社畜、冥層主を倒す 後編
大蜘蛛による重い攻撃を防ぎながらこいつに勝つ思考を巡らす。
今はただ突進してきたりするだけだが、後々何かアクションを起こしてくるだろうし……やっぱここは最初から殺った方がいいか?でも配信映えしないしなぁ〜
これでも一応は配信者の端くれと言えるが……こんな危機的な状況でも配信映えを気にする配信者の鑑とでも言っておこう。
大蜘蛛は内に秘めている魔力を使わずにただ自分の重量に身を任せて突進してくるのみの単純な攻撃だ。繭から孵ったばかりだからか魔力の扱い方が分かっていないのか……?
それはそれで有難いが……だとしても配信映えしないな。リスナーはもっと激戦を見たいはずだ。
だったら……こっちから仕掛ける。
大蜘蛛が再度こちらへ突進してくる。俺はただそこへ立ち、防ぐ動きを見せない。好機と思ったのか、大蜘蛛はスピードを上げ俺に突進してくる。まるで最高速度に達した列車のように、大蜘蛛は突進してきた。
それに対して俺は蜈蚣神を前へ差し出し、大蜘蛛の頭部の中心へ固定した。
このまま大蜘蛛が突進してくれば、蜈蚣神は深く大蜘蛛の頭部へ突き刺さり身体を両断するだろう。
しかし、そう簡単に死んでもらうのは困るのだ。ただ突進して固定されていた短剣へ突き刺さって死にましたなんて言われても全く面白くない。単純…言わば馬鹿な大蜘蛛に向かって優希は祈っていた。
頼むから何かしらのアクションを起こしてくれ……じゃないと全く面白味がないだろ!、と……しかしそんな祈りが大蜘蛛に届いたのか、目の前にまで迫っていた大蜘蛛が……跳んだ。
「……は?いやいやあそこから跳んで避けるのかよ…」
思わず間抜けな声を出しちゃったけど……命の危機でも感じて本能で回避したのか?でもまぁ死なずにいてくれただけいいか。
跳んで自らの頭部に突き刺さろうとしていた短剣を避けた大蜘蛛は、俺の手にある蜈蚣神を八つのつぶらな瞳で見つめてきた。警戒しているのだろうか、先程まで馬鹿のように突進してきていた大蜘蛛が部屋の隅に移動する。
《蜘蛛さんビビってますやん》
《そらあんなことされたらな》
《殺意高すぎて草生える》
《蜘蛛の勢い利用して殺そうとしてるの怖E》
《高橋「いやいやこいつが勝手に突進してきただけだからw」》
《サイコパス》
ちらっと目を向けたコメント欄にはサイコパスなどという単語があったが……俺は生憎サイコパスでは無い。モンスターを退治している善良な社会人だ。
そのことを口にするとこんなコメントが一斉に表示された。
《お前のような社会人がいて堪るか!!!》
グスン。俺は本当に善良な社会人なのに……
冥層と名付けられた最深層よりも危険な階層であり、層主とも対峙しているのにも関わらずリスナーとコメント欄で交流する優希。緊張感なんてものは何処かに捨て去られていた。
そんな優希を見てチャンスだと思ったのか、大蜘蛛が部屋の隅から素早く動く。
大蜘蛛は腹部から糸を吐きながら天井や壁を走り回り、数秒経つ頃には部屋全体に円盤の形をした糸が張り巡らされ、作られた巣の上で大蜘蛛は俺を見下ろしていた。
大蜘蛛の行動を静観していた俺に向かって大蜘蛛は咆哮をあげた。それは威嚇の咆哮ではなく喜びの咆哮とでも言ったところだろうか。巣が出来たことがよっぽど嬉しいのか、将又俺を自分の土俵へ上げることが嬉しかったのか、真相は分からない。
……どうしてこうも虫型の層主は自分の土俵へ上げれたらすぐに喜ぶんだ?……虫だからか。
俺の考えていたことを感じ取ったのか、大蜘蛛が俺に向かって糸を噴出してくる。
俺は避けることもせずに、飛んできた糸で拘束された。
抜け出してみようとするが、かなり硬い。それもそのはず、よく糸を観察してみると数十本の細い糸が束ねられて太い糸を形成しているのだ。それに加え魔力も込められているため、かなりの強度を誇るということだ。
まぁ、千切れるんだけどね!でもこのままの状態で暫く戦うか。俺を拘束すれば勝ちなんて思っていないはずだし…何か考えがあって拘束してるはずだ……だよね?
しかし俺の心配は無用だったようで、部屋中に張り巡らされていた糸が変化を見せる。
糸の側面から枝のように糸が突出し始めたのだ。ある程度伸びると、突出した糸が一点に収束し始めた。それは他の糸でも起り、やがて捻られ針のように尖端が尖った。
収束され捻られた糸は俺を突き刺す勢いで、頭上から雨のように降り注ぐ。そんな中、俺は最小限の行動で針の雨を避けていた。傍から見れば軽々と避けているようにしか見えないが、当たればしっかりとダメージをもらう程度には威力は高かい。
現に俺が避けた地点には剣山のように針が地面に深く刺さっていた。
次期に針の雨は止み、拘束されたまま生き残った俺を大蜘蛛はじっと見ていた。
「さて蜘蛛さんや……どう動く?」
俺の問い掛けに答えるように、大蜘蛛は巣から飛び降りた。俺も拘束していた糸を千切り、アビリティボックスから九割引き出し、蜈蚣神を構える。
八つの目と目が合うと同時に、俺たちは動き出した。
突進してきた大蜘蛛を微動だにせずに受け止め、正面にある大蜘蛛の頭部に蜈蚣神を突き刺す。蜈蚣よりも硬いであろう大蜘蛛の外骨格をいとも容易く貫通した。そのまま刀身を伸ばし、大蜘蛛の頭を両断する。が、両断され左右に分かれた頭部が元の位置に戻るように再生した。
《きっしょ》
《高橋の腕再生シーンよりグロい》
《ガチめに吐きそう》
《_| ̄|○、;'.・ オェェェェェ》
《※閲覧注意》
《遅いでオエエエエ》
「おい待て俺の腕再生シーンよりはグロくないだろ」
俺はコメントに抗議するが、再生した大蜘蛛が俺の腕に噛み付いてきた。大蜘蛛の牙は俺の皮膚を突き破る程に強力だった。
俺は力任せに噛み付かれた腕を振り、大蜘蛛を投げ飛ばす。途端に、腕へ激しい痛みが走った。噛まれた箇所を見てみると……そこは紫に変色し、毒毒……いや、ドクドクと脈を打っていた。
しかし九割状態は解毒も出来るため、すぐに痛みは引いた。
自分の毒が効いていないことに気付いたのか、大蜘蛛が焦りを見せる。大蜘蛛は巣へ飛び乗り、またもや先程の針の雨を降らした。
「芸がないねぇ……」
俺は蜈蚣神の刀身を伸ばし、針の雨から守るように自身を囲う。蜈蚣神に触れた針は切り刻まれ、俺には一切ダメージが無かった。
大蜘蛛は先程よりも更に焦りを見せ、巣の上であたふたとしている。
可哀想になってきたし……ここで終わらせるか。
実は先程、蜈蚣神で身を守っていた時に気付いたことがある。この短剣…魔力を込めれば込めるほど、刀身の伸びる距離が長くなるのだ。つまり今の九割状態の魔力を込めて振るえば……この部屋全体を切り刻むだろう。
蜈蚣神へ魔力を込め始める。地面へ垂れているワイヤーで繋がれた刀身が伸び始めた。
膨大な魔力は蜈蚣神に込められていることに気付いたのか、大蜘蛛が降りて突進してくるが……蜈蚣神には十分な魔力が込められていた。
そのことを確認した俺は大蜘蛛に向き合い、最後の挨拶をする。
「あばよ」
俺が蜈蚣神を振るい始めると、張り巡らされていた巣が切られていき、大蜘蛛は為す術なく細切れとなった。
不規則な軌道を描く蜈蚣神をアイテムボックスへ強制的にぶち込み、跡形も無くなった部屋を見渡す。
「これにて、冥層主討伐終了だな」
《化け物です》
《怪物です》
《伝説です》
《最早モンスターです》
《生まれて一時間で殺される大蜘蛛が不憫すぎるだろ》
《まぁ大勢の命を助けたことは事実だし…》
「あはは…それじゃ、配信の方もこれにて終了!それではまた次の配信で〜」
俺はそれだけ言って、配信を終わらした。
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えちょまです
いやぁ、今日2話更新するとか言ったけど無理!ごめん!この埋め合わせはいつかするから……
あと新作も考えてるのでそこら辺も…
それと50万PV感謝!
それじゃ
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