第62話 幼馴染

前書き:

あとがきにてお願いがありますので、よろしくです!!!!

――――――――――――――――



「エルセ、そのままでよいのですが、今日はもうすぐお客さんが来ます」

「へ?」

 

 熱烈な看護を受け、さらにはクローナのチュッチュとした責めでイチャイチャな時間を過ごした中で、唐突にクローナがサラリとそう告げた。


「お客さん……?」

「はい、エルセにです。どうしても、エルセに御挨拶したいようです」

「……え、俺に!?」


 別に客人くらい……と思ったが、それが自分との面会のためだと知って、エルセは少し慌てた。


「ちょっ、待て、俺にって……ここに来るのか?」

「はい」

「いや、は、はいって、こ、ここ、一応お前の家だよな?」

「違います! 私たち家族の家です! むふん!」

「あっ、そういうことじゃなくて!」


 ここは自分一人の家ではなく、エルセやジェニも含めた家族の家だと、ちょっと頬を膨らませて強調するクローナだが、そう言う問題ではなく、エルセが言っているのは表向きの話である。


「もちろん、この屋敷に来られるには結界があるので、誰であろうと手続きやら出迎えが必要なので、今ザンディレに迎えに行ってもらっているところです。本当はザンディレも昨日の戦いでかなり痛手を負っていたので、安静にして欲しいのですが『自分こそがこの屋敷の玄関であり門番です』と言って、強引に……」

「ああ……どーりで、あいつが居ないわけ……って、いやいや、そうじゃなくて!」


 自分との面会。そのために、魔界の姫であるクローナの屋敷に訪れる。

 そんな申し入れができるのは……


「ち、ちなみに、ど、どんな人? お前の姉さんとか?」

「いいえ。ですが、トワお姉様の副官のお二人です。ちなみに、一人は魔界屈指の名門部族の長の嫡男……もう一人は、魔界公爵家の方です」

「なんかすごい身分高そうな奴らじゃん! 俺、こんな包帯グルグルなんだけど!?」


 そう、やはり魔界の中でも高貴な身分。

 いくら自分がクローナに庇護されているとはいえ、クローナの評判を乏しめるようなことをしてはならない。

 それが貴族などという礼儀作法も気にしそうな相手には特に気を使わねばならぬと、エルセも自覚していた。


「そこまで気にする必要もないですよ~」

「気にするって。そもそも俺は人間の世界でも平民だったし、だから……ッ……」


 そこまで口にして、エルセは言い淀んだ。

 そう、エルセもジェニも平民だった。

 兄であるテラが戦争で武功を上げて八勇将にまでなったから生活環境が変わっただけだが、根も金銭感覚も平民。

 そして、自分たちが平民だったからこそ、故郷ではそれを良く思わない貴族たちがいて……


「大丈夫です!」

「ッ……クローナ……」


 そんなエルセの不安を看破したかのように、先ほどまで甘々イチャイチャモードだったクローナが、途端に強く真っすぐな目でエルセの手を握った。


「ぜ~~~~~ったいに大丈夫です。だから安心してください」

「……だ、だけど……」

「それに、今日来られる二人なら特に大丈夫です。私の幼馴染でもあり、大切な友人で信頼してるのです!」

「え……幼馴染……」

「はい……あっ、でも安心してください! 幼馴染で、二人は男性ですけど、でもな~~~~んにも、男女のアレ的なものはないのです! 私の初恋もイチャイチャも、ぜ~~~んぶ、エルセが最初なので、何にも心配いらないです! そもそも二人には既に美人な奥さんと可愛いお子さんが居るので、大丈夫です!」

「あ、いや、そこは、あ……ま、まあいいや……うん」


 エルセが「幼馴染」に反応し、クローナがエルセにヤキモチや嫉妬する必要はないよと強調し、その圧にエルセも思わず言葉を呑んでしまい、それ以上は何も言うことは無かった。


(幼馴染……か……)


 本当は、そのときエルセが「幼馴染」という言葉に反応したのは、そういうことではなかったのだが、それを口にはせずに飲み込んだ。


(ちっ、嫌なことを思い出しちまったぜ……もう、『あいつら』のことはどうだっていいんだよ……もう、俺とジェニはあの国でのことは兄さんと姉さん以外のことはもう……あの後どうなろうと……)


 エルセにとっての幼馴染。自分たちを裏切った女。

 自分たちを捨て、涙で謝罪しながらも、テラとシスを死なせる原因を作ったビトレイの妻になることを宣言して自分たちを見捨てた。

 無論、それが家族やその周囲の今後を考えての苦渋の決断だったことや、ビトレイや彼女たちの父親に騙されていたということもる。

 勿論、エルセにとってそんなもの言い訳にすぎない。

 だが一方で、もしあんなことがなければ、将来は彼女たちの誰かと……そんな可能性もあったかもしれない。

 だから許すというわけでもないし、そもそももう「どうでもいい」と自分の方からも切り捨てた。

 もうどうしようもないことでもあり、考えたところで、その後のことを知ったところでの話なのだが、不意にクローナが「幼馴染」という単語を口にしたことで嫌でも思い出してしまい、心が苦しくなった。

 すると……


「クローナ様。シンユー副長と、マイト副長が来られました」

「あっ、はーい! 通してください」


 部屋の扉の外から、ザンディレの声。

 そして、エルセもハッとする。

 ザンディレ以外の二つの気配。

 そして、それが扉越しで姿も見えていないのに感じる雰囲気……


(ツエーな……)


 そう思いながら開かれる扉。

 そして入ってくる二人の武将。

 シンユーとマイト。

 六煉獄将ではないものの、その強さも身に纏う雰囲気も並ではない。

 それこそ、「次期・六煉獄将候補」とまで言われているほどの、魔界でも屈指の将来有望の若武将でもあるのだ。


「お久しぶりです、クローナ姫」

「ご無沙汰しております。この度は、無理な面会を了承いただき、ありがとうございます」


 部屋に入った二人は、まずはその場で片膝付いてクローナに頭を下げる。


「ええ、ごきげんよう、お二人とも」


 ベッドから離れ、クローナも姫としての雰囲気を纏って二人に応える。

 そして……


「姫様、そちらが……エルセ殿、そしてジェニ殿ですね?」

「ええ、そうです」


 狼人族のシンユーがエルセとジェニを見て確認。

 その問いにクローナが頷いた瞬間……



「……え、……えええ!?」



 その瞬間、エルセは驚きのあまり飛び跳ねそうになった。

 ジェニもプシィ口開けて驚いている。

 しかし、クローナはまるで分かっていたかのように、大して驚いていないが……


「な、え? ええ? なに?」


 目の前で起こったこと。

 それは、シンユーとマイトが同時に、エルセに向かって土下座したのだった。








――あとがき――

お世話になってます。


今朝見たら、週間ランキングで57位と、昨日より20位ぐらいあがってました……これは、目指しますもうちょい上を! ありがとうございます!


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