第27話 貿易都市ヒフガ②

 関所を越えると、鎧を脱いで正装に着替える。ラザやディラは国産だけあって、風格がある。頭巾を取って藤色の髪を梳かすディラは知性があふれ出すようないでたちだ。一方ニールと僕は馬子にも衣装といった言葉が適切だった。僕の正装もギブス村長が用意してくれた。ニールは洗浄の魔法を使えた。ルェフ平原を発つときには、返り血などは綺麗に洗われていた。刀鍛冶の集落では、各工程の洗浄が重要で先祖が開発した魔法だという。

 

 再度車に乗って田園風景の中を進む。堤防と川があり、粗末な橋を渡る。ルェフ平原は高地になっていて、水が確保できないため農地に出来なかったとディラが教えてくれた。この地区の主食は米に似ているので育てるには大量の水が必要なのだろう。

 

 ディラはこんなことも教えてくれた。この惑星の海は塩分を殆ど含んでいなくて、塩は岩塩の鉱物からのみ採取している。岩塩はこの国の有力な資源であり輸出品でもある。地球の月に相当する衛星はなく、火星のように小さい衛星のみが2つ存在する。衛星の巡航は特殊で数十年毎に重なるという。丁度数日前に重なる事象が起きたばかりだという。僕がこの惑星に来た日と同じだった。

 

 街は中世の欧州都市のように城壁に囲まれていて、石組みで堅牢な高楼もある。城門の前でいかつい鎧の兵士に護られた品格のある人が立っている。”カルノ領長”とニールが教えてくれた。領長自らお出迎えである。車から降りて先程と同様胸に手を当てた。


 領長は、ラザと握手して言葉を交わすとその目から涙が溢れた。要人を招くかの如く領長が引率して、絶えることのない住民の歓声に包まれた。

 そして、城とも役所とも取れる大きな建物に案内された。豊かな貿易がもたらした見事な建物だ。荷物は車に置いたまま用意された宿泊施設に運んでくれるという。

 ブンゲとカストのフリダラを配下の屈強な兵士に渡すと、30人ほどの兵士に護られながら奥の部屋に運ばれた。


 領長との面談はラザとハイゼに任せて、室外で待機していたが、直ぐに我々も呼び出された。領長は我々1人1人と固く握手をした。これは地球と同じ作法のようだ。そのあと、ラザがブンゲ、カストそしてポルックを倒した状況を説明した。ニールとディラとは肩が触れていたのでおおよそ会話の内容は分かった。

 

 僕の素性を聞かれたので、ディラと段取りしたとおり、漂流者で過去の記憶を失っていると日本語で答えた。お付きの学者が言語を解釈しようとしたが、誰も理解できる者はいなかった。異星人なのでニールやディラのように分かる方がおかしい。

 

 領長からフリダラを帝都に届けたあとはどうするのかと聞かれたので、仕事を探して帝都に住もうと考えていると日本語で答えてニールが通訳した。冒険者を続けないのかと聞かれたが、自分は物づくりが好きなので、何かを作ることを生業にしたいと言った。

 領長は本当に記憶を失っているのかを確認するような質問をしてきたが、曖昧な表現でのらりくらりとかわした。

 

 帝都にブンゲのフリダラを届けるまでは裏切らない限り僕は、貴重な戦力である。アルベェの仲間ならばルェフ合戦で裏切っていてもおかしくないのである。可能性とすれば、帝都まで味方のフリをして、帝都に入った後に裏切ることも考えられる。どちらにしろヒフガで裏切る利点は考えられない。賢明な領長ならばそう考えるはずだ。


 領長は討伐隊全員を招いて晩餐会を開いてくれるそうだ、この惑星の1日は地球でいえば28時間位と思われる。まだ日没には時間があるようだ。用意された宿泊施設に向かっているが、横になったら朝まで夢の中だろう。地球の深煎りコーヒーが恋しい。

 生き残れたら美味い飲み物を探そう。

 ⋯⋯生き残れたら。

 <つづく>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る