第2話:異世界

気が付くと、私は森の中に倒れていた。

あれは夢だったのか、とも思ったが、私は体に変化が起きていることに気が付く。

まず、戦場で受けた傷が跡形もなく治っている。

他にも、服装が変わっていたり、耳の形が尖ったものになっていたり・・・。

しかし、何よりも特質すべき点は、私の肉体が20代の頃に若返っていることだ。

しかも、肉体が若返っただけではなく、全盛期の頃の肉体になっている。

普通ならあり得ないことだ。

だがもし、先程の体験が本当なのだとしたら、

私は女神の手によって転生させられた、と言うことになる。

しかも、前の世界とは異なった世界にだ。

周りの植物は地球上のどの国でも見たことがない。

それに、この尖った耳。

私が知識不足なだけかもしれないが、

こんな耳をしている人種を私は見たことがない。

・・・状況の整理が終わったところで、私はこれからどうするべきか。

いや、転生したからと言って、趣味趣向が変わるわけでもない。

この世界でも、傭兵として生きていくだけだな。

幸い、愛用していた刀と弓は奪われなかったようだし・・・何とかなるだろう。

私はゆっくりと体を起こして、歩き出した。



森の中を彷徨っていると、1ヵ月程経過していた。

すると問題になって来るのが食料だ。

植物は、地球の物と大きく異なっているため、一切口にできない。

森やジャングルの中で体調を崩せば、命はない。

特に、猛獣の類が住み着いている場所ではな。

地球の物とは大きく異なっていたが、この世界にも動物がいた。

異なっている部分は、大きさが3倍くらい大きくなって、

凶暴さも増していたことだな。

奴らは、私を見るや否や襲い掛かって来た。

だが所詮は獣、単純な動きなら躱すことも往なすことも容易い。

しかし、奴らからこっちに向かってきてくれるお陰で、

手間は掛ったが食料に困ることはなかった。

そうして、彷徨い、狩り、彷徨い、狩りを繰り返し、

今日、森から抜け出すことが出来た。


「そこの兄ちゃん!大丈夫か?」


森を抜けた先が丁度村で、薬草取りに来た者に私は見つけられ、話しかけられた。

者。妖と言うべきか。その者は狼男の様な見た目をした存在だった。

しかし人語が話せる上、戦ったことなどなさそうな雰囲気だ。

殺そうと思えば、既にこの者を6度は殺せている。

それに、此処は元の世界とは異なる世界だ。

人間が存在しているかどうかすら分かっていない。

こういった者らが、この世界の人間という可能性も十二分にあり得る。


「いや、問題ない。それで、貴殿は一体?」


私の質問に、彼は何の疑いもなしに回答した。

曰く、彼はこの先の村の薬師で名をアーガスと言う。

彼は自らや村のことを多く話してくれたが、

この世界については語ってくれなかった。

故に、私は産まれた時よりあの森の中で暮らし、

両親が他界したのを折りに森を出ることにした者で、世情に疎い存在。

だと彼に説明した。

彼はそんな私の作り話を信じ、自らの家に招待してくれた。

そこで、この世界のことを色々と話してくれるらしい。


「そうじゃな・・・まずは重要なことから話すかの」


そう言うと、アーガス殿はこの世界の基本知識から教えてくれた。

まず、私のいるこの大陸は中央大陸モルテデュヴァと言うらしい。

モルテデュヴァには、大まかに分けて三つの勢力がある。

人、亜人、魔物だ。しかし、大陸の8割を支配しているのは、

ウルヴィア帝国と言う人間の国。

亜人と魔物は辺境と呼ばれている地に住み、

辺境の8割を亜人が、残りの2割を魔物が。という状況だ。

さらに、亜人にはエルフ、ドワーフ、獣人、と言った多種多様な種族がおり、

それぞれ住む領域が異なる。

ついでに、私の種族はエルフ。その中でも、数少ないハイ・エルフとのことだ。

各種族は異なる領域に住んでいるが、敵対関係ではない。

単に、それぞれの種族が住みやすい領域に居を構え、生活しているからだ。


「それと、今から話すことはとても重要じゃ・・・」


アーガス殿からこの世界について教わっていると、

外から女性と子供の悲鳴が聞こえて来た。

私は即座に外へ出て、周りの状況を確認する。

馬の蹄の音、逃げ惑う村人の足音、矢の風切り音、家屋が焼ける音、

獣が焼ける様な臭い・・・敵襲だ。

そう分かった瞬間、私に向かって数本の矢が飛んでくる。

が、私は瞬時に刀を抜き、飛んで来た矢を全て叩き落とした。


「ちっ。面倒そうな奴がいるな」


私に矢を放った者の一人が、弓を捨て、剣を抜きながら言った。

・・・ふむ。相手は人間のようだ。見た目から察するに騎士ではない。

が、野盗の類にしては服装が整っているし、不潔さも感じない。


「奴隷商じゃっ!」


私が敵の正体について考察していると、後方からアーガス殿の声が聞こえて来た。

なるほど、奴隷商か。それも恐らく合法の。

村の中に十数人、村を囲むように数十人が配置されている。

鎧こそ着ていないものの、剣は手入れされている上、馬も良いものばかり。

ふはははは。面白い。敵は強大ならば強大な程、良い修練になると言うもの。

私は大きく息を吸い込んだ後、私に矢を放った者達に一気に詰め寄り、

首を斬り落とす。


「なっ!」


一瞬にして数名の首を断ち切った私の剣筋を、

村の中にいる連中は捉えることが出来なかったようだ。

その証拠に、奴らは驚き戸惑っている。

こういった戦いには慣れている連中と思っていたが・・・

どうやら、狩りしか経験したことのない軟弱者達だったようだ。

しかし、新しい体での戦闘の馴らしに付き合ってもらうことにしよう。

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