。それは真理も同じようでモジモジとしながらも俺に肩を寄せていた。


「じゃあ、とりあえず今日のところは俺の屋敷で体を休めてほしい。そして明日からそれぞれが強くなるためのプランを考えよう。前魔王の攻撃方法など分かる範囲で相談もしたいがそれも明日からにしよう!」

そんなエステマの言葉に皆が肯定する。


俺はすぐにでも修行に入りたいが、闇雲にやっても無意味だろう。俺はこの世界のことをまだまだ分かっていないと自覚している。前魔王を見た時にきっとこの面子なら何とかなる……実は内心そう思っていたぐらいだ。

身の程知らずと同時に世間知らずを実感していた。


それに俺は今は一人じゃない。みんなと一緒に強く成ればいいんだ。

そう思いながらソファに深く座って到着までの時間を待っていた。


いや待っていたんだよ?やっぱ近いよね?もう到着したってよ。

そんな感じでエステマの拠点であるそれなりに大きめ屋敷に戸惑いしながらも、やっと挨拶を交わすことのできたクリスチアの案内で屋敷へと入っていった。


夕方前には真理と茉莉亜まりあ、そしてエステマにリザを引き連れて西の森に行って眷属たちとご対面した。クロにも「一緒に行くか?」と確認したら鼻で笑われた。つれない奴だ。


西の森に到着するとすでに全員たどり着いていたようで、真理がつがい髑髏蛇どくろへびにかなりビビっていたが理由を聞くと、魔窟で毒持ちの大蛇に毒を貰ったのもあってトラウマが多少あるそうだ。

俺も「なるほどあいつか」と思い出しながら髑髏蛇どくろへびに引き攣った表情の真理を笑いながら眺めていた。


そしていつの間にか12匹に増えていた角兎を茉莉亜まりあが女神のような表情ででていた。

真理とリザはそれを見ながら「そう言えば結局あの子、浄化してませんでしたね?」「忘れてたね、死んだりしてない?」という会話をしていた。真理の言葉にリザは無言で視線を反らしていたのでちょっと不安になる。


まあ所詮は魔物は魔物だ。ここにいる俺の眷属とは違うから、と思っていたがさらに話を聞くと毎日その一匹の角兎に向かって浄化しようと魔力を充てる訓練を連日やっていたとか……

それなら真理も愛着が湧きそうだなと思った。


結局リザが明日早々に取りに行ってくるということになった。

また1体、角兎の眷属が増えそうだ。やったね。


それにしてもやはり奪われてしまった眷属たちがいないことに寂しさを感じる。王都へ早くたどり着いたがゆえに奪われてしまった眷属たち。ミーヤは一番の眷属だが、魔狼だってその次の眷属だ。


改めて「奪われた眷属たちは必ず取り返す」と誓い本気で強くなることを意識した。そしてそれは残された眷属たちも同様の様で皆が強くなることを決意して、大きな鳴き声を上げていた。


今後は眷属をこれ以上に増やすことも必要だがそれ以上に自分自身のレベルアップが不可欠だ。

まずは前魔王にできるだけ近い魔力量まで増やさなくてはいけない。


おそらくだが相当力量の差が無い限り眷属を奪うことはできないのではないか?とエステマと話をしていた。俺が眷属化する時には叩き伏せないとダメだったからな。それ以上に別のスキルによるものという事ならお手上げだが……

まずは魔力を上げることを意識した修行が必要という方向性になる。


本当は明日と言っていたがやはり居ても立っても居られず、ついつい修行の方向性などの話になってしまう。そんな俺に抱き着いて「今日は休むの!」と言ってくれた可愛い真理に感謝しつつ帰路についた。


夜には美味しい食事と久しぶりのお風呂を堪能し、身も心もすっきりとして夜を迎えた。

エステマに与えられた部屋で一人寂しくベットに寝ころぶ。


久々のベットという柔らかさにほっとするが、やはりミーヤがいないと寂しい。

女性陣は大部屋でまとまって寝ると言うので少し羨ましくもある。

もちろんそこに突撃するような愚かなことはしない。多分死ぬ。


だがクロもその部屋にいるというのだから少し理不尽さも感じてはいる。メスなのだからとは思うのだが……


「早めに寝よう。明日からまた忙しくなりそうだ」


俺はミーヤのことを思い出しながらも布団をかぶり、疲れていたのがいつの間にか眠ることができたようだ。

そう、まるで何者かに操られるように……

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