騙る天使と策士の2人
状況が状況ということもあって、暫しの間沈黙が流れていた。
そんな中、始めに口を開いたのは桜であった。
「あっ、ごめんなさい。実はこの前公園で助けてもらったお礼で夏目さんの部屋を一緒に掃除させていただいた時にヘアゴムを忘れてしまったことを思い出しまして…」
(…これが噂の「才色兼備の天使」の姿なのか)
いつもの桜との差が大きすぎて最早同一人物なのか疑いたくなるほどであった。
「これ春宮さんのだったんですね。あと、うちの掃除嫌いの手伝いありがとうございました。」
湊翔はそう言うと桜にヘアゴムを渡して深々と頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ怪我をして動けなくなったところを助けていただいてとても助かったので。」
桜はそう丁寧に返すと「では、失礼しました。」と言って優希の家を後にした。
(何とか上手くごまかせたかな?)
桜は、優希の家の2人の来客に家に帰ると思わせておいて階段の途中から彼らが帰るのを待っていた。
「びっくりしたよ、まさか昼の時に優希君が言ってたのが春宮さんの事だったなんて。」
「そんなにあの人ってすごい人なの?」
正直春宮さんの事を学校では普段全く見ることもなければ関わることもないので評価のしょうがないのだ。
「春宮さんは優希も知ってると思うけど成績優秀で、みんなに優しくておまけに可愛いって学年中の男子には相当人気があるらしいぞ?俺と湊翔は彼女が居るからあんまり興味は無いけど。」
颯馬は優希の質問に、優希が何も分かっていないことを半分嘆きつつも答えた。
「ってやば!そろそろ帰らないと本当に親に怒られるから帰るわ。今日は本当にありがとう、料理も美味かったぞ!」
颯馬はスマホで時間を確認すると湊翔を引き連れて帰って行った。
しかし、数分後颯馬と湊翔の姿は1つ下の階との間の踊り場にあった。
「湊翔さ、本当に春宮さんはヘアゴムを取りに来ただけだと思うか?」
颯馬はさっきの桜の行動を完全に怪しんでいたのだ。
「だって、あの部屋の様子を見るに多分片付けられたのは1週間前の土日だし、だったらわざわざ今日来なくても来れるタイミングは相当多かっただろうし。」
「でももしかしたら春宮さん予定ずっと入ってて行けたのが今日が最速だった可能性もゼロではないよ?」
湊翔は颯馬の考えには些か懐疑的であった。
「でもなほぼ確実な証拠があったんだよ。それは冷蔵庫にあったハンバーグの量だ。流石にあの量は一般的な人は1人では食べきれないだろうな。」
「春宮さんのための分も含めてってことだったらあの量にも納得できるね。しかも冷凍庫にも大量に入ってたからもしかして春宮さんは無類のハンバーグ好きなのかもね。」
「でも流石にそれだけじゃ類推にしか過ぎないから実際に春宮さんが優希の家に来るのか確認するために今ここにいるって訳よ!」
自分でもこの案は素晴らしいと思ったのか、颯馬はこの急遽立てた計画を自画自賛している。
暫くすると、颯馬の読み通り桜が優希の家に入っていく姿が見えた。
「これは完全に作戦成功ですね!理由は何にせよ春宮さんが日常的に優希君の家に通っているのは事実と言えるでしょうね。」
「そうだな。テスト終わったらカフェかどこかで真実を聞き出そうな。」
任務を成功させて満足した2人は上機嫌でそれぞれ帰路に着くのであった。
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