幼馴染の彼女は隷属された囚われ聖女。魔王の俺は絶対この国許さない!

安ころもっち

第一章・魔王と聖女

01.召喚

「ここは……どこだ?」

俺は少し眩暈を感じながらも目を開けた。


目の前には……なんのコスプレだ?

漫画に出てくるような王様ファッションをした剥げたおっさんが見えた。


横には甲冑?西洋の鎧を着た人たちが何人か見える。そして同じように貴族風なのかわからんが派手なコスプレをしたおっさん達が入れかわり立ち代わり、何やらレンズのようなものでこちらを覗いている。


「おお!聖女様の召喚成功だ!」

目の前の王様コスプレイヤーのおっさんが叫んでいる。


「この世界に来たばかりだというのにすごい魔力値ですね……大丈夫なのでしょうか?」

横のガリガリな髭のおっさんが不安そうな顔をしている。


「なーに!隷属させてしまえばこっちのも!それにすでに『結界』も習得しているのだ!これは……いけるぞ!」

隷属?結界?何言ってんだこの王コスおっさん!


隣を見ると真理が不思議そうな顔を浮かべて周りをきょろきょろしている。どうなってるんだ、俺は、俺たちはさっきまで教室にいたはずじゃ……

記憶をたどる俺の脳裏には、放課後の教室で幼馴染の彼女、真理と……その、なんだ……ちょっと抱き合ったりなんかしちゃったりしていたわけだ。もちろん制服は着ていた。ただ抱き合っていただけだ。

そんな中、急に教室全体が白い光に包まれて、何があっても良いように真理を抱きしめる手にギュっと力を入れて……気付けばこの状況だ。


状況としては馬鹿らしくも異世界転生とかなんとか言うやつに似ているが、だとしたら多分これは夢なのだろう。本当に異世界なんてあるわけがない。じゃああの光は事故か何かか?校内のどこかで爆発でも起こったか?

それなら俺は今病院のベットで生死を彷徨いながら夢をみている?それともすでに死んで浮遊霊として……まあいい。結論は出ないのだから妄想にでも耽るか……


俺は古川真司。18才で高3だ。それなりに頭も良くもうすでに某有名大学に入学が決まっている。スポーツもサッカー部でレギュラーではある。我ながら頑張った方だと思う。じゃないと真理には釣り合わないからな。

幼馴染の佐野真理は同級生で高校に入ってから付き合っている。学年でトップの成績だが俺と同じ大学に入ることが決まっている。長い黒髪が綺麗で気配りが良くできる人気者。告白するものが後を絶たない美少女。

大学を卒業したら結婚したいな。とは思っている……とここまで妄想したところで、やっぱりこれは異世界に飛ばされたのでは?と良く分からないが、そう思う気持ちが強くなった。

それなら今の状況をもう少し確認しないことにはどうしようもない。隷属とか言ってたな。俺が想像する展開であれば最悪だ。せめて真理だけでも無事に元の世界に返したい。


「ねえ、真司。ここどこ?」

目を閉じて妄想をしていた俺の肩を掴んで可愛い真理の声が聞こえた。不安そうな声である。いつも凛としている強い声ではなく俺と一緒の時だけに見せる俺に頼り切った時の声だ。それがなんとも愛おしい。


「あ、ああ。さっきあのおっさんが召喚って言ってたから、ここは異世界なのかもな」

俺は真理を不安にさせないように軽い言葉で返事を返した。そして自分の頬をつねってみると強烈な痛みを感じる。……これはやっぱり、現実かもしれないんだよな……少しずつ夢ではない実感が湧いてくる。


「もう、真司は何言ってるの?でもここ、外国だよね?英語なら分かるんだけど……何語?全然わからないよね?」

「ん?何言ってるんだ?さっきから普通に日本語で話してないか?」

俺の返しには首を傾げる真理。


もしかして……俺だけが分かっているのか?

白いローブを着ている男がそばまで寄ってきた。


「コノクビワデ、コトバ、ワカル」

真理に向かってそのぎこちない片言で黒い首輪を差し出していた。不意に話しかけられた真理だったが「おお!」と言いながらその道具をカチリと首につける。


俺はさっきの隷属と言う言葉がひっかかり真理の手を掴んで止めようとしたのだが、それは間に合わず装着されてしまった。そしてその首輪が黒いオーラのような光を放つが、すぐにその光は消えてゆく。


「コノクビワデ、コトバ、ワカル」

今度は俺にその首輪を差し出してくるそのローブの男


「そんなものなくても聞こえてる!俺が通訳するからさっさと真理のこの首輪を外せ!」

俺は内側から湧き出る怒りを籠めてその男に怒鳴った。


周囲がザワザワと騒がしくなる。

ローブの男も動きを止め、王と俺との間を視線が行ったり来たりしていた。


そして王と思われる男が立ち上がる。


「女だけでいい!この男は……なんてことだ!飛ばせ!その男を今すぐ飛ばせ!」

レンズで俺を覗いた後、その王の号令で一斉に周りにいた白いローブの者たちが俺たちの周りを取り囲み、何やらゴニョゴニョと良く分からないお経の様なものを唱え始めた。こんなにいたのかよ……


俺は「絶対に守る!」と真理を抱き寄せ安心させようと試みる。


「女!名は何という」

「真理、です」

俺はあっけに取られて真理を見た。王の言葉に返事する必要なんてないのに……おかしい。いつもの真理ならこんな迂闊な行動はとらないのに……やっぱり……俺は確認の意味も込めて真理に声をかける。


「何呑気に応えてるんだ!相手にするなよ!ほら、逃げるぞ!」

真理の肩を抱きながら周りの隙を伺いながらどうしたら逃げ切れるかを考える。だが真理の返答は予想はしていたが最悪のものだった。


「違うの!私は答えようとは思ってなかったの!口が勝手に……」

「ふはははは!真理か。良い名だ!」

やっぱりこの首輪のせいか……


「よし、真理よ!結界だ!結界と唱え周りに透明な球体を作るイメージを思い描くのだ!」

「誰がそんなこと」

その言葉を言い終わる前に俺は何かに突き飛ばされるように弾き飛ばされた。その時に俺が視たのは、真理の周りに薄いガラスのような何かが覆っている光景だった。


「真司!」

手を伸ばし俺の名を叫ぶ真理。


「おお!無詠唱もできるなのか!すばらしい!よし、後はまかせたぞ。真理、こっちへ来い!」

「誰が!誰が……えっそんな!……いやー!」

真理は嫌がりながらも、ズリズリと不格好な歩き方で王の元へと歩き出した。俺は必死に真理の名を叫んで止めようとするが、体中に魔法か何かの光る鎖に拘束されていて動けなくなっていた。


これが周りの男たちの魔法か何かなのだろう。

どうしたらいい!何か真理を助ける手段は!こういう時はあれか、あれだな……くっ、まさか俺がそんなことを言うなんてな……もうすでに夢ではないのだと確信している。いや、もはや夢とかどうでもいいんだ。

これで夢であたら笑ってネタにできるじゃないか!


今はこの場を切り抜ける何かが欲しい!


「ステータス!」

恥ずかしさをこらえて叫んだ俺の言葉に反応して、ゲームのように浮かぶ青い窓が開く。何かないのか!……俺は打開できる何かを探す。そして真っ先に確認できたのが……


『真司 ジョブ:魔王』


「魔王……かよ……」

俺はその部分を凝視して思考が止まった。さっきハゲた王はこれをみて慌てていたのか……


しかし魔王ってなんだよ……これはどうしたらいい……だが惚けてばかりもいられない!そう思った時、俺の頭を切り替えるには十分な真理の叫び声を聞く。


「私にふれるなら!舌を噛み切って死ぬから!」

俺は声の方を見ると、王のそのすぐそばまで歩かされた真理が、その王を睨みつけている光景だった。


「自分で死ぬことは許さぬ!」

王はそう言って真理に手を伸ばす。


「死んでやる!」

真理のその言葉に俺は真理の名を叫ぶ。しかし真理は「あああー!」と叫びだした。これが隷属の首輪の効果なのかもしれない。苦しみに叫び続ける真理を見て俺は全身に力を入れ何とかこの場を動こうと藻掻いた。


「隷属された状態で命令に逆らうと、死ぬほどの苦しみが与えられるのだ!もう死ぬことは許されない。わかったな真理」

「そんなの……関係ないわ!」

一旦痛みがなくなったのか、ハアハアと肩を上下させながらも王を睨み続ける真理。


「丁度いいじゃない!この痛みで……死んでやるから!ああああ!」

再度痛みに藻掻く真理。おそらく王のそばから離れようとしているからであろう。足が少しづつ後ずさっているのが見える。


「くっ、わかった!もうやめよ!触れぬ。お前に今死なれては困るのだ!せっかく完全な形で聖女が召喚できたというのに!」

その言葉で真理は後ずさることを中断したのか叫ぶのをやめた。


「まあいい!早くその男を飛ばせ!」

王が左開いた手を前に突き出し白いローブの者たちに叫ぶ。


「絶対に助けるから!」

俺はハアハアと肩を上下させる真理のその姿を見届けながらそう告げる。その最中さなか、目の前の風景が反転し黒く染まった。視界が反転するその前に真理が真っすぐに俺を見て、小さくうなずくのが確認できた。


そうだ。絶対に助ける!


俺は浮遊感と共に黒い視界が開き、赤い夕焼け空の木々が生い茂った山の中へと視界が切り替わった。絶望感から俺は叫ぶ!何度も真理の名を叫んだ。そしてあの王を、この国を、この世界を絶対に許さないと声が刈れるまで叫び続けた。


暫く叫び続け、喉に痛みを感じた俺へは、悲壮感と共にその場に大の字で寝ころぶ。真理は……きっと大丈夫だ。あの様子ならしばらくはあの男、王も迂闊に手は出さないだろう。

全身に力が入らない。だがこんなことをしている場合じゃない。大丈夫といっても何があるか分からない。この異世界だ。意思を改ざんする魔法の道具かなんかがあってもおかしくはない。一日も早く助け出さなきゃ。


俺は再度ステータスを開く。


――――――

真司 ジョブ:魔王

力5 硬5 速10 魔10

パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』

――――――


さっきはゆっくりと確認できなかったからな。

魔王、はまあいいとして。能力は……強いのかどうかわからない。力は分かる。攻撃力などを示しているのだろう。硬は固さ?防御力みたいなものか?速は素早さって感じだろう。魔は魔力とかそんなのか?

でも最高値が速さと魔力の10じゃ強いわけ無いな。

まさか10が最高値なんて世界じゃあるわけがない。もしそうならあんな奴ら一瞬で蹴散らせたはずだ。もっと強くならなくてはいけない。あの国のやつらの誰よりも強く……アイツらを一瞬で屠れるほどに!


そしてさらに訳が分からないパッシブスキルと書かれた欄を見る。


『異世界語』『神の加護』『魔軍』なんだこれ。異世界語は分かる。まあ真理は言葉が分からなかった様だからこれがなかったのだろう。そしてさらにそのスキル欄を注視すると、そこに別窓で説明が現れた。


ゲームかよ……


――――――

『異世界語』異世界人特典・どんな言葉も理解可能

『神の加護』神の寵愛・成長速度促進

『魔軍』魔物の王たる力。力でねじ伏せ眷属化する

――――――


「神の加護は成長速度促進の効果があるのか!」

これは使える!これがあれば真理を助けることができる!異世界物の漫画とかならどんどん強くなっていける感じのやつだ!神の加護か……ひとまずこの加護をくれた神、感謝しといてやるよ!


俺はクリスチャンではないが、きっとこんな異世界だ。

神も悪魔もいるのだろう。

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