【魔法適正:マイナスSSS】の転生者、英雄譚に憧れる~世界最弱の魔法使いですが、美少女になつかれているし、本当は最強なので問題ありません

おいぬ

1話:もう一回気絶してやろうかと思った

 これといった目標は、俺の中になかった。


 ただ生きているだけ。流されるままに生きてきた。


 何者かになれるだなんて、少しも思っていない。


 だけど、俺にだって憧れたものがないわけじゃない。







 ヒーローになりたかったけど、死んでしまっては元も子もない。



 俺の前でサッカーしてた子供が道路に飛びだして、それをかばってトレーラーに轢かれた。



 言うまでもなく俺は死んだ。俺の記憶はそこで終わる……はずだった。




「……どこだ、ここ」




 周囲を見渡せば、どうやらここは薄暗い小部屋のようだ。石造りで、湿気で少しムシッとしている。



 武器とか置いてあるところを見ると、ここは武器庫のようなものっぽい。



 現代日本に生きていればまずお目にかかれないような滅茶苦茶デカい剣とか、意味深な模様が彫られたアクセサリーとかも転がっている。



 あと観察して分かったんだけど、クソデカい問題が1つある。




「……扉が無いんだが?」







 異世界転生? 転移? してからどれくらいの時間がたっただろうか。



 少なくとも今俺は死にかけです。何日も飲まず食わずでこの部屋に閉じ込められているわけなので、当然と言えば当然だけど。



 できるだけのことはやってみた。



 転がってた剣で壁を斬ってみたり、転生転移ものにありがちなステータス画面を開いてみたりなど。



 でも全部空振りに終わった。もう俺はただ眠くなれば眠って、起きている間は天井のシミを数えるだけの、生きている死体みたいな感じだ。



 一回死んだからか、死に対する恐怖はあんまりなかったのだけが幸いだ。



 ただ、少し思うところはある。




「――せっかく異世界に来たなら、ヒーローになってみたかったな」



 

 俺が前世で、唯一なりたいと思えたもの。それがヒーロー。



 それになれるかもしれないと一瞬でも思ったから、余計にこのまま死ぬのが嫌になる。



 死ぬのは怖くはない。でも嫌だ。



 死ぬなら死ぬで、もっとこう……誰かのために死にたい。



 そんな時だった。部屋の中央に、目が眩むほどの光が突然現れた。




「円……いや、魔法陣……?!」




 黄金の光を放つ魔法陣は、暗闇になれた俺の目では直視できないほどの光を放っていた。



 それでも見つめていると、光の中に徐々に人型の影が生まれた。



 影のシルエットがしっかりと形づくられると、黄金の光はゆっくりと消える。



 何が起こったのかさっぱりわからないが、それでもこの薄暗い部屋に起きた唯一の変化。



 俺は最後の力で這いつくばり、人型の影の足を掴んだ。




「……たす、て……くれ」

「……――」



 影がこちらを見て、しゃがみこんだ。



 頬に手があてられて、影が何か言葉を発するけど……俺にその言葉は届かない。



 限界が近かったんだろう。そんなときに体を動かしてしまった。



 落ちていく意識の中、最後に目に飛び込んできたのは――俺のことを興味深そうに見つめる、蒼色の瞳だった。







「……一度死んでる。でもよみがえった」



起き抜けにそんなことを言われて、俺はもう一回気絶してやろうかと思った。

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