魅惑のパルフェ

メメ

第1話 ふわふわ

 *

 首に掛けたロープに頬擦りすると、柔らかな匂いがして幸せな気持ちになった。

 お揃いのシャツと一緒にロープをハンガーに掛けてクローゼットに戻す。

 ~~~






 目が覚めて、時計をぼーっと見ながら、その時間がどういう事なのかを理解するのに少し時間がかかった。




 始業時間を過ぎている…




 寝坊…




 ヤバイヤバイヤバイヤバイ…


 脳は眠ったまま焦りに操られた体が自動的に服を着替えブリーフケースを掴むと寝癖のまま顔も洗わず慌てて靴を突っ掛け部屋を飛び出した。




 ボタンを連打する。

 お願い急いでるからお願いと連打する。

 いつもより動きの遅いエレベーターに乗り込みボタンを連打し意味もなく四隅を時計と反対回りに回ってボタンを押して回って押してを繰り返した。


 のんびりと開くドアをこじ開けて駆け出す。


 急いで車に乗り込みシートベルトをカチッカチカチカチャリともどかしく差し込んでハンドルを掴んだまま止まった。


 ん…


 何か変だ…


 何が変なのか…


 微かに違和感を感じ取るけれど、ふわふわして頭が上手く回らない。

 上がる息を押さえ、ふわふわと意識を研ぎ澄ますと、車の中なのに冷たい外の雰囲気を耳に感じた。


 ドアを開けて閉め直すけれど、何も挟まったりしていない。

 窓もきちんと全て閉まっている。


 んー…


 まだ眠ったままの脳ミソが、突然の問題を受け付けてくれない。

 考えているような考えていないような、ふわふわとした状態で、閉めた筈のドアの隙間から、ふわふわとした雲が見えた。




 へ…


 ドアをしっかり閉め直して、下からゆっくり見ていくと…


 ドアは閉まっている。


 窓も閉まっている。


 隙間が…


 開いている…


 ドアの上半分が、外側へパカッと開いている。

 



 なんで…


 寝癖爆発の髪がふわふわと揺れて、3cm程空いたドアの隙間から吹き込んだ冷たい風に、体温がブワッと上がった。

 危機を感じ取った血液が、ようやく騒ぎだして身体を動かしていく。


 一旦、車の外へ出ると、ドアには乾いた土が付いていた。




 え…


 全然気付かなかった…

 この土はなんだろう…

 いつ付いたのか…

 何処で付いたのだろう…

 何かが当たったのだろうか…


 分からない…


 何がが当たると…

 上半分がパカッと開くものだろうか…

 昨日…

 何処かへぶつけただろうか…


 思い出せない…


 ぶつけると…

 上半分がパカッと開くものだろうか…


 ふわふわする頭を抱えていると、助手席の違和感に気付いてスーーーと冷えた。


 クッションや手袋や、あとは何が載っていたのか…


 思い出せない程に色々と置いてあった助手席が、何も無くスッキリと片付いている。


 これって…


 ひょっとして…


 車上荒らしというやつだろうか…………






 えーーー!!!?




 取り敢えず職場へ連絡をしなくてはと思うのだけれど、なかなか電話に出てくれない。


 どうしたのだろうと、やきもきしているうちに今日が祝日であることに気付いた。




 休み…




 車に乗り込み、ふわふわと落ち着かない気持ちを深呼吸で吐き出して、パカッと開いた隙間からの冷たい風を浴びつつ警察へ向かった。





 到着すると入り口付近は、ショッキングピンクやスカイブルー、ゴールド等の羽織袴を纏ったカラフルな成人達でバチバチと込み合っていた。

 どぎつい香水で騒ぐ人達の隙間を縫って受付へ行くと、すぐ側の部屋で待つように言われて中に入る。


 少し寒く感じる部屋には、無線からの声がザーザーと流れていて、それが却って空間の静けさを際立たせていた。


 手前の椅子に座って待つこと数分、至って普通の優しそうな人が静かに入って来る。


 その人は範多と名乗って向かいの椅子に座ると、机にゆっくりと両肘を付き、口元で両手を組んで上目遣いにこちらを見た。


 なんだろう…


 この鋭い感じ…


 全てお見通し感を漂わせているこの人から、今にもあの台詞が聞こえてきそうで、なんだか落ち着かなくなってくる。



『そろそろ吐いたらどうだ』



 無線から流れる事件や事故をBGMに、今から取り調べが始まる。

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