第29曲 今も君の声が聞こえる:黒崎真音「メモリーズ・ラスト」、『アニサマ二〇二四』初日

 『アニメロサマーライヴ』、通称、「アニサマ」は、毎年八月最後の金・土・日に開催されてきたアニメ・ソングの祭典で、二〇二四年に関しては、八月三十日から九月一日の三日に渡って催され、書き手は、その初日と三日目に参加した。


 初日は、オープニング・アクトを除き、全四八曲を十八組のアーティストが歌唱したのだが、その十八組は、アニソンを専門に歌う〈アニソン・シンガー〉、歌手活動も行う〈声優アーティスト〉、アニソンも歌うアイドル、アニメのキャラを三次元において再現する〈二.五次元〉のアイドルやバンド、声優が組んだアイドル・ユニットなど、実に多彩なラインナップであった。


 この十八組の中で、今回書き手が着目したいのは、オープニングのコラボを除いて十組目に登場し、十八曲目から二十曲目の三曲を歌唱した「でんぱ組inc.」(以下、でんぱ組と略記)である。

 

 でんぱ組は、秋葉原にあるコンセプト・カフェ「秋葉原ディアステージ」(以下、ディアステと略記)の従業員で組まれたユニットで、例えば、『斉木楠雄のΨ難』などの主題歌を担当し、そういった関連で、今回のアニサマに呼ばれたのかもしれない。

 今回、でんぱ組が歌唱したのは、十八曲目が「最Ψ最好調 !」、二十曲目が「あした地球がこなごなになっても 」であった。


 ここで照明を当てたいのが十九曲目で、その歌唱前に、でんぱ組の卒業生である「成瀬瑛美」さんが登場し、彼女のMCの後に、そのでんぱ組が歌唱する二曲目が導入されたのだが、実はそれはでんぱ組の曲ではなかった。


 成瀬さんは、ディアステ出身で、先にアニソン・シンガーとしてアニサマの舞台に立った仲間、しかし、アニサマで再会するという夢が果たせなかった友に捧げると語り、その彼女の曲「メモリーズ・ラスト」を歌ったのだ。


 「メモリーズ・ラスト」は、二〇一四年にアニソン・シンガーとしてデビューし、二〇一六年にアニサマに初出演を果たした「黒崎真音」さんの曲である。

 真音さんは、ディアステでの活動を経て、二〇一〇年にアニソン歌手としてメジャー・デビューを果たし、「ALTIMA」のヴォーカルとして二〇一一年のアニサマにシークレット・ゲストとして初出演を果たした。ちなみに、ソロでの初出演は翌年の二〇一二年である。


 この「メモリーズ・ラスト」は二〇一一年にリリースされた真音さん二枚目のシングルで、TVアニメ『とある魔術の禁書目録Ⅱ」のツークール目のエンディングである。


 その真音さんは、実は、二〇二三年に若くして病気で亡くなってしまったのだった。

 だからこその成瀬さんの、あのMCだったのだ。

 この背景を知っている者は誰しも、でんぱ組が歌唱する「メモリーズ・ラスト」を聴いて胸が締め付けられるような思いを味わったのではなかろうか。


 この曲「メモリーズ・ラスト」の歌詞の一番は、「君の声が 今もまだ ここにあるから」、そして最後のフレーズは「不思議だね また会える そんな気がする 君の声が永遠に ここにあるから」になっている。


 書き手は、フェスや対バンで真音さんのライヴに参加した事があって、だから、このフレーズを聴いて、真音さんの声が蘇ってくるようにさえ感じたのであった。


 たしかに、真音さんの生歌を現世で聴く事はもはや現実には叶わないけれど、しかし、彼女の曲が歌い継がれてゆく事によって、きっと、真音さんの歌声は、永遠に〈ここ〉にあるのではなかろうか。


〈参考資料〉

〈WEB〉

 「8/30(金)セットリスト」、「『アニサマ2024』DAY1セットリスト公開!」、二〇二四年九月十二日閲覧。

〈曲情報〉

 黒崎真音「メモリーズ・ラスト」、レーベル:ジェネオン・ユニバーサル、初回限定版:GNCA-0185;通常版:GNCA-0186、二〇一一年三月二日発売。

  作詞:黒崎真音

  作曲:中沢伴行、編曲:中沢伴行・尾崎武士

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る