第14話 プロポーズされた!―恋愛を続けていたいと言ってしまった!

私が食中毒から回復してから二人の付き合い方にも変化があった。まず、会社の廊下でそばに誰もいないに時に会ったとき、私は以前にも増して、先輩に嬉しそうな笑みを見せるようにした。それは二人が先輩後輩以上の関係であると周りも分かったこともあるだろう。


あれから毎週末になっていたデートは、先輩が私の部屋を訪れて夕食を食べて愛し合ってお泊りして帰るというパターンと、二人が行きたいところへ出かけてから外食をして先輩の部屋へ戻って来て愛し合ってお泊りして帰るというパターンになっていた。


◆ ◆ ◆

私は敏感になってきて、愛し合っている間に何回も昇りつめるようになっている。その時は黙って力いっぱいに抱きつく。そうしないとどこかへ行ってしまいそうになる。先輩もそれが分かるのか力いっぱい抱き締めてくれる。幸せを身体いっぱいに感じることができる。先輩もそうなっていることを喜んでいるみたい。


敏感になったわけはあるものを一人の時に使っていたからだ。ある時にDVDで使われていたものをネットで調べてみたところ、いろいろなタイプや形のものがあることが分かった。


それを先輩も言っていたように興味本位で選んで買ってみた。恥ずかしいので品物はコンビニ受け取りにしたが、それとは全く分からないように包装されていた。


振動するタイプと吸い付くタイプの2種類をさっそく試してみることにした。振動するタイプをあそこに当てて、マニュアルどおりに最初は弱く徐々に強くしていく。指だけよりずっといい、気持ちいい、病みつきになりそう。


次に吸い付くタイプを試してみる。あそこに当てた瞬間に吸い付いた。使っていると快感で腰が震えて身体に電気が走ったようになって力が抜けて気を失いそうになった。初めての経験だった。きっとこれがイクっていうことだと思った。


◆ ◆ ◆

私は愛し合った後はいつも先輩に抱きついて一緒にいたいと言っている。先輩が帰る時はいつもまだ帰らないでと駄々を捏ねていた。私の一緒にいたいという思いは募ってきている。


先輩は私が入院した時に先輩が保証人欄に婚約者と記載したことをとても喜んでいたことを覚えてくれている。先輩も本当の婚約者になっておかなければならない、早くけじめをつけておかなければならないと思ってくれているようだ。それはよく分かっている。


私はこのごろプロポーズを待っている。先輩は私がプロポーズを受け入れてくれるのは間違いないと確信していると思う。その準備もしてくれていると思っている。


いつか相談したいことがあって話を聞いてもらっているとき、私が右手の薬指の指輪をいじって回していたことがあった。


「その指輪、素敵だね、どうしたの?」


「これは就職して最初のお給料をもらったときに買ったものです。よくここまで頑張れたという自分へのご褒美です」


そのとき、何気なくサイズを聞いてくれた。


それから子供のころの話をしていたとき私の誕生日を聞いていた。小学校に入学した時、3月生まれだから身体が小さくてランドセルがとても大きく重いので大変だったけど、今は3月生まれは同期より一年若いので得していると話した。


◆ ◆ ◆

昼休み、先輩から携帯に電話が入った。こんな時にゆっくり話せない。電話なら夜の落ち着いた時にしてくれればよいのにと思った。


「今週の金曜日、大切な話があるから、新橋の和食店『四季』へ7時に来てくれないか?」


「大切な話ですか? 分かりました。『四季』へ7時に伺います」


先輩は緊張していた。声で分かる。先輩の悪い癖で一度思い立つともう居ても立ってもいられなくなって行動に移してしまう。そのせっかちな性格がお付き合いするうちに理解できてきている。


『四季』はあの日『恋愛ごっこ』をやめて本当の恋愛をしようと言ってもらった思い出の店だ。先輩はどこにしようかと迷ったはずだ。あそこなら個室もあるし、和食のフルコースもある。周りを気にしないでゆっくり話せる。打ってつけの場所だ。間違いない!


昼休みが終わって居室にもどる途中に先輩に会った。先輩は私に会って落ち着かないようすだった。私は余裕を持っていつもどおりニコッと笑みをあげた。


◆ ◆ ◆

約束の金曜日、先輩は早めに会社を退出して「四季」へ向かった。この時も私は早めに出口から離れたところで先輩の出てくるのを待っていた。そして先輩の後を少し離れて歩いていった。


6時30分には「四季」着いた。約束の30分も早い。ほんの少しだけ間をおいて私も店に入った。先輩は私を見て驚いていた。係の人が二人を奥の個室へ案内してくれた。この部屋は初めてだった。掘りごたつの席で落ち着ける部屋だった。さすが先輩。


飲み物にサワーを二つ頼んでくれた。すぐに先付が運ばれてきたが、料理は少し時間がかかると言われた。7時からの予約だった。とりあえず乾杯したが間が持たない。先輩は緊張している。


「大切なお話ってなんですか?」


「そのことだけど、この前は『恋愛ごっこ』をやめて本当の恋愛をしたいと話したけど、今日は『恋愛』はもうやめにして結婚してほしい。どうかお願いします」


「でも『恋愛』はやめたくありません」


「ええっ、どうして」


先輩は動揺を隠せなかった。私はすぐに先輩の動揺に気づいて話し続けた。


「いつまでもお互いに恋愛をしていたいからです。もちろんプロポーズをお受けします。とっても嬉しいです。ありがとうございます」


「よかった。一瞬、断られたかと思った」


「お答えの順序が逆になってしまってごめんなさい」


「いや、僕の言い方が悪かった」


「お断りするなんて、そんなこと絶対にありえません。入社して初めてお会いしてからずっとこの時が来るのを夢見て待っていましたから」


「そうだったのか? 早く気がつかなくてごめん」


「お気になさらないで下さい。いつかおみくじを引いた時に末吉が出ましたね。そのとおりになっただけです」


「これを受け取ってほしい。婚約指輪だけど、3月の誕生石のアクアマリン。沙知に似合うと思って僕が探して選んだデザインだけど、気に入ってもらえると嬉しい」


私はケースの中の指輪を見た。横一文字に小さなアクアマリンが並んだ素敵なデザインの指輪が入っていた。嬉しくて嬉しくて涙が出そうになった。


先輩はその指輪を左手の薬指に嵌めてくれた。そして私の薬指に口づけしてから、唇にもそっとキスしてくれた。


「とっても素敵な指輪ですね。このデザイン大好きです。こんな高価なものをありがとうございます」


「いや、もっと高価なものをと思っていたけど、値段は申し訳ないほど安かったから」


「そんなこと関係ありません。私に似合うと選んでくれたのが嬉しいんです。ありがとうございます。大切にします」


丁度良いタイミングで料理が運ばれてきた。これでゆっくり味わって食べられる。それからは料理を食べながらいつものように話がはずんだ。私は一皿一皿味わいながら食べた。そして私は就職して半年後に配属されて先輩と初めて会った時のことを話した。


「百瀬先生から先輩の吉岡君に面倒を見てくれるように頼んでおいたから挨拶に行くようにと言われていました。それでご挨拶に行ったのを覚えていますか?」


「ああ、百瀬先生に頼まれていたリクルートスタイルの地味な女子が挨拶に来たのを覚えている」


「私、そんなに地味だったですか? あれでも形の違ったスーツ2着を交互に着て、ブラウスも毎日変えて、おしゃれしていたんですけど。今でも毎年新調しています」


「東京で派手なスタイルを毎日見ているとどうしてもそう見てしまうんだ。でもあの突然の変身には驚いた。急に綺麗で可愛くなって、あの時から沙知のことが気になりだした。男はだめだね、話していると心が和む良い娘だと思ってはいたけど、見た目に捕らわれてしまって」


「私は一目見ただけでかっこいい素敵な先輩だと憧れてしまいました。それで何かと面倒を見てもらううちに本当に好きになってしまって『恋愛ごっこ』をしてみないかと誘われたときは本当に嬉しかったです。それに彼女がいないと分かったから、気に入られようと一生懸命におしゃれしました」


「それで今度は僕が夢中になってしまった。なるようになったということだろう。沙知とはなぜか気が合って一緒にいると心地よいというか癒されるのが分かった」


「私もそうです。一緒にいると幸せな気持ちになります」


「お腹が一杯になったところで帰ろうか? 今日はこれから僕の部屋に来ないか? まだ、放したくないから」


「私も一緒にいたいからそうします」


私は化粧室へ立った。戻ってくると先輩はもう会計を済ませていた。今日は記念の日だから自分が持つと言って『恋愛ごっこ』をやめた日のように私の肩を抱いて駅へ向かった。

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