悪魔貴族の御庭番ッ! オオカミ執事と人参庭師
紫陽_凛
序章 雨は降る
雨が降りしきっていた。
大気中の
今日も毒が降りますね。
人々は恐れていた。自分が魔素に
「入れてください、中へ入れて」
「お願いです、お願い、この子だけでも、この子はまだ何も……!」
♪はぐれまものは魔物の子。
魔物は人を食べるのさ。
そんな中――誰でも知っている
♪はぐれ魔物は「はぐれもの」。
どんなに雨が降ろうとも
どんなに風が吹こうとも
はぐれまものは魔物の子。
母親の慟哭のような叫びを聞いたその声の主は、深々と被っていたフードをばさりと外して、マントごと彼女に
「これ、赤んぼに使ってよ」
母親は自分と赤ん坊を包むのに十分な大きさの布が降ってきたことにまず驚き、そしてそれを放った少年を見上げた。
「あっ、貴方のものなのに……!?」
「いいよ、今日からあんたのもの。あげる」
女はさっとマントで赤ん坊をくるんでから、おずおずと少年を見上げた。
「――貴方は?」
「歌の通りのはぐれもの」
雨が落ちる。少年の肌に、肩に、その緑色の髪の毛に。緑色の瞳が空を見上げて、「まだ降りそうだ」と呟く。女は少年に何度も頭を下げた。
「なんと
「はぐれものに対する風当たりが強いのはオレも分かってるから。助け合いだよ」
少年はにへらと笑うと、手をひらひら振った。
「その赤んぼ、ちゃんと元気に育つといいな」
「ありがとうございます、あの、もしよろしければお名前を……!」
「名乗るほどのものじゃあ、ございませんとも」
緑髪緑眼の少年はそう言ったきり、大股で雨のそぼ降る無人の大通りのど真ん中を歩いて行く。
――魔物だ。
――はぐれものだ。
――おお、こわい。
――なんの魔物かな。
家や商店から覗く目という目が突き刺さってくる。だが、慣れた。そういう運命のもとに生まれてきたのだ。今までが穏やかすぎた。優しすぎた。
分不相応な幸せだった。だから、これからは――。
少年――ロランは前をひたと見据えた。大通りの向かいから傘を差した人影がひとつ。時間通りだ。時間通りに物事を遂行することにかけては、彼の右に出るものは居ないだろう。
「ほんと、嫌になるほど正確だな。お前の前世、時計かよ」
「おい、
ロランの格好を見た男は、嫌味も
彼の顔を「美しい」と思わされること自体が気に食わないのだ。
「オレの名前は大馬鹿じゃない。マントは譲ってきた。別にいいだろ。食事もできるし、何より身軽だ。一つ捨てて二つ取っただけだ」
「どうせまたそこらのはぐれものに譲ってきたんだろう。……まったく、いくら買ってやっても足りない。二度と買わないぞ」
「はいはい、執事サマ。執事サマの言う通りでございますぅ」
「やかましい」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はーい」
「伸ばすな!」
けらけら笑いながら、ロランは執事の差す傘の下にこっそり入り込んだ。雨はまだ続きそうだ。人のいない道を、はぐれもの二匹、ひたすら歩いていく。かなた、悪魔貴族ムルムルの屋敷まで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます