掌編「打ち出の小槌」
「褒めてもなにも出ないわよ?」
そうとも言えない。
褒めれば褒めるほど、家の隙間から見つかる小銭……。
一度に拾える硬貨は少なく、金額も大したことはないけれど、一ヵ月の間、見つけては拾って貯金箱に入れていたら、気づけばかなりの数の硬貨が溜まっていた。
予想がつかない額になっているのではないか……。
やったことと言えば同居人を褒めただけである。
褒めたことで小銭が見つかった――が、ここが繋がっているとも断言はできないわけだ。
だけど、褒めなければ小銭は見つからなかったし……。
「褒めたってなにも出ないのにー……褒めるのが上手よね」
「…………と言うより、褒めさせるのが上手なのかもね」
まるで打ち出の小槌だった。
こっちが褒めた後で小銭を落とし、それを拾わせる。
ここに因果関係がある、ということを発見させてしまえば、自然と褒める回数が多くなって――互いに気持ちの良いウィンウィンの関係になれる。
ただ……それだとこっちは「言わされて」るし、向こうは「言わせて」いるから、一歩引いてみれば空しい気もするけど……。
…了
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