三章-長崎・ベースメント-
20『炭鉱街とシスター』
曇天の支配下にある小高い丘で、一人のシスターが小さな墓に祷りを捧げている…
祷りを終え、立ち上がったシスターの眼下には…廃れた一つの街が広がっていた。
時代を先取った鉄筋コンクリート造りの建物が並ぶ街は風化し始め、爆撃による物であろう大きなクレーターが点在している。
「今年もまた一年経ったのですね…また来ます。」
そう無人の街に対して別れを告げ…踵を返したシスターは、丸眼鏡と長い髪を三つ編みが特徴的な女性であり…
その首もとには、十字架を模したチョーカーが装着されている。
そして、墓を後にしたシスターは…丘の麓に止めてある自動車の元へと向かう道中に、茂みの中の異変に気付く。
「主よ…私は、『土クモ』の犠牲者となった方達への解放を行います。」
そう願いを誓ったシスターは、修道服のスカート部分のポケットから『中折れ
「若いシスター様が、一人でこんな人気の無い所へ来てはいけないよ…」
下品な笑みを見せながら茂みから現れた、男の雷クモ4人は一斉に襲い掛かる。
一瞬にして4体の化物に囲まれたシスターは動じることなく…一番近い雷クモに対して、着実に一発目の銃弾を命中させる。
「グゥ…なんだこの威力は?」
38口径の強力なマグナム弾を心臓に受けた雷クモは、その一言を最後に倒れる。
「怯むな、囲め!」
その一言を機に、残りの雷クモは…シスターの正面から2体と背後から1体が襲撃する。
しかし、シスターは素早い連射で正面の2体を討伐し…背後の1体からの攻撃をヒラリと回転し回避する。
次の瞬間…残る一体の眉間に対して、銃口の狙いを定める。
「貴方達は悪くないですよ…本当に悪いのは、誰ですか?」
そう自分に問い掛けたシスターは、もう一度、引き金を引く。
シスターは自分を襲って来た雷クモ達に対しても、祷りを捧げ…そして、丘を降り、自動車で居るべき場所へと帰っていく。
ーーー
シスターが帰路に着いた先は、カトリック系の女子高等学校である。
「先生、また外国の旅話の続きを聞かせて下さい。」
帰って来たシスターを見つけた女学生2人が、近寄って来る。
「えぇ…また世界史の授業で、時間が余ったら良いですよ…もう下校時間が迫っているので気を付けて帰って下さいね。」
シスターは、自身を慕ってくれる生徒たちを諭す。
そして、会話を交わした生徒の姿が正門から消えて行くのを見届けてから…校舎の隣に静かに佇む教会へと向かう。
静かな教会内に、入り口の扉の開閉する音が微かに響く…
戻って来たシスターに対して、もう一人のシスターが眠たそうにアクビをしながら近寄って来る。
「なんだ…また、あそこに行って来たのか?」
髪に緩くパーマが掛かっているシスターは、帰宅したシスターに対して問い掛けた後…右手に持つ林檎を丸齧りする。
「えぇ…また一年経ったからね…」
そう丸眼鏡を掛けたシスターが答えていると…教会の奥へと通じる扉から、2人に比べて背丈が低いシスターが現れる。
「おっ、【サクラ】お帰り…今日の晩御飯は、わたしのお手製、林檎パイだよ。」
丸眼鏡のシスターを【サクラ】と呼んだ、短髪のシスターが教会の奥へと手招きする。
「そうね…【コマチ】と【アオイ】…夕食の時間にしましょう。」
サクラと同じく…林檎を丸齧りしていたコマチ、夕食の準備をしていたアオイの首もとにも十字架を模したチョーカーが装着されている。
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