第15話 打ち上げの前のデート
土曜日になり、普通に休日になったのだが今日は1年生の中でも、俺の知る可愛い女子達が集まる体育祭の打ち上げだ。もはや女子会と言った方が正しい気がするが…
9時頃に目が覚め、部屋から出ると既に宇佐美が朝ご飯を作っていた。宇佐美は扉を開けて部屋から出てきた俺に、すぐに気づいて声をかけてくれる。
「あ、おはよ〜…て、相変わらず寝癖凄い事になってるよ」
「ん…?あぁ、後でシャワー浴びるわ…てか何作ってんの?」
俺は上に跳ねた寝癖を触りながらキッチンの方に行くと、四角形で黄色の甘い匂いがする物を焼いていた。
「フレンチトースト!!」
「お〜…すげぇ、めっちゃ美味そう」
「もうすぐ出来るからもうちょっと待ってて」
「分かった。ありがとね作って貰っちゃって」
「全然良いよ!!私が作ってみたかっただけだし」
俺はそう言うと、とりあえずシャワー等を短い時間で浴びて、身だしなみを整える。もはや今では家に居ても身だしなみには気をつけたい。俺は洗顔後に鏡で確認しながら中途半端に生えた髭を剃って、化粧水や乳液をつけてリビングに戻る。
リビングに戻ると、丁度宇佐美が完成したフレンチトーストを机に並べていた。
「マジありがとう。食べていい?」
俺の分も置いてあるので食べても良いのだろうが、念の為宇佐美に聞いておく。
「うん!食べてみて!」
宇佐美はそう言って俺の質問に柔らかい笑顔で応えてくれた。
フレンチトーストをナイフで1口大に切って、フォークで刺して口に運ぶ。パンのふんわりとした食感と、噛み締める度にじんわりと染み込んだ卵の風味が伝わってくる。はちみつをかけたので、はちみつの甘い匂いと味も乗っかりとても美味しい。
「ん…!うま…!」
「ほんと!?めっちゃ嬉しい…!」
そのまま気づけばすぐに、宇佐美の作ってくれたフレンチトーストを食べ終えて、先に食器を洗っていると宇佐美が食器を持ってくる。
「宇佐美のも洗うよ。朝飯作ってもらったし」
「ほんと?ありがとう」
いつも作って貰っているので、こういった俺が出来そうなのはなるべく俺が行いたい。食器も洗い終わって、落ち着いた頃にソファに座っている宇佐美の隣に腰掛ける。
「宇佐美、今日の打ち上げ何時頃に行く?」
「ん〜…待ち合わせが19時だから、18時過ぎくらいに行こうかな?」
「じゃあ俺もその位にするか」
自然と一緒に行く感じになったが、良かったのだろうか…まぁ最近はほぼ学校まで一緒に行ってるし、同じ電車に乗ったと言えば最悪見つかっても大丈夫だろう。
既にいつでも外に出れる様な格好の宇佐美とは違い、まだ部屋着の俺は、どこか重い腰をあげて自分の部屋で服を着替えて、髪もワックスをつけて整える。
11時になってすぐでまだ外には出ないが、ここまでやれば多少行くのが面倒になっても行くしかなくなる。
たまにあるアレだ。前日まで結構楽しみだったのに、当日になってなんか急にめんどくさく感じてしまうアレ。
もしそれが起こってもここまでしてしまえば、行かないのが勿体なく感じるので、行く気力が湧く。
そんな事を考えながらリビングに戻ると、宇佐美はテレビを見ていたので、声をかけてみる。
「昼ごはんは無しで良いよな?」
「ん〜…そうだね、さっき食べたばかりだし、あんまりお腹空いてないよね?」
「そうだな、夜まで我慢しても良いと思う。食べ放題だし」
そう言って2人でテレビを見ていると、宇佐美が声をかけてくる。
「ねぇ…」
「ん?」
「早めに家出て、どっか見て回らない…?」
「良いけど、なんか見たいのあるの?」
「うん…集合場所とは反対方向なんだけど、色々服とか見たくて…もうすぐ夏だし」
「あー、美中の方?おっけー」
どうやら宇佐美が服などを見たいので、早めに出たい様だった。どうせ夜までする事も無いので、すぐに承諾して色々準備をする。
バッグに必要最低限のものを入れて、最近買った香水を手に取って首元に吹きかけようとしたが、手首に少しだけ出して宇佐美の部屋に行く。
「ん!はーい、はい」
部屋をノックして宇佐美が出てくると、俺は手首を宇佐美の顔に近づけて「匂い嗅いでみて」と言ってみる。
宇佐美は一瞬頭に?マークを浮かべたが、俺の言われた通りに手首に鼻を近づけてくんくんと少し嗅いでくれた。
「んっ…!すごい良い匂いする!」
「こういう系嫌いじゃない?嫌だったら付けないで行こうかなって思ったんだけど」
「私は全然良いよ!むしろだいぶ好きな匂い!こう…鼻にツンと来る感じじゃなくて、ふんわり来る感じの!めっちゃ好き!」
「なら良かった」
一応身近に居る女子が宇佐美なので、宇佐美に聞いてみたが、今日来る他の女子的にはどうなのだろうか…でもそれを気にしてしまったら何も出来ない気がするので、深くは考えないようにした。
この香水高いんだよな…アナザー14…ネットで見つけて、女性からの評価も高かったのでお試しサイズを買ってみたが、かなり小さい…大きさも人差し指位しか無く、なんならそれより小さい。それで1000円超えるのは学生の俺からしたら中々痛い出費だが、宇佐美から高評価を貰ったので、大きいサイズを買おうと心の中に決めた。
改めて忘れ物が無いか確認した後、首元と手首に何回か香水を吹きかけて部屋を出る。
宇佐美は俺が起きた時にはある程度化粧を済ませているので、そんなに時間はかからないと思うがリビングのソファに座って待って居ると、少しして宇佐美が出てきた。
「もう行けそう?」
「うん!じゃあ行こ!」
すぐにソファから立ち上がり、玄関へ向かう俺を、宇佐美は何故か部屋の前で待ってくれていた。
「先に玄関行ってて良いのに」
「んふ、なんでか待っちゃった」
俺が先に靴を履いて外に出て、俺はカバンから鍵を出しておく。すぐに宇佐美も出てきたので、鍵を締めてエレベーターに向かう。
「宇佐美って俺の家に来てから、だいぶすぐにスッピンの状態見せてたけど、見せたくないとか無かった?」
エレベーターが来るまでの雑談として少し気になったので聞いてみると、宇佐美は少し恥ずかしそうに答える。
「まぁ…梅野は中学の時から一緒だし…」
「あ〜確かに、中学の時は化粧とか無理だったもんな」
「だからもう私のスッピン見てるし、そこの抵抗も少なかったの大きいかも」
こういった中学が同じだったアドバンテージを聞くと、やはり宇佐美と同じ中学で良かったと思える。
エレベーターが開き、狭い空間に2人きりになると、宇佐美がスンスンと匂いを嗅いでいる音が聞こえてくる。
「ちょい…あんまし匂い嗅がないで、なんか恥ずくなる」
「ふふ、ごめんごめん。いい匂いだから嗅ぎたくなって」
そう言いながら宇佐美は少し背伸びをして、ちょこちょこと俺に寄って匂いを嗅いでいる。匂いを嗅がれているという状況に、体がムズムズする感覚が襲ってくる。
「てか宇佐美も良い匂いするけど、香水付けてる?」
「あ!うん!付けてるよ、ちょっと柑橘系だから好み別れちゃうかな〜…って感じなんだけど…」
「良いんじゃね?他人の好みはもうどうしようも無いし、好み合わせたい人が居たらそれに合わせる感じで。俺は全然苦手とかじゃないし、気使わなくて良いよ」
「ほんと!ありがと〜」
香水の話をしているとすぐに1階に着き、降りてマンションの外に出ると、もう6月に入って少ししているので蒸し暑い…
日差しが身体を一気に温め始めて、生ぬるい風が俺の肌に当たる。
「6月入ったからもう結構暑いね…」
「早く駅行くか…あんま汗かきたくないし」
いつもの登下校の様に15分程歩いて駅に着く。ちょうど電車が来たのでそれに乗って、学校や待ち合わせとは反対方向の5駅程先の大きな駅に向かう。
土曜とは言え、お昼過ぎなので人もあまり乗って居らず、空いている席に俺と宇佐美で座る。
「涼しい〜」
「外暑すぎる…もう結構汗が」
「ハンカチ使う?」
宇佐美はそう言って四つ折りのままのハンカチを渡してきたが、そのハンカチは直前まで宇佐美が自分の汗を拭くのに使っていた物だ…
さすがに宇佐美が拭いていた場所とは違う所で拭くとは言え、ハンカチを汗拭くのに借りるのは…
「ありがとうございます!」
「なんで敬語?」
人の善意はなるべく汲み取って方が良いと俺は勝手に思っている。おでこに出来た汗を何回かハンカチを当てて吸い取って、汗を吸った部分を俺の手で持ってなるべく宇佐美が触れないように渡す。
「ごめん、ありがとう。次からは俺もハンカチとかちゃんと持ってくる」
「全然良いよ、気にしなくて」
「なんなら着いたら買おうかな」
「あ、それ良いかも!」
汗も電車内のクーラーで無くなってきた頃に、目的の駅に着き、降りてから少し歩いた所にあるショッピングモールに入る。この駅には大きなショッピングモールがほぼ隣接して3つはあり、全てをゆっくり回るだけで時間が潰せそうな感じだ。
まずは1番駅から近い所にあるショッピングモールに入っていく。
「まず服から見る?」
「ん〜私は後でも良いよ?」
「じゃあ先にハンカチ買いに行くか」
そう言って俺と宇佐美はハンカチが売っていそうな、店に入って色々見て回る。
「あ!ハンカチあるよ」
「お、ほんとだ」
ハンカチが置いてある中から色んな種類を見て、どれが良いか考える。正直俺は、デザインが無くてシンプルな物ならだいたい何でも良いのだが、宇佐美は「ん〜…」と言いながら色んな種類を見てくれている。
今の宇佐美は何を考えながら選んでくれているのだろうか…そんな事を考えていると、気づけばハンカチでは無く宇佐美をずっと見ていた。
「こういうのはどう?」
そう言って宇佐美が手を伸ばして取ったのは、白の布で、縁が紺色の高級感のあるハンカチだった。
「お、めっちゃ良いじゃん。高級感あるし、デザインもシンプルだし。これにしようかな」
「ほんと!?これいくら位なんだろ…」
そう言いながら俺と宇佐美は値段を確認する。値段は約1900円、まぁそんな物だろうと思い宇佐美の様子を見る。
「ねぇ梅野」
「これ私が買ってプレゼントして良い?」
「え…どしたの」
「いつも泊めてもらってるし、色々お世話になってるから…」
「あ〜マジで良いの?」
俺がそう聞くとすぐに宇佐美はすぐに「うん」と答えてくれた。
「じゃあ…貰おうかな…先に店の前で待っとくわ」
「うん、先に待ってて」
そう言って宇佐美は選んだハンカチを持ってレジに向かっていった。流石に同級生の女子に奢って貰う時に、一緒にレジに居るのはあれだと思うので先に待って居ると、すぐに宇佐美が来てくれた。
「いつもありがとう…」
そう言いつつ恥ずかしそうに渡してくれる宇佐美を見て、俺も何故か恥ずかしくなりながらハンカチを受け取る。
「ありがとう…」
大人っぽく、高級感のある紺色の紙の箱を持って、今開けるか少し悩む…今開けるのも良いが、家でゆっくり落ち着いて開けたい。せっかく宇佐美がくれた物だから…
「ごめん、家で開けて良い?なんか今開けるのもったいない気がして…」
「あ、うん!全然良いよ!」
「マジでありがとう…めっちゃ嬉しい」
ハンカチも買った事だし、気を取り直して次は宇佐美の見たい服を見ていると、あっという間に時間が過ぎていった。
「なんか、服だけ見て帰るのどうなのかなって思っちゃう…」
「いやまぁ良いんじゃない?またちゃんと買いに来るんでしょ?予算あるなら、明日とか来週にでも行く?」
「そうだね…じゃあまた一緒に来よ?」
「荷物持ち…ですか」
「お願いします!先輩!」
「良いよ別に。ハンカチ、プレゼントしてくれたし。次向こうのショッピングモール行ってみる?」
「うん!向こうも見てみよ!」
この日は最終的に3つの大きなショッピングモール全てを軽く見て回ったが、これでもまだ全てを見れていないので、また宇佐美が今日見た服を買いに来る時に見よう。
「もうすぐ時間になりそうだし、そろそろ行こ」
「そうだな、そろそろ行くか」
大まかに買う服を決めていたら気づけば夕方になっていたので、人が多くなった美中駅の改札を通って、特急に乗って待ち合わせの駅へ向かう。
「思ったより人多いね…」
「そうだな…あ、宇佐美こっち行って」
俺は電車に乗るなり宇佐美を扉の方に行かせて、宇佐美と人混みの間に入る様にする。無いとは思いたいが、宇佐美が痴漢とかに会ったら俺も嫌だしな…
「ありがと…」
「ん。そーだ、宇佐美お腹の空き具合どう?」
「え、あ〜…結構お腹空いてるかも。丁度いい感じ」
「そっか、俺も良い感じだわ」
待ち合わせの駅に着いて宇佐美と一緒に降りようとすると、宇佐美が人混みの間に入る事が出来ず詰まっていた。
(やべ…宇佐美が降りれんくなる)
「すみません出ます」
そう言いながら俺は、宇佐美の手首を持って少し強引に引っ張る。
「っはぁ!ありがとう…梅野」
「大丈夫?」
「大丈夫…」
乗り降りの多い駅でエスカレーターに乗って、駅の改札へ向かう。
改札を少し出た所で、どこか少し目立つ雰囲気の女子が居た。 青色のワンピースに、黒髪の外ハネボブ…という事は樋口奈央だ。
「お、樋口〜」
俺が声をかけると、樋口はすぐに俺に気づいてくれる。
「あ、梅野。それに茜も2人とも早いね」
「そっちのが早いじゃん」
「まーね。2人一緒に来たの?」
「いや、電車降りた時に丁度会って」
「へ〜ちょっと時間あるけど、どっか軽く見て回る?」
そんな感じで雑談をしていると橘と伊織、そして竹内が3人一緒にやって来た。全員学校で会うのとは違い、少し違った雰囲気がある。例えば樋口や橘はより大人っぽく。伊織や竹内はよりふんわりするような感じ。宇佐美はいつもの可愛い感じから更に付け足されたような感じだ。この4人の女子が駅の前に居るという事に、通行人(主に男性)の視線が一時的に吸い寄せられるように集まっている。
そうして4人の可愛い女子と、1人の男子で謎の打ち上げが始まる。今からでも男子呼んだ方が良い気がしてきたが…よし、俺は焼きに徹しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます