第9話 in藤宮ルート

 篠原の家にお邪魔した翌日、俺は———


「はるやおにぃちゃんとおっでかけ♪」

「今日はよろしくね、早河君」

「……こちらこそよろしく」


 篠原姉妹とショッピングモールに遊びに来ていた。


 ことの発端は昨日。


「やだ! はるやおにぃちゃんもいっしょがいい!」


 明日、結奈ちゃんは篠原とショッピングモールへ遊びに行くらしいのだが、俺も同行してほしいと突然駄々を捏ねだしたのだ。


「結奈、我儘言ったらダメよ。早河君も困ってるでしょ」

 

 そう最初は結奈ちゃんを優しく諭していた篠原だったが……


「むぅ。おねぇちゃんきらいっ!」

「え……」


 まるでこの世の終わりみたいな顔をする篠原。

 そこから態度は一変。


「早河君。明日一緒に来てくれないかしら。……お願い」


 さすがに断れなかったので了承し、こうして3人で遊ぶ事になったのである。

 正直、こんなに懐かれるとは予想外だった。

 まぁ、嬉しいけど。

 ……一応、他意はないと言っておく。


「結奈、早速ハンバーグ食べに行きましょうか」

「いく! ハンバーグたべる!」


 今日の目的は幾つかあるらしく、そのうちの一つが結奈ちゃんの大好物であるハンバーグを食べに行くことである。

 結奈ちゃんと篠原に先導されて、お店へと向かう。


 今日の二人は、お揃いの白のワンピースに身を包んでいる。

 清楚な篠原には特に相性が良く、先ほどからすれ違う人全員が視線を向ける程とてもよく似合っている。

 こう言う時って、褒めた方が良いよな……

 

「結奈ちゃん。今日の格好とても可愛いよ」

「えへへー」

「篠原も。とても似合ってて綺麗だ」

「……ありがと」


 小さく答えた篠原はおもむろに顔を逸らした。

 まるで、赤くなった顔を見られたくないかのように……

 

 それからモール内を5分ほど歩いたところで、目的地のお店に着く。

 お昼時だったが、幸いにもすぐに席へ案内された。


「〜〜♪」


 注文を終えて料理が来るのを待つ間も、結奈ちゃんはとても上機嫌だった。

 このお店のハンバーグが二番目に好きって言ってたし、無理もないか。

 ちなみに一番好きなのは、沙奈さん特製の手作りハンバーグとのこと。

 ……良い子すぎる。


 間も無くしてハンバーグが到着。


「いただきまーすっ」

「結奈。ゆっくり食べるのよ」


 結奈ちゃんの為に料理を冷ましてあげたり、口元を拭いてあげる篠原は、姉というより母親に見えた。

 きっと将来は良いお嫁さんになるんだろうなぁ。

 そんな事を思っていると……

 

「ごちそうさま!」

「早っ!?」

 

 気がつけば、結奈ちゃんはハンバーグをあっという間に平らげていた。

 ちなみに俺と篠原はまだ食べ終えていない。

 そして、まだ食べ足りないらしく……


「はるやおにぃちゃんのハンバーグ、ひとくちたべていい?」

「いいよ。一口あげる」

「わーい。ありがとう」


 結奈ちゃんは口を大きく開けた。

 これってつまり……


「結菜ちゃん。あ、あーん」

「あーんっ」


 モグモグと美味しそうに食べる結奈ちゃんを、篠原は呆れた顔で見つめる。


「まったく結奈ったら。早河君、結奈が我儘言ってごめんなさいね」

「俺は気にしてないよ」


 このくらいの我儘はむしろ可愛いくらいだ。

 

「おねぇちゃん。はるやおにぃちゃんのハンバーグもとってもおいしい!」

「そう。良かったわね」

「うん! そうだ! おねぇちゃんも、はるやおにぃちゃんにあーんしてもらったら?」


 突然、結奈ちゃんがとんでもない事を言い出した。


「ゆ、結奈。いきなり何言ってるの!?」

「だっておいしかったから、おねぇちゃんにもたべてほしくて」


 姉想いの結奈ちゃんのお願いを叶えてあげたいところだが、残念ながら悲報がある。


「えっと……ごめん。全部食べちゃった」

「そ、そう……」


 篠原が少し残念そうに見えたのは気のせいだろうか。



◇◇◇◇◇



「ごめんなさい。お手洗いに行ってくるわ。早河君。その間、結奈のことお願いしてもいいかしら?」

「分かった」

 

 それから店の外で篠原が戻って来るのを待っていると……


「……ん?」

 

 結奈ちゃんが俺の服の袖を引っ張り、何か言いたそうな顔で俺を見つめていた。


「どうしたの?」

「……はるやおにぃちゃん。ゆいなね、おねがいしたいことがあるの……」


 そして、結奈ちゃんはそのお願いを口にする。


「……そっか。分かった」

  

 結奈ちゃんのお願いを聞いた俺は二つ返事で承諾した。

 断る理由が無いし、それ以上に叶えてあげたい願いだったからだ。


「ありがとう、はるやおにぃちゃん! おねぇちゃん、とってもよろこぶよ!」


 結奈ちゃんは今日一番の喜びを露わにする。

 本当に結奈ちゃんは姉想いの優しい子だ。


「えへへー」

「いきなり手を繋いでどうしたの結菜ちゃん?」

「えっとね、あのこいびとさんたちのまね」


 あの恋人さん達……?

 少し気になったので、そのカップルの方へ視線を向けてみる。


 そして俺は———


「えっ……」


 唖然とした。


 なぜなら、視線の先にいたのは———立花と藤宮だったからだ。


 二人はきごちなく、そしてどこか初々しい雰囲気で手を繋いで歩いている。

 そんな二人の姿は付き合い始めたばかりのカップルのよう……というか、そうとしか見えない。


 う、嘘だろ……立花が……主人公が……藤宮と付き合ったぁぁぁぁ!!??

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