魔法少女りりす! トリ救出大作戦!

にゃべ♪

第1話 いなくなったトリ

 トリは見た目がゆるキャラの鳥のぬいぐるみのような、魔法少女のサポートファエリー。彼は苦労の末、タイムリミットギリギリでようやく自分がサポートする少女を見つける。

 しかし、彼女、天王寺アリスは元敵側の幹部だったのだ。


 街を襲ってきた四天王の2人目までを追い払い、魔法少女達は今後の展開についてアリスの部屋で作戦会議をする。

 出席したのは、家主の天王寺由香、アリスのマスコットのトリ、2人目の魔法少女の木原もも、もものマスコットで大きめなモフモフ白猫の元四天王のマリス、そしてアリスだ。


 街を守るメンバーが揃ったところで、まずは年長者の由香が全員の顔を見渡しながら口火を切る。


「やっぱりまた四天王は襲ってくるだろうね。2人で守れそうかな。援軍も呼ぶ?」

「魔王軍は各地で暴れているホ。援軍は期待しない方がいいかもホ。そもそも魔法少女は人手不足になってるホ。絶対的な数が少ないんだホ」


 トリは今の魔法少女の事情を熱っぽく説明し、視線をアリスに注ぐ。


「な、何? そりゃ暗部にいた頃に何百人も魔法少女を刈ったけど……。じゃあ、あのステッキの封印を解けば」

「あの時アリスに封印された魔法少女は全員自信をなくして辞めたホ。もう戻ってこないホ」

「じゃあ意味ないじゃん。あの時のステッキ、まだ持ってるのにな」


 アリスはアリスで、一度の敗北で簡単に心が折れてしまった魔法少女達に失望する。魔法少女とそのパートナーがバチバチに火花を散らす中、後輩魔法少女のももはこの状況に手も足も出ない。


「あわわわ……」

「あのさあ、今はどうするかって話でしょ。援軍が無理なら私達で守るしかないじゃん」

「そ、そうです。マリルの言う通りです」


 こうして議論はリセットされ、魔法少女2人でどうやって街を守るかについての話し合いが始まる。この会議でラッキーだったのは、メンバーの中に元魔王軍の幹部が2人いると言う事だった。

 由香はアリスをじっと見つめ、アドバイスを求める。


「残りの2人はどう言うヤツなの?」

「えっと、メンバーが入れ替わってなければ、獣人のキールと鬼人のディオスだっけ。どっちが厄介かと言えばやっぱディオスかな。武闘派だし、脳筋だから。キールは頭脳派なんだよ。だから逆に話し合いも出来る……かも」

「その2人との面識は?」

「残念ながら。ただ、向こうがあーしを研究している可能性はあるかも。あーし、魔王を襲った裏切り者だかんね」


 そこまで話して、アリスは自嘲した。その後も四天王がやりそうな戦法を研究したり、その対策を考えたりと会議は白熱する。やはり先輩魔法使いの由香の話が一番説得力があり、彼女が考えた方法を採用する事で話し合いは終わった。

 アリスがぐいーっと背伸びをする中、由香がメモを読み返していたももに声をかける。


「お疲れ様。あ、もう18時30分。ももちゃん門限とか大丈夫?」

「今からまっすぐ帰れば問題ないです」

「じゃ、気をつけて帰ってね!」


 この日は特に何事も起こらず、アリスは日付が変わる前に寝床につく。そうして、田舎の静かな夜は更けていった。

 翌朝、いつまでも起きてこないアリスに由香がしびれを切らす。


「起きなさい! なんで今日に限って寝坊なの!」

「はえっ? 嘘でしょ? もうこんな時間?」

「まったく。いつもどうやって起きてたの?」

「それはトリりんが……いない?!」


 そう、アリスは毎朝トリに起こしてもらっていたのだ。だからこそ、いつも起床時間を気にせずに熟睡出来ていた。今朝寝坊したのは、その目覚まし役が不在だったからだ。

 アリスは必死に部屋中を見回して、最後に家主の顔を見る。


「どうしよう、トリりんがいない」

「ええっ! 昨夜何かやらかしたの?」

「いつもと同じだったよ。トリりんもそこの布団で寝てたはず。きっと何かあったんだ……。ダメ、テレパシーも通じない。これって穏やかじゃないよ」


 今朝になってからの異常事態。2人はこの現象について考えを巡らせる。今の状況でトリが自発的にいなくなったと言うのは考えられないので、外部的要因の可能性についてお互いに考えをぶつけ合った。


「夜中に誰かに呼ばれてそのまま捕まったとか?」

「でも、魔族が近付いたらきっとあーしは気付くよ」

「じゃあ、トリは一体どこに? とにかく探そう」

「それっきゃないね」


 こうしてお互いの考えがまとまったところで、2人はそれぞれの方法でトリの捜索を始める。由香はSNSなどのネットを駆使して目撃情報を調べ、アリスは外に出てそれらしき気配を探した。

 始業時間になってもアリスが登校して来ないので、ももは不安な気持ちになる。


「アリスちゃんに何かあったのかな?」


 この独り言に、髪飾りに擬態しているマリルが反応した。


(今由香と連絡を取ったら、トリがいなくなったって……)

(嘘?! どうしよう?)

(今アリスはトリを探してる。合流する? 由香は心配するなって……)

(勿論アリスちゃんの手伝いをするよ!)


 こうして、もももトリの捜索に参加する。体調不良を申告した彼女は魔法少女に変身。その認識阻害機能を利用して、学校を抜け出した。


「さあ、トリさんを探すぞ~!」


 その頃、パートナーマスコットを探すアリスは自分の勘だけを頼りに街をぐるぐると歩き回っていた。


「トリりーん、どこいんの~? 返事しろしー!」


 駅前を回って、商店街を歩いて、公園を覗いて、海岸に出てみて――。そのどこにもトリの気配はなかった。魔法少女とマスコットはある程度距離が近付くとお互いに感覚で位置が分かる。それが絆の力。この共感覚の範囲は、お互いの絆が深まるほど広がる。

 だからこそアリスは歩き回っていたものの、結果は全くの無反応。ただ無意味に歩き回ったと言う現実だけを体験して、トボトボと由香の待つ家に戻ってきた。


「ただいまー」

「お帰り。どうだった?」


 家主からの問いかけに、アリスは力なく顔を左右に振る。その疲れ切った寂しそうな顔を見て、由香は彼女を優しく抱きしめた。


「大丈夫。きっと見つかる」

「そんな気休め……」

「もうお昼だし、とりあえずご飯にしよう。あ、トリに会えず……まさにトリあえずだ」

「こんな時に笑えないし」


 アリスは気持ちを沈ませたまま昼食を取る。ご飯のおかずはコロッケに焼き鮭に千切りキャベツに味噌汁。何とも慎ましやかなものだ。ウスターソースをかけて黙々と食べる。食べる。

 ある程度皿の上のものが片付いた所で、アリスは顔を上げる。


「多分、トリりんはこの街にはいない」

「だろうね」

「きっとこれは四天王の仕業だ。キース、あいつが動いてる」


 この推測を聞いた由香は、アリスの顔をじっと見つめる。


「場所の見当はついてるの?」

「狭間の空間。つまり、人工の異世界。助けに行かなきゃ」

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