第33話 明日はきっと今日と違う1日①
晩餐会はアントラセン村の祝賀会より豪華であったが、会場の空気はしめやかなものだった。
ブンゲとの戦いでは8パーティが全滅して、ルェフ合戦では英雄ソレノの指揮の下、奮戦し敵南部地域部隊を全滅させたが、多くの仲間を失った。
万全のパーティはラザのパーティのみで、それ以外のパーティは死傷者や負傷者が生じていた。ソレノも晩餐会は欠席し、ソレノのパーティメンバーも欠席していた。
兵士の治療は仕事として成り立っている。医学治療と魔法治療があるが、魔法治療は治療師も少なく、魔力量(マナ)に限りがあるため治療対応できる絶対量が限られている。そんな事情から、治療費も安くはなく医療治療を選択する人が殆どであるとディラが教えてくれた。
魔法治療を覚えたニールと不本意にも無尽蔵の魔力量がある僕が組んで、開業医を開けば繁盛店は間違いない。病院に繁盛店は不謹慎な表現であるが。大前提として、僕を帝都に入れてくれればの話だが。
晩餐会は、何を言っているか分からない挨拶を睡魔と格闘しながらこなすと、ようやく食事にありつけた。ラザとハイゼの食事作法を観察したが、作法は自分の持っている文化作法のものと近いようである。
デザートの皿が届くと、冒険者でない参加者が訪ねるようになる。ラザ、ハイゼ、そしてニールは接客に追われている。要人の祝福の他に領長はこの舞踏会費用を公募しており、パーティに商品の無償提供の提案や商品の売り込み、さらにはスポンサー契約の話を持ちかけているようだ。
また、昼と同様で、ディラと中座することにした。ケトンと話したときのように、無音通信したディラの言葉を発音してラザに退席することを告げた。ラザは言葉少なく”ヤイ(OK)”と答えた。
ニールにも先に宿舎に帰る事を告げると
「私も帰りたい」
と泣き言を告げて
「また明日ね」
と微笑んだ。ニールと接客している相手は僕に興味があるようだがニールに
「彼はルェフで負傷しているので、今日は退席します」
と告げられ、微笑んで握手だけして離れた。握手も自分が持っている文化作法と近いようだ。
ニールにはディラと一緒に宿舎に戻ることを告げたが、特に嫉妬することもなく
「気を付けてねと」
見送ってくれた
孤独な夜は星を眺めた。この惑星の衛星は月より大きくない。月の1/10くらいの大きさのものと、1/20くらいであろうか、2つの衛星運行速度が違うことは不安な夜の気を紛らす助けになった。地球でもっと天体の知識があれば、星の配置で地球からの距離感が掴めるのだが、生憎星の知識は乏し過ぎる。
星の瞬きが眩い。今日は地球にいた時に付き合っていた女性に似た人と手を繋ぎ夜道を歩いている
『ニールに短剣を贈ったそうね』
繋いだ手を介して聞こえるディラの声(?)だ。声という言葉が適切な表現だとは思わない。ディラと僕の無音通信だ
「ニールの一族では特別な意味があったようだね」
僕は日本語で発する
『気付いていたんだ』
「送ってもらった武器屋から聞いた」
『どうするつもり?』
「早い段階で、脇差しを預かっているから、ニールはとっくに決心していたのだろうね」
『家族になるの?』
「“帝都に入れてもらえれば”という条件付きだけど、そのつもりだ」
『意外と簡単に決めるのね』
「ニールが防御魔法を発してくれなければ死んでいたから、ニールが僕の明日をくれた。まあ、数日だけど」
『自分の身に危険が迫っていることを理解しているのだね。ウメは随分頭が良いんだ』
「ハフニ族のディラに頭がいいなんて言われるのは光栄だね」
ディラが空を見上げた。僕は空を見上げるディラの横顔が美しいと思った。
〈つづく〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます