33


「変身っ!」


 落下しながら、ぼくは叫んだ。


 ぼくの身体がまばゆい光につつまれる。


「出てこいっ! ユメ・ブレード! おりゃあ!」


 突きあげてくる太い触手を、光の剣で切り裂いた。


「(ウオオオオオン!)」


 悪魔が叫ぶ。しっかりとした手ごたえ。切断面から茶色い体液が吹き出す。触手の先端が、顔の真横を通過して上空に消えていく。


「よしっ」


 ぼくは宙空で半回転して体勢をととのえる。


 頭が上で、足が下。


 悪魔と同じに向きをあわせる。ゼリー型の悪魔の底面と同じ高さになったとき、足を踏ん張り着地した。


 どさっと音がする。ちぎれた触手が落ちてきた。ぶるんぶるんとのたうちまわる。悪魔の茶色い体液が、異臭を放ちながら四方に撒き散らされる。


「(ダレダ、キサマ……)」


 悪魔の声が言葉になって、直接ぼくの脳に響く。


 今まで百万べんも聞いたセリフだ。


 白黒のコスチュームに全身をつつんだぼくは、ユメ・ブレードをななめにかまえた。


 正面を見ながら叫ぶ。


「おれは……バクマン!」


「(クタバレエエエ!)」


 言葉の途中で悪魔の触手が大量にぼくに向かって振りおろされた。


 たずねておいて、それはないんじゃないかと思う。


 だが、そんなことを言っているひまなんてない。てらてらとぬめって光るピンクの触手が、ぼくに向かって殺到してくる。


「はっ」


 ぼくは触手と触手のあいだにあるわずかな隙間をぬって、ジャンプする。


 丸太のような太い触手を手近なものから蹴りあげて、上へ上へと跳んでいく。


「よっ、はっ、とっ」


 目のまえに広がるバカでかい悪魔の本体。ピンクの景色はどこまで跳んでも変わらない。


 まったく、こいつの高さはいったいどれだけあるんだよ。


 跳んでも跳んでも、うんざりするほどピンクの壁は続いていた。


 降りそそぐ轟音と触手の雨のあいだを抜ける。


 抜けた。


 だしぬけだった。


 まだ景色はピンクのままだが、触手の攻撃がぴたりとやんだのだ。


 どうして?


 ぼくは意味がわからない。


 なんでこんな中途半端なところで攻撃がやんだんだ?


「あっ……」


 ぼくは気づく。目のまえの一箇所だけ触手がない。そこには先ほど切った触手の断面があった。


「げっ」


 その断面を見た瞬間、ぼくは思わず言葉がもれた。ぼくが数秒前にユメ・ブレードで切断したはずの太い触手は、ぼこぼこと茶色い泡を吹きながら、すさまじい勢いで再生している。


「(ウオオオオオン!)」


 悪魔が叫ぶ。触手が完全に再生した。なんだよ、こいつの再生能力。このまえのやつとは回復速度も桁違いに速い。こんなやつと戦って、ぼくは勝たなきゃならないのか。


 どうしよう。


 こいつはまじで、ハードル高いぜ。

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