第3話 四天王来襲!

 その頃、固有魔法習得に励むピーチは、ついにコアとのシンクロに成功する。右手でステッキを握り、左手をステッキ先端のクリスタルににかざして集中していたところで、突然彼女の頭に中にイメージがパアアと広がってきたのだ。


「やった!」

「掴んだ?」

「はい、コアの仕組みとそれにどう魔力を流せばいいのかの感覚が突然分かりました!」

「ヨシ! 合格!」


 先輩魔法少女に太鼓判を押され、ピーチは満面の笑みを浮かべた。その喜びを伝えたい友達はまだ帰ってきていない。変身を解いてキョロキョロと室内を見合わたすももを見た由香は、右手を腰に当てて軽くため息を吐き出した。


「アリスちゃんはまだ帰ってきてないわ。彼女も何か修行をしているみたいよ。大丈夫、トリから連絡は受けてる。心配ないわ」

「固有魔法を覚えてやっと隣に立てると思ったのに、また先に行かれちゃうかぁ」

「ふふ、頑張って追いつかなきゃね」


 2人が談笑していたところで、さっきまで大あくびをしていたマリルの全身の毛が突然逆だった。それはつまり――。


「またゲートが開いたわ! この感覚は……ヤバいわよもも!」

「行こう!」

「がんばって! 敵に強くなったももちゃんを見せてあげて!」

「はい!」


 家を出たももはすぐにステッキを生成し、素早く変身する。


「マジカルチェンジ! 魔法少女ピーチ!」


 固有魔法習得の流れで自然に身についた飛行魔法を使い、ピーチは敵が出現した場所に向かって飛んでいく。この時、マスコットのマリルもすぐに彼女の肩にしがみついた。


「飛べるようになったんだ」

「本当に偶然にね。コアの感覚を掴もうとしていなかったら、もっと時間がかかったかも」

「よーし! 最速で行けーっ!」

「まーかせてっ!」


 覚えたてのピーチの飛行魔法の速度は時速60キロくらい。それでも、風を切っての初飛行はかなりの体感速度を彼女に与えていた。


「気持ちいい~っ!」

「曲芸飛行はまた今度にして~」

「そだね! 今は最短距離だ!」


 ピーチは様々なアクロバットを試したい気持ちをぐっと押さえ、まっすぐ最短距離で現場に急ぐ。その道中で、気配を感じ取ったマリルから敵に対するレクチャーを受けた。


「今度は四天王全員がやってきてる。全員が最初からものすごい気迫に満ちてるよ。舐めプしよとしているヤツは1人もいない」

「だって全員一度倒しちゃってるもんね。きっと対策をしてきてんだろうな」

「あら? その割に余裕じゃない?」

「だって私も強くなってるもの。早く固有魔法の効果が見たいよ」


 ピーチはステッキを強く握り、現地に着いた後の激戦に心を高ぶらせる。そんな彼女を見て、マリルもまた安心したのだった。



 その頃、ゲートから降りた四天王4人は事前に決めた通りにフォーメーションを組み、それぞれが周囲を見渡す。


「出てこい魔法少女! 今度こそ俺様達がお前らをこてんぱんにしてやる!」

「そんなすぐには来ないよ」

「キース、こう言うのは気合が大事なんだ!」


 ディオスは自分の気合に水をさしたキースをたしなめる。この地にいるのは、幼女と男の子とイルカとイキリ青年。それが今の魔王軍四天王。もしかしたら魔王軍も人材不足なのかも知れない。

 いや、それだけこの4人が実力者だと言う事なのだろう。


 言い合ってる2人をおいておいて、ココとポンポはそれぞれの配置につく。ココは魔物達を、ポンポは大量の蟲を街中に解き放った。


「こうやって住民を人質にすれば、魔法少女は手も足も出ないのよ!」

「オラ達は、そうやって動けない魔法少女をなぶり殺しにするんだべ!」


 2人は自分達の役目を忠実に果たし、悪役らしく高笑いをする。これらの手下達は魔法少女の動きを封じるためのコマなので、最初から暴れさせたりはしない。

 キースが考えた作戦はこうだ。まずは魔法少女が対応しきれないほどの手下を街中に忍ばせ、街を守りたければ抵抗するなと動きを封じる。その後は全員でフルボッコ。


「キースの考えた作戦は完璧なのよ!」

「ああ、オラ達だけなら絶対に思いつかんかったべ」


 ココとポンポが邪悪な笑みを浮かべていると、上空から何が近付いてくるのが見えた。先に気付いたポンポが、それに向かって指を刺す。


「あれは何だべ?」

「鳥なのよ!」

「飛行機だべか?」

「や、あれは……」

「「「「魔法少女だー!」」」」


 四天王全員が声を揃え、そのタイミングで上空からピーチが急降下して地面に着地する。そのタイミングでマリルは飛び降り、ピーチは着地と同時にステッキを斜めに構えて見栄を切った。


「愛と希望と勇気の魔法少女ピーチ! この街は私が守る!」


 この格好つけた登場に、流石の四天王もちょっと呆れる。


「何? すごく恥ずかしいのよ」

「流石のオラもついてけないべ」

「あぁ、見てらんない……」

「俺様は好きだぜ、そう言うのはよぉ!」


 四天王から厳しいツッコミに、ピーチもすぐに顔を赤くする。


「な、こう言うのは大事でしょ! 四天王のくせにノリが悪いよ!」

「うっさいわね! それよりリリスはどこなのよ? ココ達は単独では倒せませんわよ! 2人がかりでも無理でしょうけど」

「ちょ、ちょっと遅れてるだけよ!」


 りりすの事を聞かれたピーチは、詳しい事情を何も知らない事もあって秒でごまかした。一番厄介な存在が不在と言う事を確認した四天王達は、作戦の成功率が上がった事で突然態度が大きくなる。


「ふん! あなた1人なら楽勝で勝てますわ! 物足りないですわ!」

「あら? 私が相手じゃ不足かしら?」


 四天王側の態度から彼らの思惑を読んだピーチは、自分が全く相手にされていない事実を感じ取って不敵に笑う。

 ディオスはこの会話がりりすが来るまでの引き伸ばしだと判断して、作戦の開始を告げた。


「リリスが来る前の前哨戦だ。やっちまえー!」

「「「おーっ!」」」


 四天王が事前に考えてた作戦は飽くまでも対りりす用のもの。現れたのがピーチ1人ならそんな小細工は必要ないとばかりに、全員が一斉に襲いかかる。この状況に、ピーチはニヤリと口角を上げた。

 そのタイミングで、状況を冷静に見定めていたマリルが叫ぶ!


「ピーチ、今よっ!」


 その掛け声を合図に、ピーチは握っていたステッキを頭上にかざした。


「ホワイトインパクト!」


 詠唱と同時に、彼女の握っていたステッキの先から白い魔法の光が同心円状に広がっていく。既に動き始めていた四天王達は避ける事も出来ず、次々にこの光をまともに浴びていった。


「この光は何なのですの?」

「うわああ! オラまぶしいのはダメだあ……」

「し、白い光……? まさか……」

「こんな光に俺様は負けぬうう!」


 ピーチは、四天王全員に自身の固有魔法を浴びせた事に満足する。彼女自身、この魔法を実践で使うのは初めてであり、魔法の効果も全然把握出来ていない。

 光を浴びた相手が誰ひとり傷ついていない事から、攻撃魔法でない事は理解が出来た。


「私の固有魔法、どんな効果なんだろ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る