15『丿貫の機関銃』

神社の境内で人質を取られた桜と小町は、戌の仮面に法被姿の雷クモ達の要求通りにゆっくりと武器を置くしかない…


桜が『ミナカ式C型拳銃』とその予備彈倉を地面に置き…小町もセーラー服のスカート部分に固定している軍刀と鞘の一式を地面へ置く。


「さぁ…その朱い唐傘も置いて下さいね…」

桜と小町が最初に見つけた男が、促す。


「あぁ…わかった…」

小町はその言葉通りに、左手で肩に担ぐ様に持っている唐傘もゆっくりと、降ろしていく…


法被姿の老若男女達の視線が、自然と唐傘の先へと集中する…


次の瞬間…小町は唐傘の持ち手に隠されたボタンの内の一つを押す…すると、傘の先端から強い閃光と轟音が放たれる。


「くそ!?何が?」

閃光が直撃した法被姿の老若男女達は、狼狽える。


その隙を突いた桜が、人質である子どもを拘束する雷クモの男に対して、セーラー服の裏側に隠していたナイフを投げる。

桜の手から放たれたナイフは、見事に標的の右目を潰す。


「っう!やりやがったな!」

片目に激痛が走った男の人質に対する拘束が緩くなる。


更に出来た隙を突いた桜は、戦マキナとしての身体能力で跳躍し、標的との距離を一気に詰め…人質を抱き寄せると、片腕で標的を背後にある階段へ突き落とす。


「小町、お願い!」

そう叫び合図した桜は、鳥居の柱に身を隠し、男の子の盾となる。

「あぁ、任せろ!」

叫び返した小町は、唐傘の持ち手にあるもう一つのボタンを引き金の様に引く。


次の瞬間…電動ノコギリが唸る音が境内に轟く。

その音は小町が持つ唐傘の先端から、7.7mm口径の弾丸と共に連続して放たれ…


そして、次々と法被姿の雷クモ達は薙ぎ倒されていく…


普通の軍人であれば、二脚で固定し、地面に伏せた状態で撃つのがセオリーである汎用機関銃を、『攻撃・不死型』の小町は立ったままで難なくと弾丸の軌道をコントロールしている。


汎用機関銃が弾を撃ち尽くし…小町は唐傘の内側に隠してある、予備弾倉をリロードする為に僅かな隙が生じてしまう…


「調子に乗るなよ、化物!」

弾丸を喰らいながらも、まだ動ける雷クモ数人が小町へと襲い掛かる。


鳥居の後ろから桜が、拳銃で1体は仕留めるが…残る2体が右手を変質させた爪で同時に小町の脇腹と右足を抉る。


「くっ!やってくれるな…邪魔をするな。」

僅かに苦痛によって小町は怯むが…一体目を唐傘で殴り飛ばし、左足でもう一体を蹴り飛ばす。


吹っ飛ばされた二体は、水面も跳ねる平石の如く何度も地面に打ち付けられてから止まる。


瞬く間に制圧した境内を、小町が見渡す。


「はい、私達はベッコウ師です…この男の子をよろしくお願いします。」

騒ぎを聞き付けた一人に、男の子を任せた桜が小町の元へと歩み寄る。


「小町、傷口は大丈夫なの?」

桜は、試作型の自身なら治癒に半日は掛かるレベルのダメージを負った相方を気遣い、『守ヶ永もるがな・賢者乃キャラメル』を一粒差し出す。


「ありがとう…既に血は止まり始めている…」

そう答えた小町は、受け取った治癒能力を向上させるキャラメルを頬張る。


小町と桜の耳に、生き残りの雷クモの微かな呼吸が聞こえてくる…

その一体へ歩み寄った桜が、問い掛ける。


「私達の存在が噂として広まるにしては、早すぎる…誰から私達の事を聞いたの?」

桜は、『ミナカ式C型拳銃』の銃口を突き付ける。


「はっ…はは、答える訳ないだろ…人間でも、我々の仲間でもない半端者に…」

そう答えた生き残りの雷クモはにやける…


「桜、離れろ!爆薬の匂いだ!」

鋭い嗅覚で異変を感じた小町に注意された、桜が距離を取り伏せると、ほぼ同時に爆発が起こる。


爆煙を煙たがりながら桜が立つと…鳥居側の階段から上がってきた警察達が、本殿近くの雷クモ達の亡骸を見つける。

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