十月三日
拝啓、お姉様。
お返事拝見しました。どうか怒りを鎮めていただきたく思います。
確かに、お姉様の希望に適うマンションの一戸が奇跡的に見つかったこと、それを別のお客さんに先に買われてしまったことは残念でしょう。ですが、住宅の内見とはそういうものではないでしょうか。一期一会です。この家がほしいと思っても、他の希望者に先を越されることもあります。さぞかし悔しいでしょう。
ですがこう考えられませんか。もしここで買っても、後になってもっといい物件が見つかったと後悔するかもしれない。私がこの住宅を手に入れられなかったことは、後々の運命の住宅に出会うためなのだ、と。
ですから、お姉様の希望する南向き、オートロック、オフィス街、三階以上、鉄骨鉄筋、駅から十分以内、築年数五年以内、コンロ三口、バス・トイレ別、宅配ボックスつきの、独り身のくせになにを見栄を張ったのかわからない2LDKかつ安い物件はいつか見つかるでしょう。物価高が収まるころでしょうか。いつになるか私のような聡明な男にも予測できませんが、それまでは今のお家でゆっくりと腰を落ち着けてはいかがですか。なぜ私が不動産屋を廻って物件を探さなければならいのでしょうか。
私は依頼された仕事を終えました。点数表も書きました。夜間の騒音調査にも赴きました。もう十分でしょう! さっさと日記を返してください。今更日記に自分への悪口を見つけたからといって怒らないでください。当時太っていたのも、転んで下着をご近所様に見せつけたのも事実ではないですか!
あと、日記については所有権に基づく返還請求をしているにすぎません。報酬にカウントしないでください。日給三万×十五日を要求する!
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