第37話 戦う理由
「遅かったようですね……」
「もういないの……相変わらず逃げ足の早い」
郊外の森。その上空に転移魔法特有の『門』が開き、三人の魔法少女が姿を現した。ダイヤモンド・ダストに、アクアやフレイムであった。
情報部から異常な高魔力反応を検知したという報告を受けて、その中に『魔女』黒アリスを始めとした警戒対象がいた為、彼女達がやって来た。
ダイヤモンド・ダストが敗北したことや、これまでの黒アリスの行動を考慮して、『連盟』の上層部は基本的に不干渉の方針を選択した。しかし彼女の契約妖精である『契約者殺し』の黒兎や、『魔女』エリザとの関係性を含めて、要警戒といった所で落ち着いている。
そして黒アリスの対応で、自ら志願した者達がこの三人組であった。情報部から聞いた報告の中に、正体不明の高魔力反応が一つと、黒アリス達のものがあったようだ。
ダイヤモンド・ダストの契約妖精、スノーマンの転移魔法によって現場に駆けつけたのだが、既にその場には誰も存在しなかった。彼女達が到着する直前にでも転移魔法で退散したようだ。
「でも何をやってたんだろうね、黒アリス達は?」
燃えるような赤色のドレスを着た魔法少女――フレイムが、辺りの様子を見ながらぽつりと呟く。一見鬱蒼と木々が生い茂る森林の様子からは異常は見受けられない。
しかし周囲から感じ取れる、魔力の残滓。その量はとてつもなく、この場にいたその魔力の持ち主は、異様なまでの力を秘めていることが伺える。
「……この魔力、黒アリスのものに似ている。予想だけど、彼女の使い魔だと思う」
いち早く地面に降り立ち、周りを観察していたダイヤモンド・ダストが自分の所感を告げる。
黒アリスの現在判明している使い魔は、いずれもある童話の登場人物に由来したと考えられるものばかりであった。
トランプ兵に、チェシャ猫。原典のキャラクターの多さや今回検知された未確認の『何か』を考えれば、他の登場人物――ほぼ『人』と言える存在はいないのだが――を使い魔として使役できる可能性がある。
「一刻でも早く尋ねたいことがあるんですが……」
「ねえ、アクア。それって、前から言っている違和感のこと? それとも黒アリスが言ってたことについての確認?」
「それは――」
アクアが以前から抱える『違和感』。面識がないはずの黒アリスの姿を見ていると、動悸がおかしくなり、『何か』を忘れているような感覚に陥ってしまう。
その『違和感』を解消する為に、アクアの権限が許される限りの情報を『連盟』のデータベースで漁った。しかし黒アリスが活動を開始したのは、つい最近の出来事であり、アクアの記憶にも該当するような人物はいない。よって『違和感』を解決する手段が、黒アリス本人に直接尋ねるしかないのだが、中々その機会に恵まれない。
「――『連盟』の魔法少女として、私が確認したいのは後者の方です。私情を挟んでいる場合ではありません」
先日黒アリスがダイヤモンド・ダストに発言した内容。『契約者殺し』の由来となった、消息不明な黒兎の過去の契約者達の行方。
『黒兎と今まで契約していた子達。別に死んでいませんよ?』
黒アリスの発言内容を信じるのであれば、黒兎と契約した少女達は死んでおらず、まだ生きている。アクア達の上司である玲香の見立てでは、一般人として平穏無事に暮らしているとなっている。
もしもその推測が正しければ、何も問題はない。アクアや『連盟』にも、既に一般人となった少女達の居場所を突き止めて、彼女達の日常を壊したいとは思っていない。けれど真偽は確かめる必要はある。
「――私はそのついでに、聞きたいことが一つだけある。ただそれだけのことです」
「ん? 思いっきり私情では?」
「うるさいですっ! ついでっと言ってるでしょう!」
「別に私は気にしないよー。私はこの前の借りを返したいだけだから」
和気あいあいといった様子で、話し合うアクアとフレイム。そんな彼女達を少し離れた場所で、見ているダイヤモンド・ダスト。
「私が戦う理由は……」
自分の手に視線を落として、小声で呟くダイヤモンド・ダストは己に問う。なぜ自分は黒アリスに執着しているのかを。
一度負けたことが原因だろうか。それとも無意識の内に、アクアのように正義心の一欠片でも芽生えたのだろうか。
「まあ……私も直接会えば解決するかな?」
答えは出ない。けれど次に戦闘する機会に恵まれたのであれば、負ける気はない。そう決心を固めながら、ダイヤモンド・ダストは拳を強く握りしめた。
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