49、二つの行方不明事件と、きん、きん、きん
翌日。
二つの行方不明事件の話は、突然知らされた。
紺紺はその時、侍女たちの輪の中にいて、宴での担当分けをしていた。
侍女たちはその後ろで『引き立て役として舞いを添える隊』と、『楽器演奏隊』とに分かれることとなり、紺紺は
「みんなで華やかな舞台にするわよ」
「はーい!」
と、侍女たちが意気込んでいるところに、後宮の秩序を取り締まる
「情報を持っている者がいたら協力するように」
「曲笛の練習中だったのか。ちなみに俺は
笑傲江湖とは、市井で語られる物語だ。
敵対する派閥の者同士が「世間のいざこざなんて笑い飛ばして楽しくやろう」と一緒に楽器を演奏する一幕がある。
「
「情報はこっちも欲しいんだ。なにせ、いなくなってるのに気づいて騒いでる段階だから……俺さ、実はさ、主上に『この前の毒殺未遂事件で黒貴妃様に真っ向から歯向かって名推理をしたのはそなただ』って表彰されたんだ。でも、あんまり覚えてないんだが、俺の記憶だと俺の発言だと記録されてるのってお前の発言だと思うんだよな!?」
コソコソと言われて、紺紺は「あー!」と思い至った。
皇帝が玄武の珠を使って、事件の後始末をしたのだ。
「あの事件はこうだったよ」と思いこませた時に、紺紺の侍女らしからぬ奔走ぶりが
「うーん。私、功績とか気にしないですし。皇帝陛下が
「俺、本当にあの数日間の記憶がやばいんだが、うーむ。お前の功績なら、お前だって言ってやりたいぞ。俺も自分がやった記憶ないことで褒められるのスッキリしないし」
悩ましげに言う
「
噂の宮女が、三人とも紺紺の友人だったのだ。
「そんな! 妹が行方不明……!?」
紅淑妃はわかる。
母が妃になりすますのをやめて、自主的に人間から距離を取ってくれたのだろう。
でも、行方不明になった宮女は?
「情報は、もうそれ以上ないんだ。だから知ってる者がいないか聞いてまわってるんだが」
「あの、……私、少し席を外します」
紺紺は部屋を出た。
探さなきゃ。調べなきゃ。助けなきゃ。
「あの子の同期だから」
「それは、つらいわね」
「
部屋から遠ざかるにつれて、侍女たちの同情的な声が少しずつ遠くなる。
庭へと出ると、空はふんわりとした雲に覆われていた。
どこを探すは、決めてない。最初にどこに行こう? それぞれの仕事場?
「うちが
上から思い悩む声が聞こえたのは、その時だった。
視線をあげると、建物の二階の丸窓から顔を出している
「けど、うちは立派になるんやった。なら、保身よりも勇気かな。うん、主上に奏上してみようか」
何か知ってるの?
「た……」
「紺紺さん、こちらにおいで」
宦官の服を着た青年の姿で、庭に設置された女仙像の陰に隠れるようにしていて、「こちらに」と手招きをしている。
「急を要する案件が重なっているが、君はあまり心配しないように」
「霞……先見の公子様。お名前は、呼ばない方がいいんですよね、きっと」
ちょっと警戒気味になってしまうのは、昨夜の霞幽が妖狐の命令に従って動いたからだ。
その心配は伝わっているのだろう、霞幽は両手をあげて「何もしないよ」とアピールした。
「紫玉公主は『眷属になれ』と命じて私を人外の生き物に変えた。私は妖狐の眷属として位置づけられるのかもしれないね。妖狐が苦手だ。従えようと意識されて支配的に上から命令されると、逆らいにくく感じる」
「ということは、私がお名前を呼んで『お手』って言ったらお手をしてくださる可能性が……?」
「紺紺さん。私にお手をしてほしいのかい」
「あっ、いえ。すみませんでした」
春風のように柔らかな微笑が冷たく感じられるのって、ある種の才能ではないだろうか。怖い。
「えっと、雑談してる場合じゃなかったです。
「紺紺さん。その三人について、私は占ってみたんだ」
霞幽は占いもできるらしい。猫に変身できる術に比べたら、意外性は低い。『先見の公子』が天文博士のような立ち位置の術師なら、未来知識以外に占いくらいはできないと仕事にならないので、納得である。
「私が占った結果は『時待ちと霊の助けの卦』だったよ。当分は『命の危険はない。清明節の霊の声に耳を傾けよ』と出ているので、焦る必要はないよ。逆に、急いで探してもあの占い結果だと見つからないと思う。清明節を待つといい」
「ぐ、具体的ですが、役に立つかといえばそうでもないような」
「占いとはそんなものだ」
清明節は、ご先祖の霊を祀り、お墓の掃除をして、見守ってもらう季節の行事だ。なので、「清明節に霊が助けてくれる」という言葉には説得力も感じるのだが、いかんせん霊は一般的に生きてる人の前に姿を出して何かしてくれることがない。
霞幽の占いは、どれくらいの信ぴょう性があるだろうか。
だって、「急がずに待て。待ってたら霊が助けてくれる」だよ?
それを信じていいのかな?
実は占いなんてしていなくて、妖狐に「このように言え」と命令されていたりしないだろうか?
「紺紺さん。疑うなら、私の名前を呼んで『真実を言え、この場でもう一度占え』と命令しても構わないよ」
疑念が伝わったのだろうか。霞幽は眉を寄せている。
「いえ。結構です。参考になる情報をありがとうございました。ちょっと安心できました……それでも、早めに助けられたいので、個人的に情報を集めたり探したりするつもりですけど」
「そうか。参考情報といえば、私も
「はい、参考情報をありがとうござ……はい?」
それ、必要な情報?
まさか、
「あの、それって、必要な情報なんでしょうか?」
「紺紺さん。私の情報が不要だと?」
必要らしい。紺紺は「そっかー」と情報を呑みこんだ。
「……先見の公子様が琴を演奏なさったら、
「ならば、
霞幽は本当に
「お兄様がまた変なことを手紙に書いてきたわ。今度はどういう意味かしら。
「あの、そのまま、ひねりもなにもない意味で『私も琴を演奏する』と伝えたかっただけではないでしょうか?」
紺紺はおそるおそる正解を口にしたが、
清明節までの時間は、あっという間に過ぎた。
紺紺は毎日演奏の練習をしつつ、行方不明の三人を探したが、三人は見つからなかった。
唯一よかった点は、霞幽から「『黒貴妃』
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