根っこの国の死神少女 ホラー・ガール

雨世界

1 よいしょ、よいしょっと。

 根っこの国の死神少女 ホラー・ガール


 登場人物


 ホラー・ガール 根っこの国で生まれた女の子。十五歳。穴掘りの仕事をしている。


 ホラーの影 ホラーの友達。


 イメージシンボル 安らかな君の寝顔


 完璧な人間なんて、この世界のどこにも存在していないよ。


 月の舟


 私は歌を歌った。


 私は恋をした。

 それは突然の恋だった。

 それは突然の出会いだった。

 私はあなたに出会い、恋に落ちた。(本当にすとん、と落ちた)

 あなたは私の前に本当に突然あらわれた。

 まるで運命のように。

 まるで映画のワンシーンのように。

 初めからそうなることが決まっていたみたいに。

 私の前にあらわれて、私の心を奪っていった。

 そして、私の前からいなくなった。

 消えてしまった。

 風のように。

 どこか遠い場所にいってしまった。

 だから私は泣くことにした。

 一人ぼっちで泣くことにした。

 好きなだけ、大好きなものを失った子供みたいに泣くことにした。

 やがて私は月を見るようになった。

 月を見て、歌を歌うようになった。

 あなたを思って。

 歌を歌った。

 毎晩、毎晩、歌を歌った。

 一生懸命、歌を歌った。

 恋の歌。

 月の歌。

 夜の歌。

 いろんな歌を歌った。

 喉がかれるまで。

 ……私の命が、尽きるそのときまで、一生懸命、歌を歌った。

 それが私の人生だった。

 それが私の初恋だった。

 それが私の美しい思い出だった。

 ありがとう。

 本当にありがとう。

 私に、希望を与えてくれて。

 私に、勇気を与えてくれて。

 私に、夢を与えてくれて。

 こんな私に、愛を教えてくれて。

 本当にありがとう。

 大好きです。

 本当にあなたのことが、大好きです。

 今も、……そして、これからも。

 私はゆっくり目を閉じる。

 すると、真っ暗闇の中にあなたの顔が見えた。

 あなたと出会えて、私はにっこりと笑った。

 これから訪れる長い眠りの中で、まず最初に、あなたに会うことができた。

 これから、とっても素敵な夢が見られると思った。

 やがて私は月の舟に乗った。

 ずっと会いたかった、遠い世界にいる、あなたに会いに行くために。

 月の世界に行くために。


 穴を埋める。


 よいしょ、よいしょっと。


 根っこの国


「よいしょ、よいしょっと」

 その日、地下のずっと奥深くにある、太陽の日の光の届かない、真っ暗な地下の世界で、きらきらと輝く紫色の水晶の明かりを光源にして、いつものように、ぽっかりと空いた巨大な空間である『根っこの国』で、死者たちを埋めるために、一生懸命になってスコップで穴を掘っていたホラーは、もうこんな仕事(あるいは、人生)は辞めたいとある日唐突にそう思った。

 確かに私は、根っこの国に生まれた存在であり、こうしてこのよくわからない地下のぽっかりと空いた巨大な空間の中の世界で、その地下の世界の硬い(まるで氷のようだった)地面の上にさらに死者たちを埋めるための穴を掘ることを、その仕事として人生の生業にしているわけだけど、そんなことは私が望んだことでは決してないのだ。

 ああ、もうこんな暮らしはたくさんだ。

 どこかに逃げ出したい。

 できれば、ずっと憧れている地上に行ってみたい。物語でしか聞いたことがない、太陽の光の輝く、あの眩しい、きらきらとあらゆる生命が光り輝く世界に行ってみたい。

 そんなことを、生まれて十五年の歳月がたった地下の根っこの国に生まれた女の子、ホラーは思って、真っ暗な空を見上げた。

「なにさぼってんの。ホラー。さっさと穴掘らないと、お昼ご飯抜きになるよ」

 そう言って、一緒に隣で死者たちを埋める穴を掘っていたホラーの影がホラーにそんなことを言った。

 性格は強気だけど、根は真面目は影は、ホラーと違ってせっせと(ノルマを達成するために)死者たちを埋めるための穴を掘り続けていた。

「影。私と一緒にここから逃げよう」とホラーは言った。

「いやだよ。だって、ホラー絶対に途中で諦めるもん」と影はスコップを持つ手を動かしながら、にっこりと笑って、ホラーに言った。

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