魔法少女りりす! 激闘の日々
にゃべ♪
りりす、無茶は禁物ホ
トリは見た目がゆるキャラの鳥のぬいぐるみのような、魔法少女のサポートファエリー。彼は苦労の末、タイムリミットギリギリでようやく自分がサポートする少女を見つける。
しかし、彼女は元敵側の幹部だったのだ。
魔界蜘蛛を倒した翌日から、アリスの住む舞鷹市に堰を切ったように魔物が頻繁に現れ始める。アリスはその度に魔法少女になって対処するものの、今までがのんびりペースだっただけに、突然の多忙状態に少しずつ疲労が蓄積されていった。
夜、顔色が優れない事を察知したトリは、ベッドに寝転がる彼女に声をかける。
「大丈夫ホ?」
「よゆーよゆー。あんなの数にも入らないし」
「ならいいんホけど……」
翌日、教室でアリスがあくびをしていると、隣の席のももが話しかけてきた。
「毎日大変そうだね。大丈夫?」
「え?」
「あ、転校したてだから大変かなって……」
「ああ、うん。大丈夫大丈夫!」
アリスはももに魔法少女の活動を見透かされているのかと思ったものの、すぐに首を振ってその不安をかき消した。
学校にいる間に抜け出した場合は戻った時に記憶を書き換える魔法をかけているし、彼女自身、自分の魔法の精度に自信を持っていたからだ。
そして、この日も街に魔物が現れ、アリスは学校を抜け出すのだった。
「マジカルチェンジ! 魔法少女りりす!」
日を追うごとに街を襲う魔物は数も頻度も増していく。倒して変身解除をしたそのタイミングでまた襲ってきたりもする。日々のバトルによって体にダメージは残らなくても、彼女の精神的なストレスは確実に溜まっていった。
チートクラスの実力を持っていても、1日に何度も数百人の記憶をいじるのはかなりの魔力を消耗する。魔物を倒すより、記憶改ざんによってアリスは疲弊していった。
「無茶し過ぎホ」
「この街はあーししかいないじゃん。休めんでしょ」
「それはそうだけどホ……」
トリはストレスを溜めながらどんどん心の余裕を失くしていく彼女を見て、単独で街を守る今の状態に限界を感じる。今までは他地域でも毎日魔物が現れると言う事はなかった。だから担当区域に魔法少女は1人で良かったのだ。
「この状況はやっぱりおかしいホ。妖精界に報告するホ」
彼は現状報告と追加の魔法少女の派遣を職場の上司に要請する。しかし、魔法少女も人数ギリギリで回していたため、今すぐには動けないと言う事だった。
「本当に申し訳ない。今は余裕がないんだ。出来るだけ早く対処するから……」
「分かりましたホ。無理を言ってしまい、こちらこそ申し訳ないホ」
「しかしその魔物の数、もしかしたら幹部にターゲットにされたのかも知れないな。しっかりサポートを頼む」
「任せくださいホ!」
トリは胸を張って景気のいい言葉を返して通信を終える。妖精界からのサポートが期待出来ない以上、自分が頑張らねばと気合を入れ直すのだった。
街に現れる魔物の出現は常に日中で、それ以外の早朝や夕方以降で現れる事はなかった。しかも、学校が休みの日にも現れない。逆に言うと、アリスが学校に行っている時間帯を狙って魔物が現れていた。
この事実を検証するために、トリはある提案をする。
「アリス、今日は学校をサボってみないかホ?」
「は? 絶対嫌だし」
「いや、これは実験なんだホ。敵はアリスが疲弊するように仕向けているのかも知れないんだホ」
「そんなのとっくに分かってるし。だからってそれで逃げたらあーしが負けたみたいじゃん。そっちの方が嫌だし。プライドの問題だよ。分かるっしょ」
いつもより雄弁に語る姿を見て、トリは彼女が限界に近い事を感じ取った。今はまだ小さな心のささくれがこれ以上大きくならないようにしっかりサポートしようと、彼は決意を強く胸に刻む。
そうして、その日の午前中にまたしても街にゲートが開く。ちょうど2時間目の授業中だった彼女は勢いよく右手を上げた。
「せんせートイレー」
現れたゲートから大量の魔物の出現を感知したアリスは、許可を得た途端に猛ダッシュで教室を出ていった。クラスメイトはそれだけ我慢をしていたんだなと、全員が優しい眼差しで彼女を見送る。
そんな中、隣の席のももは心配そうな表情を浮かべるのだった。
いつものように魔法少女りりすに変身して、彼女は現地へと飛ぶ。そこで目にした光景は100匹以上の昆虫型魔物の群れ。
それは、りりすが今までに遭遇したどの場面よりも大量の襲撃だった。
「またこんなに沢山! マジムカつくーっ!」
りりすはステッキを振り続けて魔物を倒しまくる。数が多い内は攻撃魔法の命中精度も高かったものの、減らす度に魔物の素早さも上がっていき、外す事も多くなっていった。
攻撃を外して建物を壊す訳には行かない。被害を最小限に抑えるため、外した魔法はすぐにキャンセル。その魔力操作もまた彼女をヒドく疲弊させていった。
「ハァハァ……。流石にしんどうわっ!」
軽く肩で息をしている彼女の背後から魔物達の魔法攻撃。それ自体は防御魔法で防いだものの、勢いを殺しきれずにりりすは吹き飛ばされた。
格下と思っていた相手からの攻撃を無効化しきれなかった事から、彼女の中で何かが切れる。
「マジ怒ったー!」
地上に降りたりりすは、ステッキを両手で握って地面に立てた。そうして意識を集中させると、まだ生き残っている魔物を超感覚で把握していく。全ての魔物のマーキングが終わったところで、彼女はカッと目を見開いた。
「マジファイアオールレンジ!」
詠唱終了と供に、無数の炎弾がそれぞれのターゲット向かって射出されていく。まだ何十匹も残っていた魔物はこの魔法で全て無に帰していった。
最後の1匹が燃えて灰になったのを見届け、りりすは大きく息を吐き出した。
「やっと終わったぁ……」
流石の彼女もこの魔法でかなり体力と魔力を消耗したのだろう。その視線は地面に向く。それは全ての警戒を解いた瞬間でもあった。感知した魔物を全て倒したのだから当然とも言える。
トリも彼女を労おうと、一番元気づけられる言葉を探していた。
その時、りりすの死角からビームのような魔法が放たれる。油断していた彼女は、防御魔法を展開する間もなくステッキを弾き飛ばされてしまう。
りりすの手から離れたステッキは不自然な軌道を描き、攻撃をしてきた相手の手に収まった。
「やっと隙を見せてくれたのよ」
「誰ッ?」
りりすは声のした方向に顔を向ける。そこにいたのは、見た目が10歳くらいのロリっ子レオタードの少女。まだ幼い見た目もあって、衣装がとんでもなく似合っていない。見た目はともかく、元魔王軍幹部の隙を狙って出し抜けるその実力は本物だ。
この強敵の出現に、トリはゴクリとツバを飲み込んだ。
「りりす、あいつかなりヤバいホ!」
「わーってる!」
「まさかとは思ってましたけど、まさか本当に裏切っていたとは残念なのよ」
「あんた、まさか……」
認識阻害魔法が発動しているのに正体が見破られている。この事実にりりすは戦慄を覚えた。魔法少女の常時発動魔法を見破るにはそれに見合ったレベル以上の実力が必要。つまり、目の前の年下に見える少女は、実力的にりりすと同等かそれ以上と言う事になる。
彼女は自分の記憶を総動員して魔王軍の実力者と照合してみるものの、該当者は見当たらなかった。
「まさか……誰なの?」
「知らなくて当然なのよ。ココが今の地位についたはその後だから」
「だから誰!」
「ココはあんたに憧れてたのよ。でも魔王様を裏切った。それはココも裏切ったと言う事なのよ。これは絶対に許されない事なのよ!」
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