第13話 狼煙
※牧清美 視点
それから興信所の調査で多くのことがわかった。なぜあの女がお金が必要になったのか。それはあの東京の男の存在だった。
男の名前は、石田
東京にある「石田建設」の社長。
血縁上、空くんの実父。
石田は、栗原さんが妊娠し彼の元を離れた二年後に離婚。離婚原因は石田の度重なる不倫。現在は独身だが、複数の女性と交際中。なんとも女にだらしない男だ。会社は不況のあおりを受け経営悪化。倒産寸前といった状況で多額の借金あり。
恐らくお金に困った石田は、実家が資産家だったあの女のことを思い出し、お金をせびっていたのだろう。甘い言葉で再婚をちらつかせ、僕達の未来の為にお金が必要なんだとでも言ったのではないだろうか。
現在は二か月に一度、あの女は石田に会うため東京に訪れている。そして主人が貢いだお金を石田に渡しているのだ。あの女の実家は確かに資産家だが、ほぼ絶縁状態で連絡すらとっていないはずだ。
興信所の写真には、あの女と石田が腕を組みホテルに入っていく様子が映っていた。えらくご機嫌なあの女の笑顔に吐き気をおぼえた。主人の目を覚ますにはいい証拠写真になるかもしれないわ。
しかしあの女を追い込む材料が足りない。私は強く爪を噛んだ。
「ねぇ。他にあの女と石田を引き裂くようなものはないの?このままでは調査を続けてきた意味がないわ!」
「ま〜しかし、石田という男叩けばいくらでも埃が出てくるかもしれませんよ」
そう言うとある情報を私に耳打ちした。
「まだ裏が取れていないので、必要ならそのあたりも調べておきましょうか?」
「ええ、お願いするわ。それと私にいい考えが浮かんだわ。私が見たいのはあの女の壊れる姿。石田の連絡先ってわかるかしら?」
「あの……危ないことはやめてくださいね」
「大丈夫よ。ちょっとお願いするだけだから」
私はあの女が泣き叫ぶ姿を想像してゾクゾクしたわ。そして私は実家に子供を預け、ひとり東京へ向かった。
事前に石田に電話をかけ、栗原沙智のことで話があると伝えた。知らない番号からの電話と栗原沙智の名前に驚いてはいたが、なんとか約束までこぎつけた。ふたりきりになるのは危険だと思い、ファミレスに夜20時に約束。
男はカジュアルなスーツ姿であらわれ、席を探すように店の中を見渡している。写真で顔がわかっていた私はすぐに手をあげて、こっちに来るように合図した。
「どうも初めまして石田と申します。初めましてですよね?」
そういうと私の顔をまじまじと見つめ、ニヤリと笑った。
「初めまして。私は牧と申します。石田さんにお願いがあってきました。500万であなたにやってほしい仕事があるの。あなたにしかお願いできないお仕事よ」
今度は私がニヤリと笑い男を見つめる。男は神妙な面持ちに変わった。
「あって早々なんてこと言い出すんだ。その額からしてかなりヤバイ仕事だろ。なんで俺なんだ。沙智とどういう関係が?」
突然の依頼に困惑する男は慌てていた。
「簡潔にいいますね。栗原さんとうちの主人が不倫してまして、どうしてもあの女を地獄に落としてやりたいの。もう立ち上がれないほど。手段はまかせるわ。でも暴力はだめ。精神的なダメージが一番ね。あなたお金に困ってるんでしょ?成功すればきちんと報酬はお支払いするわ」
「お、お前。どこでそんな……。それにしてもあんた、そんなことをお願いする為にここまで来たのか!なかなか肝の据わった女だな。そんなに沙智のことが憎いのか?」
「えぇそれはもちろん。それに二か月に一度あなたがあの女から受け取ってるお金もうちの主人が渡してるお金なのよ。すごい悪女なのはあの女のほうじゃないかしら?どうします?あの女がそんなに大事ならやめておく?」
私はコーヒーを一口飲んで、封筒をテーブルに置いた。
「これは手付金の100万よ。それとも残念ながら交渉決裂かしら?」
石田は私の手を撫でるように封筒を手にとり、覗いて中身を確認する。
「あんたのこと気に入ったよ、交渉成立だ。それに別に俺は沙智に惚れてるわけじゃない。都合のいい金づるのコマがひとつ消し飛ぶのは残念だが、目の前の現金には負けるよな」
「それなら話は早いわ。それとさっきもいったけど暴力は絶対にだめ。空くんのことも絶対傷つけないで」
「わかった。で、俺は何をすればいい」
「ねぇ。今あの女は石田さんとの結婚のために必死に金を集めてるんでしょ?それなら、あなたとの結婚を夢見て上京してきたあの女を、そのまま捨ててしまえばいいわ。やっと一緒に暮らす準備ができたから、すぐにでもこっちに来てほしいって呼び出して、そのままあなたがいなくなるの。もう部屋の準備もできてるって言えば、アパートも引き払ってくるだろうし。家財や荷物も送ってくるだろうけど、全部売り飛ばしてしまえば……あの女は全てをなくすことになるんじゃない?」
私は思わず声をたてて笑いそうだった。
「そりゃ沙智も壊れちまうかもな。あいつ、とんでもない女の旦那に手を出しちまったってことだな」
「とりあえずやってもらおうじゃない。多少の変更は構わないわ。私が満足したら残りの報酬は支払わせていただくわ。期間は一か月以内。楽しみにしてるわ」
私はそう言い残しお店をでるとタクシーに乗り込んだ。
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第13話を読んでいただきありがとうございます。
こんなに沢山の方に読んでいただけるなんて思ってなくて、本当に毎日感謝してます!
最終話まであと少し。
明日も昼の15時更新予定です。
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