第80話 解放
後がつかえているとかで、アルベロⅠ世への謁見は早々に打ち切られた。
慌ただしく別室に連れていかれ、そこで待つように言われる。
待つって、なにを?
どうやら殺されはしないようだけど、王に認められたってことでいいのだろうか?
種族の壁を越え、モルテと結ばれる――その覚悟は示したつもりだ。
それは、このリスレッティオーネ王家と繋がるということでもあって。
それが本当に意味するところを、おれはまだ知らないわけで。
おれがアルベロⅠ世なら、そんな男を娘の夫に認めるか……って、夫。
夫かあ……
たしかに、このままモルテとの関係を続けていけばいずれはそうなるわけだけど、改めて考えると、嬉しいやら恥ずかしいやら、他にも色んな感情や考えがおしよせてきて、わけが分からなくなる。
だいたい、この歳で結婚とか……
「入るぞ」
悶々とするおれの思考を打ち破るように、勢いよくドアが開かれた。
現れたのは、おれのよく見知った顔――
「よかった、無事だったんだな!」
「姉さん! どうしてここに?」
「助けにきたに決まってんだろ!」
美凪は怒ったように言うと、力いっぱいおれを抱きしめた。
「……ごめん、姉さん。心配かけた」
「まったくだ、バカ弟が」
美凪が鼻をすすった。
わしわしと髪をかきまわされ、もう1度ぎゅっとされる。
「苦しいよ」
「ああ、すまん」
美凪は探索者として王に謁見を申し入れ、そこでおれと陸の身柄の返還を願い出るつもりだった。
それがうまくいかなかったときには、別行動をとっているプラスィノがおれたちを救出する手筈になっていた。
「プラスィノも来てくれたのか。うまくいくいかないの判断はどうやって伝えるの?」
「これを使う」
美凪は懐からハンドスイッチのようなかたちをした魔具を取り出した。
「こいつを押せば、プラスィノが着けてる耳栓型の受信機に合図を送れる。1回なら救出作戦実行、2回なら交渉成功、もしくは作戦中止ってな具合だ」
「なるほど――って、どうかしたの?」
なにやら難しい顔をして、美凪が手のひらのスイッチを睨んでいる。
「……あれ? 逆だったかな?」
「ちょっと! 間違えたら大変じゃないか!」
「と、とりあえず、どっちか押しとかないと」
「押す回数を変えるより、押す押さないで区別したほうがわかりやすかったんじゃないの?」
「私が捕まったりしたら押せなくなるだろ!」
そうか、合図がないこと自体が異常を示すのか。
それなら押さなきゃマズいな。
……って、だったらさっさと思い出してくれ!
結局、あーだこーだ言い合っているうちに、おれを謁見の間に連れて行ってくれた兵士が陸とプラスィノを連れてやってきた。
「な……なんで合図をくれなかったんですか? 隠れて待ってるあいだ、ワタシ不安で不安で……!」
「すまん! ほんとにすまん!」
静かにキレるプラスィノに平謝りする美凪という、実に珍しい光景がしばし繰り広げられた。
「それで、わたしたちは自由の身ってことでいいんだよね?」
「ああ」
陸の問いに、美凪がうなずいた。
「祥吾にはどう説明するのかについて、王様はなにか言ってなかった?」
「私たちの作戦が成功――つまり、プラスィノに奪還されたことにするみたいだな」
「なるほど。祥吾はシノの能力を知ってる分、説得力も増すな」
プラスィノは腕だけでなく、全身をツタ状にすることもできるから潜入は得意だし、夢幻香とか呼ばれてる匂いを出して見張りを幻惑したり眠らせたりもできる。
「実行してたら、かなり成功率は高かったんじゃないか?」
「は……はい、自信はあります。実力をお見せできなくて、残念……へへ」
あ、ヤバい。
照れるプラスィノの向こうで、エリート兵が口許を引きつらせてる。
そりゃそうだ、自分たちの警備がザルだって言われたようなものだもんな。
「も、もし助けに忍び込んでくるものがいれば、見逃すよう命じられていました。本来であれば、何者だろうと我々の目を逃れることなどできません」
「そ……そうですかあ? や、やってみなければわかりませんけど……」
煽るな煽るな。
「アルベロ王は慈悲深い方ですね。突然やってきた人間のおれのために危ない橋を渡ってくれるなんて」
「モルテ様の良い方であれば我らにとっても同胞ですから」
「話した感じ、ハナから要請を聞くつもりはなかったようにも思えたけどな」
美凪が人差し指をあごにあてて言う。
「もし、要請どおりお前を殺せば、モルテはアルベロ王を許さないだろう。つまり、こいつはエーヴィヒカイトの仕掛けた
「そうだったのか。やっぱりおれは考えが足りないな」
裏でそんな駆け引きをしていたなんて、思いもよらなかった。
「いや、霧矢。お前はそのままでいてくれ」
「そうだよ。腹黒い兄さんなんて、わたしヤだよ」
美凪と陸が口々に言う。
ふたりとも、おれをなんだと思ってるんだ。
大学生男子に
「それより、逃げたことにするのはいいとして、祥吾は大人しく帰ってくれるかな?」
「微妙なところだな。とりあえず宿は変えるか」
おれが祥吾に対して思うところがあるように、祥吾もおれになにかを感じているようだ。
でなければ、これから死ぬって相手と一対一で話そうなんて思わないんじゃないか?
まったく、こんなかたちで出会いたくなかったな。
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