07『特異型の雷クモ』
夕刻の人気の無い路地裏での、目の前の惨劇に対してレイは、一瞬たじろぐが…
ベッコウ師としての使命感で立ち向かう。
「貴方、この赤坂村では見ない顔ね…どこからやって来たの?」
袴の腰元から軍刀を抜刀したレイが、刃を向けながら問い掛ける。
「あぁ…どこから、何処へと…そして、どうやってここに来たかな…」
レイからの質問に対して、軍服の男は、はぐらかすと言うよりか本当に思い出せない感じで応じる。
僅かに思い出す素振りを見せた軍人が、視線を戻すと…軍刀で斬り掛かってきたレイが、目と鼻の先まで迫っている。
そして、右肩を斬り落とされた軍人の男は、ドサッ…と地面に落ちた腕を取り乱すことなく見る。
「ほぅ…人間のままで、この剣撃か…それなりに鍛練している感じだね…」
淡々と答える軍人はしゃがみ、残された左手を何食わぬ顔で自身の足元に倒れる女性の右肩辺りに乗せる。
次の瞬間、女性の右腕すべてが吸収され…それが軍人の右肩があった部位に移動するが、右腕の肉付きは女性のままである。
それに対して、首を傾げた軍人が新たに生えた右腕を、顔の前で僅かに左右に揺さぶる。
すると、左腕と同じ肉付きへと変化する右腕。
「嘘…そんなことまで出来るなんて…」
踵を返したレイは、驚きを隠せない。
「そんなことだけじゃあ…ないんだよね…」
軍人が微かにほくそ笑む。
それに呼応するかの様に、斬り落とされた元右腕が、意識を得たかの如く、レイの方へと飛び掛かる。
「っう!」
咄嗟にレイは、左手で構えた拳銃から3発放ち、その元右腕を撃ち落とす。
「もしかして、射撃の方は苦手かなぁ?」
元右腕にレイの意識が集中した間に、今度は軍人が間合いを詰めて来る。
レイは軍刀で応戦するが、いつの間にか硬質化した軍人の右腕によって弾かれてしまう。
そして…弾かれた衝撃で、のけ反ったレイに大きな隙が生まれる。
軍人は、隙だらけのレイのみぞおちに向けて、正拳突きをお見舞いする。
「っ、かは!」
吹き飛ばされたレイが、衝突したレンガ造りの壁に亀裂が入る。
そして、その壁に背中を預ける形で座り込んでしまう。
吹き飛んだレイへと、ゆっくりと歩み寄る軍人は何かを考える素振りをする。
勝利を確信した軍人に対して、レイが拳銃に残された4発を発砲するが、硬質化した男の右腕が全て弾く。
「へぇ…あの一撃を食らっても拳銃を放さない…その精神力、素晴らしいね…」
敵であるベッコウ師を称賛した軍人は、その敵であるレイの首を左手で掴み持ち上げる。
「グッ…私は…皆の赤坂村を守る…ベッコウ師なのよ…」
息苦しさを感じながらも、レイは戦意を向け続ける。
「そうだ…君に『松尾様』のご意志に協力してもらうとしようか…」
そう漏らした軍人は右手を、レイのわき腹へと突き刺す。
「!!…『松尾様』って…誰?」
激痛に耐えながらレイが聞き返す。
「なぁに、君はまだ知らなくてもいいよ…その内、分かるだろうし…」
そう告げた軍人の右腕が、僅かに隆起したかと思うと…そこから、雷クモが姿を見せる。
「いや!何をするの!?」
ようやく年相応の少女の反応を見せたレイに対して、軍人は下卑た笑みを見せる。
そして、軍人の右腕を伝って、雷クモはゆっくりとレイのわき腹の傷口へと侵入していく…
「いや…私はベッコウ師として…まだ戦わないと…いけないのに…」
傷口から侵入した雷クモが、更に奥へと入り込む為に食らい付いて来る痛みに耐えるレイ。
「いいや…これからは、我々の使命の為に貢献してもらうよ。」
そう告げた軍人は、左手を放す。
掴まれていた首元が自由になった事で、地面へと倒れたレイは、うずくまり咳き込む。
地面に近いレイの瞳が、降りだした雨粒を捉える。
「おっ…降ってきたか…」
軍人は曇天の空を見上げたかと思うと、右手を続けて上げる。
そして、指を鳴らす…
すると、上空の黒い雲の中に閃光が走り出す。
次の瞬間、赤坂村へ赤い稲妻『レッドスプライト』が落ちる。
「あぁ…これが周囲の雷クモと共鳴し、呼び寄せる事が出来る…『共鳴特異型』ね…ぅう…ごめんね、テフナ…」
その言葉を最後に、雷クモによって体を蝕まれるレイの目蓋が完全に落ちてしまう。
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