戦うスナイパー

凱季奈 こう和

1章転移編

1話 ポニテ男子と三つ編み女子

鉄平てっぺいちゃーん」


 髪を三つ編みで結んだ女の子が、前を歩くポニーテールの男の子に声をかけながら走って来る。


「鉄平ちゃーん待ってよー」


 のんびりした口調で喋りながら声をかける女の子に、前を歩いていた鉄平と呼ばれた男の子が振り返りながら。


花桜梨かおり。町中で人の名前を何回も呼ぶんじゃねーよ、恥ずかしいだろうが」


 三白眼の目をした男の子、鉄平は走ってきた女の子、花桜梨にため息をつきながら答える。


「むー、だって一緒に帰ろうって約束したのに先に帰っちゃうんだもん」

「俺はしてねーよ、それに高2にもなって一緒に帰れるかよ恥ずかしい」


 そう言って踵を返し歩きだす鉄平を、不満げな顔で見ていた花桜梨はそのまま後ろからえいっと鉄平に抱きつく。


「でも今までずっと帰ってたのにー」

「しるか⋯⋯」


 ポヨン。


「おっ⋯⋯」


「ここ1週間一緒に帰ってないんだよー」


 ポヨン、ポヨン。


「いや、その、だな」


 ちょうど背丈の関係で抱きついた花桜梨の豊満な胸が鉄平の首筋に当たるが、花桜梨は気にする事なく会話を続ける。


「今日は絶対に一緒に帰るんだからね」


 ポヨン、ポヨン、ポヨン。


「あー」


 鉄平が首筋の感触に顔を赤くしていると、2人の前に鉄平とは違う制服を着た大男といかにも取り巻きといった感じな男が立ち塞がる。


「見つけたぞぉ! 真道鉄平しんどうてっぺい! ここで会ったが1週間ぶり、この間の借りここで返してやる!」

「いよ! 兄貴カッコいい」


 大男を見た鉄平はうんざりした顔になり。


「ちっ、しるかよ。邪魔だどけ」

「鉄平ちゃんのお友達?」

「ちげーよ。こいつがふざけた事言ったからボコっただけだ」


 鉄平の言葉に花桜梨は困った顔をし、大男は腕を組ながら。


「ふん! たかがチ──」

「ああん?」


 鉄平が物凄い形相で睨むと大男は後退りをし、花桜梨はため息をつく。


「鉄平ちゃん身長の事気にしすぎだよ。あのごめんなさい。鉄平ちゃんにその言葉は禁句なんです」


 謝る花桜梨に大男は初めて気付いた様に花桜梨の顔を見て、そしていやらしい笑みを浮かべる。


「ほう、なかなか可愛い顔してる嬢ちゃんじゃねえか、まあ嬢ちゃんが言うなら許してやってもいいがそのかわり『いいぜ』なに?」


 鉄平は鞄を置き、花桜梨を庇うように大男の前に出る。


「相手してやる。負けたら2度と俺達・・の前に現れるな」


 構える鉄平を見た大男は獰猛な笑みを浮かべ。


「いいぜぇ! くたばれや真道!」


 叫びながら拳を振り落とす。しかし鉄平は拳を目でしっかりと・・・・・追いながら避け、そのまま大男の顎に向かって蹴り上げる。しかし。


 バシィ!


 大男も予想していたのか手で受け止める。


「はっ、2度目は当たらねえよ」

「そうか」


 鉄平は無表情で答え、素早く反対の足で大男の顎を器用に撃ち抜く。


「なん、だと」


 ふらつく大男に鉄平は1歩下がり、勢いを付けて腹にヘッドバットを叩き込む。


「あ、が⋯⋯」


 しゃがみこむ大男。鉄平はジャンプをし大男の頭にかかと落としを叩き込む。


「げはぁ!」


 地面に叩きつけられる大男。鉄平は大男の頭を踏みつけようとするが。


「鉄平ちゃん駄目!」


 花桜梨が抱きついて鉄平を止める。鉄平は舌打ちをしながら足を止め。


「俺の勝ちだ、約束は守れよ」


 そう言って終わったと言わんばかりに歩きだす。花桜梨はそんな鉄平を悲しそうに見ながら大男を起こす。


「ごめんなさい。鉄平ちゃん遠慮がないから」


 そう言いながら花桜梨はハンカチを出して怪我をした大男の頬に当てる。


「いてっ」

「大丈夫ですか? えーと、痛いの痛いの飛んでけー」

「は? 何を言って……」


 花桜梨の言葉に大男は意味がわからず聞き返す。しかし花桜梨は笑顔で。


「元気になるおまじないです」

「花桜梨! 何してんだ置いてくぞ!」


 離れた場所でむすっとした顔で怒鳴る鉄平の声に花桜梨は慌てて。


「待ってよー、じゃあ失礼します」


 礼をしてそのまま鉄平のもとに走って行く。しばらく呆然と見ていた2人だったが取り巻きの男が我に返り。


「あ、兄貴大丈夫ですか!」


 大男に心配そうに声をかける。


「ん? ああ、どうってことはねぇ」


 顔を歪めながら起き上がろうとした大男だが、途中で何かに気付き普通に立ち上がる。


 「あ、兄貴?」


 戸惑う取り巻きを無視して大男は腹やら顎を触り、最後に頬に当てていたハンカチをどけ呟く。


「怪我が治ってる?」



「お前なあ、向こうからちょっかいかけてきたんだからほっとけばいいんだよ」

「でも話の流れ的に鉄平ちゃんが先に手をだしたんてしょ?」


 花桜梨は鉄平の顔を覗き込みながら責めるように話しかける。鉄平は気まずそうに目を反らしながら。


「あいつが余計な事を言うからだ」

「でも本当の──」

「あん?」


 鉄平が睨むと今度は花桜梨が目を反らしながら。


「ほら鉄平ちゃんは成長期だからこれから伸びるよ」

「ったりまえだ。俺はこれからグングン伸びるんだよ! 見とけ、1年後にはスカイ○リー抜いてやるからな」

「いや、それは無理じゃないかな」


 花桜梨が苦笑していると鉄平はいきなり足を止め周りを見だす。


「鉄平ちゃんどうしたの?」

「いや……何か変だ」


 鉄平の言葉に花桜梨も周りを見るが。


「別に何も『ねえ、地面光ってない?』えっ?」


 花桜梨が声のした方を見ると、同じ制服を着た2人組の女子の1人が地面を見ながら驚いた顔をしている。


「鉄平ちゃん、向こう地面がひか──きゃっ!」


 花桜梨が言い終わるより早く鉄平が手を掴んで走り出す。 


「何かまずい、逃げるぞ!」

「えっ、鉄平ちゃん右目が光って」


 花桜梨の言葉が終わるより早く辺りが光に包まれる。余りにも強い光に人々は騒ぎだすが、光はすぐに収まりその後は何も起こらない。やがて人々は不思議に思いながらも日常に戻る。そこに居た筈の7人の男女が消えた事に気付かずに。



「ちくしょう、面倒くせえ」


 鉄平はソファーに座り愚痴をこぼす。


「まあまあ鉄平ちゃん落ち着こうよ」


 花桜梨が鉄平の前にあるテーブルに水の入ったコップを置く。今2人が居るのは洋風の豪華な部屋だ。しかしどこか古めかしさを感じる部屋で、鉄平はコップの水を一気に飲むとため息をつきながら。


「でもなあ花桜梨、異世界転移だぜ。ふざけてるぜまったく」

「そうだね。何か光が収まったら全然知らない場所で、しかも鎧を着た人が沢山いてびっくりしたよ」


 その時の事を思い出したのか花桜梨が体を震わす。


「しかも呼ばれた理由が魔王退治じゃなくて、戦争に力を貸してくれだぜ。本当に頭にくるぜ」


 その時の事を思い出したのか、鉄平は投げやりにソファにの寝転ぶ。



「ですから先程も説明した通り、僕らは戦争とは無縁の生活をしてたんだ。協力なんて出来ません!」


 椅子から立ち上がり声を荒げるのは鉄平と一緒に転移した1人、剛家正ごうやただし


「それは問題ない。召喚された時点で関係ない」


 長方形のテーブルの奧に座る男、鉄平達を召喚した国、ピコラ王国の国王であるデマルト王が平然とした顔で答える。


「あーすみません。その、デマルト、王様?」

「デマルト王でよい」

「じゃあデマルト王、その問題ないと言われても俺達的には問題しかないんですがねえ、えと」


 同じように召喚された探野彰人たんのあきとは同意を求めるように横に居る女性、重里美奈子しげさとみなこを見る。


「重里と言います。確かにデマルト王の期待に答えるのは難しいかと。しかもこんな子供達まで巻き込むなんて」


 重里が憐憫の目を向ける先、花桜梨と同じ制服を着た2人組の女の子の1人、水鳩礼奈みずはとれなは目を輝かせながら。


「でもでもこれって凄い体験ですよね、何かワクワクしてきちゃった。ねっ乃亜のあ


 水鳩に話を振られ面倒そうな顔をした木崎乃亜きざきのあは。


「どうでもいい。早く休みたい」


 2人の様子に剛家はイラつきながら。


「わかったでしょう。僕達は貴方がたの期待に答えられない。」

「てゆーかさあ」


 鉄平はやる気のない顔で手を上げると皆の視線が鉄平に集中する。


「王様だか何だか知らないけど、おたくら俺達を誘拐した自覚あんのか?」


「なっ!? 誘拐などとはこちらは真剣に」


 戸惑うデマルト王に鉄平は畳み掛けるよう話しかける。


「じゃあ俺達をちゃんと帰せるんだよな」

「は?、いや、それは、勿論──」


 戸惑うデマルト王の様子をじっと見ていた鉄平だが。


「まさか無いのか?」


 苛立たしく言う。すぐさまデマルト王が否定するが、それを皮切りに一斉に皆が騒ぎだす。デマルト王が宥めようとするが収まらず、鉄平はその様子を見ながら思惑通りにいったみたいな顔をする。しかし。


「ふざけるなよ」


 そんな中、剛家が肩を震わせながら呟く。


「明日は大切なプレゼンがあるんだぞ。今日だって会社に帰ったら資料の確認をしようと思っていたのに……」


 剛家は両手を振り上げる、すると両手が光輝き。


「どうしてくれるんだ!」


 振り下ろす。そして次の瞬間響きわたる轟音、全員が驚いて剛家の方を向き剛家もテーブルをボロボロに壊し、めり込んだ両手を呆然と見ている。


「剛家さん手、大丈夫ですか?」


 恐る恐る探野が聞いてくると、剛家はめり込んだ手を持ち上げ。


「大丈夫……みたいだ。でも何故?」

「だ、だから言ったであろう問題ないと」


 そこでデマルト王が顔を引きつらせながらここだと言わんばかりに会話に割り込む。


「諸君らには強い力が宿っている。全員間違いなくレアスキル・・・・・を手にしている筈だ」

「レア……スキル」


 剛家が呟くなか何かが割れる音がする。


「乃亜ちゃん! 何してるの?」

「試してみた。確かに簡単に割れた手も痛くない」


 カップのソーサーを割った乃亜が答える。周りを見ると鉄平以外の人達もテーブルに手を押し当てたりスプーンを曲げたりしている。花桜梨も試そうとして。


「やめろ花桜梨! 余計な事すんな」


 面白くない顔をした鉄平に止められる。そんな中、余裕を取り戻したデマルト王は。


「わかってもらえたかな、どうだろう詳しい話は食事をしながらさせてもらっても宜しいか?」

「そうですね、確かに自分の事は知っておくべきですね。皆もそれでいいだろう」


 態度がくるっと変わった剛家の言葉に、鉄平以外は同意するのだった。



「ちくしょう、あの眼鏡の兄ちゃんを使ってこの国に協力しないように持っていこうとしたのに」

「あっやっぱりそうだったんだ」 


 花桜梨はソファーに寝転んでいる鉄平の横に座り鉄平に尋ねる。


「そりゃそうだろ。役に立たないと思わせて早く帰らす方向に持っていこうとしたのに、自分に力が有るとわかった途端に手のひら返しやがって」

「皆も興味津々だったもんね」

「本当だぜ。食事の時は先程のよそよそしさは何だったんだって位に皆質問してたからな。まあでも」


 鉄平は手を上げ。


「ステータスオープン」


 口にするが何も起こらない。


「これが無いだけでも随分助かるぜ」

「しかも自分のスキルは自分にしかわからないんだってね」

「みたいだな。花桜梨、絶対スキルの事は考えるなよ、俺達は役立たずで通して2人だけでも帰してもらうようにするからな」


 むすっとした顔で言う鉄平に花桜梨は頷いた後、ポケットから銀色で虹色の光を放つビー玉位の大きさの玉を取り出す。


「じゃあこれも弄らない方がいいのかな?」


 鉄平は虹色の光を放つ玉に目をやり。


 「異武いぶの宝玉って言ったか、魔力を通したら本人に適した武器になるって言ってたよな、放置だ放置、そんなもん使ってみろ余計に帰してくれなくなるぞ」

「そうだよね、大体魔力を通すなんて出来な、きゃっ」


 花桜梨の悲鳴と共に光が広がり収まると、花桜梨の手には緑の宝玉が付いた銀色の杖が握られていた。


「はあ!?」

「あ、あれ?」


 鉄平は飛び起きて花桜梨の杖を見る。


「おま、何やってんだ」

「えと、何か杖になっちゃった、てへ」

「てへ、じゃねーよ。はあ、取りあえずどっかにしまっとけ」

「う、うん」


 そう言って花桜梨は手から杖を消す。


「……待て」

「えっ何?」

「杖何処にやった?」

「だからしまって、あれ?」

「……」

「……」


 そして花桜梨は再び杖を手に出す。


「便利、だね」

「あー頭いてぇ」


 鉄平はソファーに倒れ、それを見た花桜梨はおろおろしながら。


「えとえと、い、痛いの痛いの飛んでけ~なんちゃっ、あれぇ?」


 杖の宝玉から緑の光が溢れ、鉄平の体が緑の光に包まれる。


「あ、あの」

「……ふう」


 鉄平はゆっくり立ち上がり、体の感触を確かめるように動かしていく。


「凄いな、疲れが一瞬で吹っ飛んだ。今ならフルマラソン走れって言われても走れそうだ」

「本当? よかっ──」


 花桜梨が言い終わるより先に、鉄平が睨むとゴニョゴニョ言いながら口を閉じる。鉄平は諦めた顔をしながらソファーに座り。


「確かスキルの事は本人にしかわからなかったんだよな」

「鉄平ちゃん?」

「こうなったら仕方ねえ、花桜梨お前のスキル回復魔法? の事を全部教えてくれ」

「わ、わかったよえーとちょっと待ってね」


 花桜梨は考える仕草をするが、言語化できないのか頭を悩ませている。


「わかった。なら俺が質問するから出来るか出来ないかで答えてくれ」

「うん、わかった」


 花桜梨は両手を握り締め、さあ来いと構える。


「傷を治せる」

「うん」

「傷の大きさは関係ない」

「うん」

「無くなった体の部分も治せる」

「うん」

「……毒は治せない」

「ううん、治せるよ」

「くそっ、じゃあ病気を治せる」

「う、うん」

 

 鉄平は一瞬天を仰ぐが最後に真面目な顔で。


「死者を生き返らせれる」


 その質問に花桜梨が悲しそうな顔をすると。


「わかった答えなくていいぞ」


 そう言って、鉄平はチートかあと呟きながら頭を抱える。だがすぐに花桜梨の肩に両手を置き。


「花桜梨よく聞け。この世界の回復魔法がどんなものかは知らないが、お前の回復魔法は間違いなくチートだ」

「う、うん」

「この国の奴等に知られたら絶対に元の世界に帰してもらえなくなる」

「そんな! 嫌だよ!」

「俺も嫌だ、だから人前では絶対使うな。いいな」


 鉄平が花桜梨の目を真っ直ぐ見ながら言うと、花桜梨は頬を赤らめながら。


「うん、わかった」

「俺が怪我をしても使うなよ」

「え!? そんな」

「い、い、な!」

「……はい」


 鉄平が強めに言うと不満なのか花桜梨は口を尖らせながら返事をする。そんな花桜梨に鉄平は笑いながら。


「ばーか、この城から出る気なんて無いんだから怪我しようがねえよ。ほれ、そろそろ寝ようぜ、明日も面倒そうだ」

「むー、鉄平ちゃんの意地悪。知らない」


 頬を膨らませるそっぽを向く花桜梨だが、すぐにシュンとなり、モジモジしながら。


「その、鉄平ちゃん、今日は一緒に寝てもいい?」

「はあ!? あのな、ガキじゃな、はあ好きにしろ」


 寂しそうな顔をする花桜梨に鉄平はすぐに折れる。そしてベッドに入る鉄平を追うように嬉しそうに花桜梨は一緒にベッドに入る。


「えへへ、おやすみ鉄平ちゃん」

「はあ、本当、頭痛ぇ」



 夜中、花桜梨が寝ている横でゆっくりと鉄平が起き上がる。月明かりのなか鉄平は隣で幸せそうに眠る花桜梨を見ている。その表情は普段からの態度からは想像出来ないほど優しかった。


「幸せそうに寝やがって、本当によ」


 鉄平は花桜梨の頭を優しく撫でる。くすぐったそうに身をよじる花桜梨に鉄平は微笑む。


「お前は俺が必ず守ってやるからな」


 そう言いながら撫でる鉄平の瞳が徐々に鋭さを増していく。


「そうだ。守るんだ」


 そして、鉄平の言葉に反応するように右目の色が反転し、目の周りから金色の光がはためきだす。


「守るんだ、守るんだ、守るんだ。俺は絶対に花桜梨を守るんだ」


 鉄平の呟きは誰にも聞かれる事なく闇に溶けていくのだった。






◇◇◇


 初投稿になります。正直右も左もわからず物凄くドキドキしてます。

何処までやれるかわかりませんが、最後まで執筆出来るようやっていきたいと思います。ここまで読んでくれた皆様に千の感謝を、これからよろしくお願いいたします。



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