106 魔王を倒すのは必ずしも勇者じゃないってこと!
リビオのおかげでほとんどケガはないし、私もそろそろ参戦! と思って立ち上がったんだけど、それをベル先生に止められた。
え、何? まだ心配、とか? いくら過保護でもそれはないよね?
首を傾げていると、少し話を聞いてほしいと真剣な顔で言われたので頷く。
「魔王は確実にルージュを狙っている。そうとわかっていればルージュを近くに連れてきたりしなかったのに……いや、言い訳だね。本当にごめん」
「えっ、そんなのベル先生のせいじゃないよ。私だって気付かなかったし、誰も気付かないよ!」
やっぱり、狙われてたのか。私。
なんとなくね? 視線のようなものが突き刺さるなーとは思ってたんだよ。私に注目してない? って。
でも魔王だから、威圧が強すぎてそう思わされているのかなって解釈してた。
でもベル先生が言うのなら間違いない。
私は魔王に狙われている。
なんでよぉ!?
「いや、少し考えれば予想は出来たんだ。ここからは確信もないただの推測だけれど」
少し考えただけで予想がつくベル先生がすごい。
ううん、私が精一杯すぎて、簡単なことに気付けていないだけかも。
いずれにせよ、理由があるなら知りたい。黙ってベル先生の推測を聞こう。
「魔王は、ルージュがノアールと繋がっていることに気づいているんじゃないかと思う。まだ完全回復していない魔王は、ルージュを殺すことで再びループさせようとしているんじゃないか、ってね」
あ、あり得る……! くっ、それは考えつかなかったよ。
魔王からしてみれば、急に自分が攻撃され始めたんだもんね。ついに人間がきたか、くらいに思っているのかもしれないけど、邪魔なものは排除しようと動くはず。
そりゃあそうだよ。魔王の目的は完全復活なのだろうから、そのための時間を稼ぎたいに決まってる!
私を殺してループさせれば時間だけでなく魔力も回復できるんだから当然だ。
ふと魔王と戦うリビオたちに目を向ける。
なんとなく……攻撃が私のいる方向に集中している気がした。これは認めざるを得ない。
「私がここにいたら、邪魔になるかな」
「……いや」
ベル先生が珍しく言い淀んでいる。
あー……言わなくていい。わかった。
「囮になれる、ね?」
「っ、はぁ……賢すぎるのも考えものだね」
「まぁね。ベル先生の教育の賜物だよ」
にしし、と歯を見せて笑うと、軽く肩を小突かれた。とても弱々しいパンチで。
もうさ、戦いの真っ只中にいるんだからいい加減諦めてよね。優しすぎるのも問題だ。
けど、切り替えの早いベル先生は表情を引き締めるとすぐ話を進めてくれた。
「そうなると、全員にルージュが狙われていると伝えなきゃいけない」
「ん、いいよ。どうせ戦いの間は詳しいことを聞いてる暇なんてないもん。全部終わったら質問攻めにでもなんでもあってあげる」
「はは、頼もしいね。でもそうはならないよ。なんたって僕がいるからね」
へぇ、じゃあお言葉に甘えてベル先生に頼ろうっと。何を聞かれてもベル先生に聞いて、って返してやるんだから。
それで私はママと一緒にのんびり優雅にお茶をする。ああ、いいね。それはとても幸せな時間だ。
楽しい未来を妄想していたら、ベル先生が立ち上がって拡声魔法を使った。
「全員聞け! 魔王の狙いはルージュだ!」
戦っていた人たちみんなが一斉にこっちに視線を向けた。うわ、これ怖い。
現在進行形で戦ってる人はそっちに集中してー!
余所見できる相手じゃないんだから! ああもう、ヒヤヒヤするなぁ。
「ルージュに攻撃が集中する! その隙をついて攻撃を仕掛けろ!!」
たくさんいる人たちが、それぞれ複雑な表情を浮かべている。衝撃、疑問、が多いかな。当然か。
でもそこは歴戦の猛者たち。すぐに思考を切り替えて動き出したのがわかった。
実際、魔王の攻撃がこちら側に集中していることに気付いたのだろう。
あ……リビオの顔が歪んだのが見える。すごい、遠くからでもそれがわかるなんて。
ごめんね、心配ばっかりかける妹でさ。
もっと平和な世の中で出会っていたら、ワガママばかり言う手のかかる妹になってあげたのに。
「結局、私はあんまり動かないほうがいいのかな」
「そうだね。動くと攻撃がブレるし。ただ、隙をみて魔法は使ってもらうよ。そういうの得意だろう?」
ふむ、みんなに守られ、ベル先生に一番近くで守られながら標的に攻撃か。
思わず口角が上がってしまう。
「うん。大得意」
「よし!」
拳同士をぶつけ合って、私たちは二人そろって魔王のほうに体を向ける。
「二度とルージュを危険な目に遭わせないよ」
「本当かなぁ? さっきは危なかったからなー」
「ルージュは意地悪の才能もあるね。これは帰ったらカミーユにも叱られそうだ」
そうだね、ママに泣きつくことにするよ。それで、叱られるベル先生と褒められるリビオを眺めるんだ。
これまでは防戦で精一杯って感じだったけど、仲間が増えたから形勢逆転だ。
勇者パーティーだけが魔王と戦う時代はもう古い。
今は、この国に生きるみんなが力を合わせて魔王に立ち向かう時代なのだ。
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