第4話 冒険者装備

18. 生産職として

「赤花の守り石」事件から数週間後、関係者とはいえ末端の花々に調査状況の報告等はなく、あの事件がどのように処理されたのかは未だに分からない。それとなく草薙に探りを入れてみたが、その堅い口を滑らせることはなかった。

 ただ、つい今し方のことであるが、漸く細工職人協会から事件に関する書状が入った小包が郵送されてきた。

 書状に書かれていたのは、まず謝罪と謝意の言葉だった。続いて、強制クエストの報酬及び協会に引き渡した「赤花の守り石」の代金の受け取り手順、報酬の一部として細工職人製作のアクセサリーを同梱した旨が記載されていた。

 ベッドに寝転がったまま、花々は贈られてきたアクセサリーを眺めた。

「赤花の守り石」と同じく、近接物理攻撃力上昇効果を持ったネックレスだ。白金色の細い鎖に金色の紋様が刻まれた薄紅色の石が大小合わせて三つぶら下がっている。書状には、細工職人系の製作品で尚且つ花々が装備可能なアクセサリーの中では、上質な部類に入る品だと書かれていた。恐らくは商店で販売されていた既製品ではなく、彼女の為に製作された物だろう。

(でも、近接物理攻撃力上昇効果は、もういらないんだよなあ)

 花々の攻撃手段は、本来「魔法スキル」だ。殴る蹴るではない。今となっては、こんな物に意味はないのだ。

(物理攻撃と言えば、草薙さんもアルトさんもサブ職弓士だったなあ。近接ではないけど)

 弓士系は、「敏捷」や「器用」(共にステータスの一種)の成長に有利な職業である。生産職の大半がこの「器用」の影響を強く受ける為、草薙達の様に弓士系職業をサブ職業として選択する者は多い。

(にも拘らず、あの人は知力や魔力を必要とする職業を推したんだよな……。何で皆、私に不遇職を勧めるのか)

 多分、不遇で人少なだからこそ少しでも多くの人に引き受けてほしいということなのだろうが、勧められる方は少々反応に困ってしまう。

 細工職人については、最終的に自分でも納得して選択したのだから文句は言えないが。

(そう言えば、学校で一度だけ作ったアクセサリー、何処やったっけ?)

 細工職人となった今では、初製作のアクセサリーは記念の品だ。久し振りに見てみたい。

 懐かしい記憶に背中を押されて、室内を捜索しようと起き上がった瞬間、目的の品は引っ越しの際に処分してしまったことを思い出してしまった。自分で仕出かしたことながら、静かにショックを受ける。

 花々は、再びごろんとベッドに寝そべった。

(私、暫く製作スキル使ってない)

 そう考えると涙が出そうだった。

 花々はくすんだ天井に向かって、呟いた。

「何か作りたいなあ」

 静まり返った部屋に、その呟きが大きく響いた。

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