ユニークスキル『宅地建物取引士』が思いのほか便利でした。S級冒険者に快適な住環境を提供して最強ギルドを作ります。

かなたろー

第1話 国家資格はユニークスキル

 やっちまった。やっちまったよ。部屋の内見希望のお客様を載せた車で、交通事故をやっちまったよ。

 まさか、後期高齢者から玉突き事故をくらうとは。


 きっと、アクセルとブレーキを踏み間違えたのだろう。

 信号待ちをしていた俺の軽自動車は、後期高齢者が乗る高級車に猛ピードでカマをほられて交差点にはじき出されてトラックに側面衝突した。


 まいった。まいったよ。これってお客様に慰謝料払わないとだめだよね。

 上司からも、めっちゃおこられるんだろうなあ。


 まいった。まいったよ。いっそのことこのままずっと眠っていたいよ。


 ・

 ・

 ・



(……屋敷やしき……えらぶさん……)


 ん? なんだか聞こえてくるぞ。


(……屋敷やしき……えらぶさん……)


 俺は、艶のあるおねーさんの声で目を開ける。

 そこはなんにも無い真っ白な空間だった。うーん。最近の病院はスタイリッシュだな。


「……えらぶさん……屋敷やしきさん……」


 看護師さんかな? 俺は、起き上がると声がする方へと振り返る。

 そこには、真っ白な服をきた金髪ロングの美人なおねーさんがいた。めっちゃセクシーなおねーさんだ。


 ボリューミな胸元がざっくり開いていて、マキシ丈のスカートは深いスリットが入っていてふとももがあらわになっている。なんだろう? 看護師ってよりどっかのゲームの女神様って感じ。多様性の時代もここまできたのか。


「あなたは屋敷やしきえらぶさんですね?」

「え? あ、はい」


 俺が返事をすると、おねーさんはおもむろに空中をタップする。すると空中になんだか四角い半透明のウインドウがでて、おねーさんはそれを読み上げる。


「おお、なんていうことでしょう。まさか、死んでしまうとは。屋敷やしきえらぶよ。あなたに、もういちど機会をあたえましょう」

「は? 死?? キカイ??」


 ちょっと何言ってるかわからない。


「覚えてませんか? あなたは仕事中に交通事故で死んだのです」

「は? え?? てことは、ここって?」

「はい。あの世です。正確には転移執務室です」

「転生執務室?」


 ちょっと何言ってるかわからない。


「結論から申し上げますと、あなたの死はイレギュラーケースです。このような例外が極稀におこるのですが、そういった人たちに新たな生を与えるのが異世界転移法です」


 ちょっと何言ってるかわからない。


「異世界転移法は、イレギュラーの死で寿命を全うできなかった方に、異世界転移の手続きを行い、本来の寿命を保証するシステムです。

 異世界転移法が適応される方には、異世界をよりよく過ごせるよう、『ユニークスキル』が与えられます」


 あ、ちょっと何言ってるかわかってきた。


「端的に申し上げますと、死亡者の生前のスキルを転生先でも引き継げるシステムとなります。いまから屋敷やしきえらぶさんの前世の経歴をお調べします」


 そう言うと、転移執務室のおねーさんは、突然空中に現れたキーボードをカタカタとたたき始める。


「あ、このスキルがいいかもしれませんね。備考欄に『国家資格』って記載されてますし間違いないでしょう。じゃあ決定。ユニークスキル『宅地建物取引士』……っと」

「え? ちょっとまってください! 『宅地建物取引士』がユニークスキル?? いやいやいや『宅建士』って、毎年20万人が受験する資格だよ? 全然ユニークじゃないんですけど!!」

「以上で手続は完了となります。この度はこちらの不手際で誠にお手数をおかけいたしました。新たな世界でよりより余生をおすごしください」


 そう言うと、おねーさんは深く深くお辞儀をした。

 俺はその瞬間、深い深い眠りに落ちた。

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