A2 


『るなちゃんに近付くな! 4ね!』

『同箱でもない奴が出しゃばりやがって。自分の巣に帰れよゴミ』

『そもそもお前誰やねん。売名すんなカス』


 突然のコラボ企画配信を無事(?)に終え、はるのSNSアカウントには過去類を見ない程に多くの反響が寄せられていた。DM欄は既に罵詈雑言のコメントで埋め尽くされている。


『初炎上おめでとうございま~すwww』

『ついに炎上のアチーブメントが解除されましたね!』


「できれば解除したくなかったんだけどなぁ」


 Vtuberとして活動を始めて、早一年半。他のVtuber方々のサポートやリスナーの応援もあって、個人勢としては異例な勢いで登録者を伸ばしてきたが、楽しみつつも堅実な配信を自分なりに心掛けてきたつもりだ。その甲斐あって、これまで一度として「炎上」というものを経験したことが無かった。しかし、今この惨状を見るに、どうやら自分も遂に炎上してしまったらしい。


「さて、これからどうしますかね……ん?」


 対策を講じるわけでもなくポツリと呟いたタイミングを見図ったように、一本の通話がかかってくる。相手のアイコンを確認したのち、通話を開始する。


「もしもし」

『……もしもしなんて通話アプリでわざわざ言わなくね?』

「何となくだね、特に意味はないよ。それよりもお疲れ」

『おう、お疲れ。……で、どうだった?』

「どうだったって、なにが?」

『なにがって、そりゃ配信のことに決まってんだろうがよ。なかなか面白い企画だっただろッ?』

「……あのねぇ。確かに配信は盛り上がったし、企画も面白いとは思うよ。ぶっ飛んでるとは思ったけど事務所がオッケー出したなら僕がとやかく口を挟むことじゃないし。でも、その前にまず言うべきことがあるんじゃないのかな?」

『……それもそうだな。――――初炎上おめでとう!』


 ティロリン♪


 思わず通話を切ってしまった。一秒とせずに再び通話がかかってくる。


『なんで切るんだよ』

「そりゃ切るよ。誰のせいだと思ってんだ」

『それだけ反響があったってことだろ? それより見たか? 「ベストカップルGP」がトレンド上位に入ってたぜ!』

「炎上を『反響』の二文字で片付けないでくれるかな。……いや、もういいや。『カナタ』はそういうやつだもんね」


 配信を盛り上げるためなら何だってする。それが「カナタ・ノミラーイ」が掲げる唯一つの信念であり、彼という存在の本質であり、配信スタイルなのだ。誰よりも近くで見てきたからこそ、それが今更曲げられるものではないことは誰よりも理解している。巻き込まれる側としてはたまったもんじゃないが、その辺の線引きすらカナタならうまくやるのだろう。その点に関してはさすがと言うほかない。


『おうよ。分かってんじゃん。それに、初炎上だからって今更お前がそんなアンチコメントなんかでどうにかなるような奴じゃないことくらい分かってっからな』

「それはそうなんだけどさ。僕のことが嫌いなはずなのに、わざわざコメントまでして忠告してくれるなんて親切な人たちだと思わない? いや、もちろん炎上しなくて済むならそれに越したことはないんだけどさ」

『いや、そんな風に考えられるのがスゲーわ。俺からしたらアンチコメなんてゴミみたいなもんだし、見る価値ないと思ってるからな』

「それに関しては人それぞれだからね。あくまでこれは僕、というか陽の価値観・・・・・だし、誰かに押し付けていいものだとも思ってないよ。まあ、どんなコメントでも貴重な意見だし、全部目を通した上で今後の配信の参考にするよ」

『……ま、お前ならそうだろうな』

「ん、なに?」

『んでもねーよー。そんなことより、今後の企画にはもちろん参加するんだよな?』

「さすがに今更やめるわけにはいかないでしょ。僕だけならまだしも、夢見さんからしたら公式番組に出演できる折角のチャンスなわけだし、迷惑はかけられないよ」

『それが聞けて安心したぜ。いや別に心配はしてなかったんだけどさ。事務所もまさかマジで事前連絡してないとは思ってなかったらしくて、配信中に焦りの連絡が来てたからさ。念の為、な?』

「そこに関しては事務所が正しくない? さすがに事前確認くらいはしてほしかったよ。危うく放送事故だったじゃん」

『んー、それはそれで撮れ高! それに事前確認なんてしてたら断ってただろ』


 それはそうかもしれないと思い、言葉に詰まる。まあ最終的には多少なりとも配信が盛り上がったようなので良しとしとこう。こんなことを考える時点で、カナタ・ノミラーイに毒されているというか思う壺というか。


『――で、本題なんだけど』

「あ、今までのはオードブルだったのね」

『夢見との初配信はいつにするか決まってるのか?』

「さすがにまだ。というか配信が終わってから十分も経ってないよ」

『甘いな。俺たちのペアはもう配信日は決まってるぞ』

「え、まじ? 配信だと犬猿の仲っぽかったのに、そういうところはさすが配信者というべきか」

『鉄は熱いうちに打てってな。炎上してる陽にぴったりだな』

「一言余計だよ。そういえば今回の企画で配信ノルマみたいなのはあるの?」

『ああ、伝え忘れてたな。公式的に発表してるわけじゃないが、メンバーには一週間に二回、それぞれ少なくとも一時間以上は配信するようには伝えてある』

「了解。じゃあ夢見さんには僕から声をかけてみるよ。ちなみに夢見さんについて何かしら情報とかアドバイスとかあったりする?」

『そういうのを本人に聞いて親睦を深めていくってのが今回の企画趣旨だぜ?』

「それもそうだね。ごめん、聞かなかったことにして」

『ま、いいさ。そうやって人に気を遣えるのが陽の美点だしな。ただ一つ言っとくと、今回みたいに炎上しかねない変態企画に参加するような奴は、誰だって何かしら事情があるんだろ。それが何なのか本音で語れるようになれば、良いコンビってことなんじゃないか?』


 良いコンビとやらに自分はなれるのだろうか。初対面の、しかも異性と。カナタはなるだろう。そういう奴だ。否、この企画自体、そうなることが大前提なのかもしれない。そのうえで「ベスト」を決める、鬼畜企画。悪友はなかなかに難しいことを注文してくれる。だが、実に面白い。


『後輩を任せたぜ、相棒?』

「相棒はイナムさんでしょ」


 十分足らずの通話が終わる。

 SNSアカウントに今も送られ続けているDMについては後でじっくり見させてもらうとして、ひとまず初回のカップル配信日について相談すべく、通話アプリで夢見さんに友達申請を送った。


 ◇


『今夜も一緒に夢見よ? ぜろいちに所属の夢見るなですー。こんるなー』


 仄かに気だるそうな声と共に、待機中だった配信がスタートする。画面にはひとりの少女が映し出され、身振り手振りを表すように左右に揺れている。どこか挑発的な表情と、地雷系と言われそうな可愛らしいファッションが特徴的な「夢見るな」の登場だ。ワンポイントの兎の髪飾りがご機嫌ななめそうに口をへの字に曲げている。


:こんるな~!

:こんるな~!

:こんるなー!

:相変わらず挨拶ちょっと嫌そうで草

:ばっか、そこが良いんじゃねーか

:たしかにキャラ的にも微妙に挨拶の方向性違うよな


『うっさいわい。デビューから続けてる挨拶を今更変えるのも変だから我慢して使ってんの。あんたたちは黙って夢見てればいんだから』


:新挨拶「だまって夢見ろ、夢見るなです」

:草

:そっちの方が似合ってて草

:まあまあ、あの子も頑張ってるんよ

:親目線おる


 コメント欄とバチバチにやり合う夢見さんは、声のトーンや話し方からして以前のコラボ配信の時とはイメージが違う。きっとこんな風にリスナーとわいわい盛り上がるのが彼女本来のスタイルであり、訪れたリスナーが求めているものなのだろう。だからこそ、徐々に近づく参加のタイミングに緊張が増していた。


『はいはい。配信タイトルで分かってると思うけど、今日は合コン企画の配信だから。無理な人は先にブラバしといてー』


:ブラバ勧めんなw

:いやでも確かに嫌な人は見ない方が幸せかもよ?

:このコメントは削除されました

:Vtuberだもの、こんくらいするよ

:するか?w

:俺は初めて見たが……

:このコメントは削除されました

:まあ、るなちゃんが参加するのは意外やったけども

:ここのカップルが一番荒れそうではある

:このコメントは削除されました


『じゃ、とりあえず挨拶だけしてもらった方がいいか。えーっと、本企画の被害者――はるさんです!』

「こ、こんはる~。ご紹介にあずかりました、個人勢Vtuberの陽です! 本日はよろしくお願いします!」


 夢見さんに合図され、マイクをオンにする。そして、画面の中の夢見さんの隣には見慣れた自分の姿が映し出される。途端にコメントの流れが加速し始めるが、明らかに先程よりも削除されるコメントの割合が増えている。こちらからは分からないが、きっと動画の低評価数も増えているのだろう。申し訳なさでいっぱいだが、今はそれ以上にこの配信をどれだけ多くの人に楽しんでもらえるかの方が重要だ。


:こんはる~!

:こんはるー!

:珍しく陽も緊張してる?

:何気に陽が女性Vとサシでコラボするのって初めてだよな

:このコメントは削除されました

:炎上不可避で草

:確かに批判は多いけど、それ以上に期待も凄いよな

:企画自体は普通に面白いしな

:既に被害者が一名いるけどな


『――――まず初めに謝らせてください!』

「あまりにも唐突すぎません?」

『あのですね、非情に申し上げにくいんですが、この企画が始まるまで陽さんのことは名前くらいしか知らなくてですね……』

「ええっ!? いやいや、そんなことで謝らないでください! むしろ名前だけでも知っていてもらえて感激ですから!」


:コラボ配信一発目に謝罪は草

:陽も珍しく慌ててるw

:正直に言えて偉い!

:この企画じゃなかったら出会わなそうな二人ではある


『過去配信のアーカイブとかもまだ見れてないんですけど、何というか、陽さんとコンビを組むって発表されてからの事務所メンバーたちの反応が凄くてですね……』

「はい?」

『「俺の陽を返せ!」だとか「陽は俺の嫁」だとか「陽くんを賭けて勝負だ!」みたいなメッセージがめちゃくちゃ飛んできました。しかも、あまり関わりがないような先輩とかからも送られてきたりして、私はどう反応すればいいのか……。ちなみにほとんど男性から』

「うん?」

『陽さんって本当に人気なんだなぁって』

「褒められてる気がしない……!?」

『あ、でも自分BLもいける口なんで』

「絶対に今言うことじゃないなぁ!?」


 あ、楽しい。短いやり取りの中で、少しずつ緊張が解れていくのが分かった。画面の中では自分と夢見さんの両方が朗らかな笑みを浮かべている。それにしても、相変わらず「ぜろいちに」の人たちは賑やかで羨ましい。これまで何度もコラボ等でお世話になってきたが、Vtuber界隈でも大きな事務所なだけあって、面白い人材で溢れている。自分がその中に混ざれないのが少しだけ残念だ。


:草

:陽は俺の嫁ェェ!

:陽は同性Vtuberから異常な支持を集めてるからなw

:企業勢から狙われる個人勢

:ん? ほとんど? つまり一部は女性だった、ってこと。。。?

:このコメントは削除されました

:あっ

:名推理きたな

:ぺろっ。ぎるてぃ。

:炎上不可避

:このコメントは削除されました

:るなちゃんは意外と腐女子ぎみなとこあるよなw

:陽が振り回されてるの草


「そ、それはさておき、自分も謝罪しなければいけないことがあるんです!」

『まさかの陽さんもですか』

「大変申し訳ないんですが、夢見さんのことは名前とお姿くらいしか存じ上げておらず……」

『いえいえそんな。人気者な陽さんにそこまで認知されてるだけでも光栄です』

「っ! それを言うなら一年で登録者20万を超えてる夢見さんはどうなるんですか」

『私のはほら、事務所バフってやつですね』

「そんな大きなことで言うことではないですけどね!」


 確かに「ぜろいちに」の規模を考えれば、多少の事務所バフは考えられる。初動ブースト、先輩たちとのコラボ、システム面でのサポートなどの恩恵は、個人勢には計り知れないものだ。とはいえ、それらは万能でもなければ限度だってある。それでも20万もの登録者数を一年で集めてしまったのは「夢見るな」というVtuberの魅力に多くのリスナーが惹きつけられたからだろう。


「過去配信のアーカイブとかも見ようかなと思ったんですが、そこは敢えて見ませんでした」

『敢えて? 単純に興味がなかった、とかじゃないですよね? だとしたらさすがに悲しいんですけど』

「違いますよ!? いや、何と言いますか、折角こんな企画をやるわけじゃないですか。だったら、夢見さんのことを自分自身で知っていきたいなって思ったんです。少なくともカップルになるってそういうことなのかな、と」

「…………」

『あ、あれ、夢見さん?』

「あ、いや、えっと、あー……はい、大丈夫です。聞こえてます」


:このコメントは削除されました

:このコメントは削除されました

:おーっとこれは……

:このコメントは削除されました

:ガチ恋たちが騒ぎ始めたな

:このコメントは削除されました

:このコメントは削除されました

:でもこれはちょっと擁護できないか?w

:こういうことをサラって言っちゃうのが陽なんだよね

:このコメントは削除されました

:陽が同業者に人気な理由のひとつでもある

:リスナーにも人気だろ!

:このコメントは削除されました


『あ、私も陽さんのアーカイブは見てませんよ』

「それは自分と同じような理由でってことですか?」

『…………』

「あ、興味が無かったんですね」

『忙しかったんです!』


:あっ

:るなちゃん。。。

:まあでも実際忙しそうではあったか

:案件配信とかもあったっぽいからね

:でも、純粋にそこまで興味がなかったっていう理由も含まれてそうではあるw

:解釈一致です

:これにはガチ恋勢もにっこり

:コメント欄一気に大人しくなって草


『と、とりあえず前置きはこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょーか』

「あ、逃げた」

『進行! あー……今日は初めてのカップル配信ということで、事前にリスナーから集めておいた質問を参考にしつつ、お互いに理解度を高めていければなと思いまーす』

「わ~ぱちぱち」

『馬鹿にしてます?』




――――

 質問①:ご趣味は?

――――


『趣味かぁ。ありきたりかもしれないけど、映画を見たり、ぶら~っと散歩したりとかかな』

「王道ですね。ちなみに映画とかはどんなジャンルを見るんですか?」

『コメディとか、恋愛系とかですね』

「へ~。良いですね~」

『……今、恋愛映画とか似合わないって思いましたね?』

「本当に一ミリも思ってないです、冤罪です」


:るなちゃんセレクトの映画面白いんだよなぁ

:それは分かる

:恋愛映画が好きっていうのは正直イメージとは違くはある

:それも分かる

:確かホラー映画は大の苦手だったよな?

:解釈一致すぎて草


『……逆に、陽さんは何か趣味とかはあるんですか?』

「趣味って言っていいのかは分かりませんが、割と家事全般、特に料理が好きですね。一人暮らしなので基本的には自分用になってしまうんですが、いつか誰かに振る舞う機会があればいいなぁ~なんて」

『え、すごい。私も一人暮らしですけど、料理とかは全くしないですね』

「あ、しないだけで、出来はする感じです?」

『……出来ないくせに出来るような発言をしてすいませんでした』

「あっ」


:あっ

:あっ

:いっつも宅配頼んでるよな

:最近はやりのやつな

:楽だけど配送料が高いんだよなぁ

:るなちゃんは料理しない(できない)

:やめて差し上げろ




――――

 質問②:好きなことを教えてください!

――――


『やっぱりゲームですかねぇ。とりあえず鉛玉をぶっ放せるのが良いです』

「鉛玉っ!?」

『FPSゲームが好きなんですよ。というか、私を含めて五期生は基本的にそういう系のゲームの腕を買われてデビューしたようなものなんで。ちなみに陽さんはFPSゲームとかされるんですか?』

「自分はお誘いいただいた時に参加するくらいですね。でも、それなら夢見さんと一緒にプレイしてみたいです!」

『えっ、いいんですか?』

「ぜひぜひ!」


:陽はFPS初心者の割にちゃんと動けてるよな?

:本人は人を傷つけるゲームはあんまり好んでやらないみたいだけどな

:このコメントは削除されました

:適正が高いのか低いのか分からんな

:ガチ恋勢もよう見とる


「自分はまあ料理を抜きにしたら、配信するのが好きですね。リスナーのみんなと話したり」

『なんか配信者としての模範解答みたいですね。他にはないんですか?』

「えっ。それ以外だと、うーん……あ、たまに友達とカラオケ行くんですけど、歌ったりとかは割と好きかもです」

『おぉ! 歌! めっちゃ良いじゃないですか。私めちゃくちゃ音痴なので普通に羨ましいです。もしかして「歌ってみた」とか……』

「残念ながら『歌ってみた』系の動画は投稿したことないですね。そもそも歌うのが好きなだけで、うまいってわけではないと思うので。でも、いつか出せたらなぁくらいには思ってます」

『なるべく早くお願いしまーす』


:陽の歌ってみたは普通に期待しかないんだが?

:まじで早くあげろ

:声良いんだから、もっとそういうのやれ

:ボイスはたまに出してます

:まじか、知らんかったわ。聞いてみよ




――――

 質問③:コンプレックスとかありますか?

――――


「あー、コンプレックスってわけではないんですが、自分の運の悪さに他人を巻き込んでしまうのが苦手、というか怖いですね」

『そういえばコメント欄でも運については指摘されてましたね』

「自分ではそこまで運が悪いとは思ってないのと、自分自身に災いが降りかかる分には全く問題ないと思ってるんですけどね。それが原因で周りに迷惑をかけてしまわないか心配することが多いですね」


:確かに陽は運無いもんなぁ

:配信ではそれもまたキャラのひとつとして人気な部分ではあるんだけどな

:自分はいいけど周りが心配ってのは、陽らしいわ


『私のコンプレックスは……声、ですかね?』

「声ですか? 素敵なお声だと思いますけど」

『まあ、そう言っていただけるのは有難いんですけど、私って女子の割にちょっと低めなんですよ。同期の子たちはもっと女の子らしい可愛い声だったりするので、自分の声があんまり好きじゃないというか。あとは……いや、なんでもないです』


:声コンプレックスはたまに配信でも言ってるよな

:るなちゃんの声が好きってやつは多いんだろうけど、どう感じるかは本人次第だもんな

:あとは?

:目線が下を向いてたから自分の身体とか?

:あー、貧にゅ(このコメントは削除されました)

:あっ

:小さくても良いだろ!

:そ、そこも本人次第だから……


 コメント欄を見て夢見さんが何を言いかけたのか何となく察しがついてしまったが、これ以上は追及しない方が得策だろう。主に、自分の身のために。




――――

 質問④:今回の企画に参加した理由とかあったら教えてください!

――――


「実は自分も気になってたんですよね。今回の企画ってどうして事務所がオッケー出したのか分からないくらい炎上必至なトンデモ企画じゃないですか。だからこそ夢見さんみたいな正統派の方がどうして参加したのかなぁって」

『せ、正統派ですかね? ま、まあ何と言いますか、ぶっちゃけちゃうと、私って五期生の中では登録者数が少ない方なんですよ。どうにかしたいなぁって思ってた時に今回の企画を耳にしまして、私から参加させてほしいってお願いしたんです。勿論、周りはめちゃくちゃ驚かれましたし、心配の声もいっぱいあったんですけどね』

「めちゃくちゃしっかりした理由じゃないですか!? それなのに相手が自分って……。い、今からでも相手を変えてもらった方が良いんじゃないですか?」

『いやいやっ、そういうつもりで話したわけじゃないので! ほら、陽さんの参加理由も教えてくださいって!』

「え? 騙されたからですけど?」

『そういえばそうだった』


:登録者数の伸びって言うほど悪いか?

:同期に比べるとって話ではあるんだろうけど、十分に多い方ではあると思うけどなぁ

:最初は一番人気くらいな勢いやったんやけどなぁ

:まあ色々あったから仕方ないといえば仕方ないか

:というかるなちゃんが自分から参加希望したのは意外だな

:そりゃ周りも心配するわ

:危ない橋渡る必要あったのかは分からんが、頑張ろうとしてる推しを否定するのも野暮だよな

:リスナーは黙って見てればおk

:なお、相方は騙されただけの模様




――――

 質問⑤:お互いの第一印象と、今回のカップル配信を通して印象の変化などあれば

――――


「まず第一印象としては可愛らしい方だな、と。ただ、炎上的な心配をするのであれば一番恐怖の対象でもありましたね」

『本人を前に恐怖の対象とか言わないでください』

「今回の配信を通しての印象の変化は正直あまりなくて、基本的には第一印象のままですね。炎上についてはもう半ば諦めてます」

『私もあんまり印象の変化とかは無いですね。あ、でもやっぱり話しやすいなってのと、他のVtuberの皆が慕う理由が少しわかったような気がするなぁって感じです』


:恐怖の対象は草

:陽は話しやすそうではある

:実際、ほぼ初対面とは思えないくらいには順調に進んだんじゃない?

:カップル企画ということで、今後どうなるかに期待だな




――――

 質問⑥:おふたりのコラボ名とかあるんですか?

――――


『コラボ名かぁ~、さすがにあった方がいいのかなぁ?』

「どうなんでしょう。生憎こういった経験があまりないもので」

『私も無いんですよねぇ。まあでも、何かしらあった方がリスナーたちもSNSとかで話しやすいのかな』

「ですね。せっかくならコメントの中から良さげなのを探しますか?」

「さんせーい」


:おっと、急に一大イベントが

:コラボ名は大事だぞ

:これから長く使われる可能性もあるしね

:単純に「はる」と「るな」で、「はるるな」とか?

:安直ではあるか

:シンプルで良い気もするけどな

:陽→「朝、太陽」、るな→「夜、月」

:「太陽と月」とか?

:嫌いではないが、ちょっと安直すぎる気もする

:「陽」と「夢見」で「はるのゆめ」とかどう?

:悪くないやん

:夢見×陽で「夢見よう」とかどうすか!

:なんか陽の苗字が夢見になったみたいでガチ感ある

:「はるるな」みたいな感じで言えば「陽夢はるゆめ」も良さそう


「おー、コメント欄で色んな案が出てますね。夢見さん的に気に入ったものとかありますか?」

『個人的には「はるのゆめ」が可愛くて好きかなぁ』

「あ、自分もそれ良いなと思ってました」

『じゃあ「はるのゆめ」に決定で!』


:意外とすんなり!

:うおおおお、SNSでいっぱい呟いてやるぜー!

:はるのゆめてぇてぇ

:今回はまだてぇてぇって感じでは無かったくないか?w

:これからてぇてぇになるんだよ!

:そもそも配信にてぇてぇは必要なのか

:は?いるに決まってるだろ

:カプ厨もよう見とる


「はるのゆめ」というコラボ名が、少なくとも今回の企画を通して使用されるのだろう。SNSでちらっとエゴサしてみただけでも、「#はるのゆめ」で既に何件も投稿されており、それはリアルタイムでどんどん増え続けている。やはりそれだけベストカップルGPを楽しみにしている人が多いということだろう。騙されたからとはいえ、参加者としては素直に嬉しい。


『さて、リスナーからの質問はこれくらいにして、最後はお互いに聞きたいことがあれば~ってつもりだったんですけど大丈夫ですか?』

「全然大丈夫ですよ。何でも聞いてください」

『それじゃあ一つだけ。質問というよりも要望に近いんですけど、陽さんって「夢見さん」呼びじゃないですか。私はどちらかと言えば「陽さん」って名前呼びしてるのに、何だか不公平感があるなぁ~って思うんですがどう思います?』

「……つまり下の名前で呼べってことでしょうか? 因みに他の方はどんな風に?」

『苗字呼びを除けば、「るなちゃん」「るなさん」「るなち」「るーちゃん」とかですね』

「名前呼びは必須でしょうか?」

『私的には、そっちの方がカップルっぽいかなーなんて』

「……『るなさん』でお願いします」


:唐突なてぇてぇ

:このコメントは削除されました

:はるのゆめ初てぇてぇか?

:このコメントは削除されました

:このコメントは削除されました

:コメントもよう削除されとる

:ガチ恋勢も大人しくなったかと思ったら全くそんなことなくて草

:これは荒れてもしゃーないw

:このコメントは削除されました

:このコメントは削除されました

:このコメントは削除されました


『逆に陽さん・・・からは何か質問ありますか?』

「あー……るなさんって、明日以降の予定って空いてたりしますか? もしよかったらまたコラボ配信させていただきたいなぁと思いまして」

『えっいいんですか? 私はスケジュール大丈夫ですけど、陽さんって結構色んな方とコラボされてたりするイメージなんですが』

「コラボのお誘いとかを頂いたりはするんですけど、この企画中はなるべく沢山るなさんとコラボできたらなぁと思って」

『そ、そうですよね。一位を目指すなら、まずは沢山の人に知ってもらわないとですし』

「あ、いや、そうじゃなくて。単純に自分がるなさんとコラボしたかったと言いますか」

『えっ……、あっ、その、自分は別にどっちでもいいと言いますか、陽さんがしたいなら……』

「――みたいな理由の方がカップルっぽくないですか?」

『…………』


 これはあくまでも企画。たとえそれが本心だったとしても、こう言っておけばガチ恋勢の方たちも企画であることを多少は理解してくれるのではないだろうか。断じて先程の仕返しなんてつもりは毛頭ないし、るなさんならこちらの意図も汲み取ってくれるはずだ。


『あー……次回のコラボ配信はまたいずれということで』

「えぇ!? 割とすぐにお届けするみたいな雰囲気じゃなかったでしたっけ!? あ、明日とかどうですか?」

『気が向いたら』


:草

:こーれプレミです

:ゆめみん黙り込んで草

:るなちゃん可哀そうw

:盛大なカウンターを食らっております

:自分もやったから文句言えないの草

:ツンツンしてきたなぁ!

:やっぱこれでこそ夢見るなよ!

:いつかデレる日が来るのだろうか

:陽に期待やな

:燃えあがるだろうけどな


『――なんて冗談はさておき、今日はこの辺で配信は終わりたいと思います~。あたしの枠としては珍しい企画配信だったけど、これからも陽さんと一緒に楽しい時間をリスナーにお届けするつもりなので楽しみに待っててくださいー』

「今夜は夢――るなさんのチャンネルにお邪魔させていただきましたが、少しでも楽しかったと思っていただけたでしょうか? 若輩者ではありますが、るなさんにご迷惑だけおかけしないよう気を付けながら企画を楽しませていただこうと思います!」

『じゃあそろそろ夢から醒める時間ということで。本日は、ぜろいちに所属の夢見るなと――』

「個人勢Vtuberの陽がお届けしました! では、最後の最後にひとつだけ!」

「『この物語はフィクションです!』」

『それじゃあ、おつるな~!』

「おつはる~!」


:次回の配信に期待! おつるな!

:おつるな~!

:陽はまた燃えてるんだろうなw

:おつはるー!

:おつるなー!

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