第25話 天賦の少女
魔王城の広々とした中庭。
芝生を植えられ端には魔王城という仰々しい名の城には似つかわしくない綺麗な花壇が並んでいる。
その中央に立って向かい合う、六煉獄将ガウルとジェニ。
「ちょ、エルセ、大丈夫でしょうか……ジェニだけだなんて」
「おい、ジェニ。相手はキハクと同じ六煉獄将だ。だから――――」
「いい、私がやるよ。エルお兄ちゃんは休んでて」
六煉獄将と8歳の女の子が一騎打ちなんて常識的にありえない。
しかし、ジェニは頑なに「自分がやる」と鼻息荒い。
「いやぁ……ううむ……キハクの話ではかなりの天賦の魔力を持っているとの話だが……まさか僕がこんなお嬢ちゃんと一騎打ちとは……」
「とはいえ、それでもキハクが認めているということは、相応の魔法を使えるということだ。油断すると火傷するぞ?」
「ひははは、確かにかなりの念力魔法という話だし……はてさてどうなるかなぁ?」
ガウルもジェニとの一騎打ちにあまり気乗りしなそうだが、それでもジェニの才能の噂は聞いているだけに、周囲のトワイライトも参謀も興味津々の様子。
「おい、ジェニ。本当に……」
「エルお兄ちゃん、しつこい。私だって……できるもん」
それでも兄としてジェニを六煉獄将と立ち合わせるのはまずいと思っているが、ジェニは頬を膨らませながら俺を睨みつけてきて……
「だから……一人で行っちゃうのやだから……」
「……ジェニ?」
「エルお兄ちゃん、これからも戦うでしょ? 私も一緒だから……置いてきぼり絶対やだから……したら、エルお兄ちゃんぶっとばすから……私、強いから一緒に戦うから」
どうやら、俺がこれから帝国相手への復讐に身を投じることに、ジェニも感覚で分かっているようで、その際は自分も戦うと言っているのだ。
それは、単純に自分も一緒に復讐したいとかそういうことではなく、『ただ一緒にいたい』というジェニの気持ちが強く伝わってきた。
自分は足手まといにはならないから連れて行けと……
「ふぅ……やれやれだね。まぁ、安心したまえ。僕も流石に小さな子供相手にムキにはならないさ。少し見たいだけ……さぁ、かかってきたまえ、お嬢ちゃん。僕が遊んであげるよ」
そんな決意のジェニに対し、ガウルは爽やかに微笑みながら両手を広げてジェニを迎えようとしている。
それは「ノーガードだから好きに攻撃して来い」と言っているように見える。
それに対してジェニは……
「……私のことちっちゃいと思ってるかもしれないけど……もう、8歳だもん!」
「ふふふ、はいはい」
「う~、じゃ、私からやるから! すごいのやるから!」
「ああ、出してごらん。手を出さないから♪」
バカにされていると思ったのか、むくれた表情で両手を前に突き出す。
そして……
「……ううう~~~~~~~~~~」
「ッ!?」
次の瞬間にはガウルは……
「……むっ」
「ひは?」
トワイライトも参謀も眉がピクリと動いた。
唸って魔力を練り込んでいるジェニの姿に、只ならぬ力を感じたんだろう。
「……エルセ……これは」
「くははは、溜める時間をくれるんなら……いくらでもな……先日のキハクの時とかで念力魔法を多用していたのは、あくまで慣れているからと、無詠唱で瞬間的に発動できるから……でも、ああやって相手が手も出さずにただ待っていてくれるなら……」
俺も訓練で見せてもらったときは、ハッキリ言って戦慄した。
そして、アレは無闇に人には撃っちゃダメって言ったんだが……
「ううううううううううううう!!!!」
「「「「ッッッッ!!!???」」」」
空気が揺れる。激しく乱れる。
ジェニの両掌から放出される魔力が、やがて球体となって徐々に大きくなる。
「ジェニは何をしようと……エルセ、アレは魔法? 何の魔法ですか? 属性は?」
「アレは……属性とかそういうもんじゃない。ただ、体内の魔力を両掌に集中させ、高密度、高質量、そして高圧縮した魔力の固まりを高速で飛ばす……以前山の中でやったら触れた木々や岩を消滅させるぐらいで……俺は当たったら死ぬ」
「ッ!?」
六煉獄将なら死ぬとかそういうことはないと思うが、アレを食らえばダメージぐらい――――
「な、お嬢ちゃ……ッ、まずい!」
「よ、避けよ、ガウル! 直撃したら死ぬぞ!?」
「ひは、何アレ!? ハンパねぇえええ!?」
え? 六煉獄将でも当たったら……死ぬ?
三人とも血相変えてるけど……
「ぶっとんじゃえ! スーパーマジカルレーザービームッ!!!!」
でも、もう遅い。ジェニの攻撃は止まらない。
「ッッッ!!?? ぐっぬおおおお」
次の瞬間、閃光が走って一直線に勢いよく光線がジェニから放たれた。
それをガウルはこれまでの華麗な振る舞いとは打って変わり、地面にダイブしてゴロゴロ転がって回避。
「あっ……避けられた」
そしてジェニの放った光線はそのまま魔王城の壁を突き破り、彼方まで飛んで行った。
「が、ガウルお姉さま!」
「ガウル無事……かっ……て、な、なんじゃぁ、あの光線は!?」
「や、やばっ……あれほど高圧縮の光線を……は、ははは、ハンパねぇ~!」
ジェニの攻撃は当たらなかった。
だが、ガウルもトワイライトも参謀も、そしてクローナも顔を引きつらせている。
これは……
「むぅ! 避けられたけど、ちゃんと当ててやるもん! どんどん行くから!」
「ちょっ、いや、まっ、タイムだ、お嬢ちゃんッ!」
「待たない! スーパーマジカルレーザービームビームビーム!」
「れ、連射ッ!?」
一発目の射出までには時間はかかるが二発目以降は魔力配分さえコントロールすれば連射できる。
ジェニが次々と放つ光線に、ガウルはただ逃げ惑う。
「ぐっ、待てと言っているのに……炎を纏いし天馬よ駆け抜けろ! 火魔法・ファイヤーウィングペガサスッ!!」
そして、ガウルは必死だったのか、燃え盛るペガサスの形をした炎の魔法をジェニに向けて放つ。
俺もこれまで見たこともない、明らかに高等の火属性の魔法で、子供に向けて放つ魔法じゃない。
それだけガウルも必死なんだろう。
だけど……
「おお、カッコいい……火のお馬さん……火だから……水かな? 水魔法・ウォーターウィングペガサス? あ、できた!」
「……え?」
ジェニは目を輝かせ、放たれた火のペガサスに対して、水のペガサスを発動してぶつけ、かき消しやがった。
「な、え? じぇ、ジェニは今、何を……」
「ガウルの魔法を見て、同じようなものを属性変えて放ったんだ……ジェニは一度見た魔法は感覚で自分でもできるようにしちまうから」
「……え?!」
そう、魔法使いとしての才能が違いすぎるんだ。ジェニは。
「今更ながら恐ろしく……そして悔やむな……一度でもジェニに回復魔法を誰かが見せていれば……」
別にジェニの所為なんかじゃないが、それでも少しだけ「もしあのとき……」とどうしても思ってしまうぐらいの才能をジェニは見せつけた。
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