第四十六話 ようこそカムラ聖堂院へ

 カムラ聖堂院。その敷地面積はいち都市に匹敵する。

 四つの大国、セレ王国・シルフィード聖国・ラヴァルティア帝国・ガガ魔導国、それぞれから生徒をつのっているため、生徒数は万に及ぶ。校舎の数は20、学部クラスの数は50だってさ。凄いね。


 ユウキが所属する学部はパラディンクラス。このクラスはカムラ聖堂院の花形だ。武術も魔導も勉学も満遍なく学ぶことができ、教師の質も最上級だそうだ。他の49クラスとは格の違う人気・レベルである。倍率が高く、合格するのは難しいのだが……ユウキ、アイ、ノゾミの三人は無事、合格することができた。世界でトップの学院の、さらに一握りしか入れないクラスである。これに三人共合格するのだからラスベルシア家の血は相当優秀なんだろうな。


 カムラ聖堂院はセレ王国に存在する。なぜセレ王国かと言うと、他の三つの国に比べ、治安が良く、他種族に対する差別意識が薄いからだ。エルフの国であるシルフィード聖国はエルフ以外の入国に厳しく、人間以外を知的生物として認めないラヴァルティア帝国は他種族が揃うカムラ聖堂院に不適合。犯罪率ナンバーワンのガガ魔導国は論外。これらの国に設立するのは不可能だからな……消去法でセレ王国一択だ。


 カムラ聖堂院は完全中立地帯であり、如何なる戦争行為を許さない。カムラ聖堂院の保有する戦力は一国に相当するため、不用意に敵に回すわけにいかない。ゆえにどの国も勝手はできない。

 セレ王国以外の三国にとって、他国に王族や貴族、次代を担う若き才能たちを預けるのは気が気でないだろう。それでもカムラ聖堂院に預けるのは、それだけカムラ聖堂院が優れた学習機関だからだ。カムラ聖堂院を利用しなければ国力に差が出るほどにな。


 俺達がカムラ聖堂院に着いたのは昼過ぎ頃。

 カムラ聖堂院は城塞都市。馬車は街を守る城壁門の前で一度止まる。俺とユウキ、アイとハヅキは一度馬車を降り、手荷物をチェックさせる。馬車の中も入念にチェックされた。

 その後でユウキとアイはカムラ聖堂院より配布された学生証を、俺とハヅキは騎士証(これも配布されたもの)を見せる。門番はユウキ→アイ→ハヅキと確認し、最後に俺の顔と騎士証で視線を反復させると、納得したように頷いた。


「ユウキ=ラスベルシア、アイ=ラスベルシア、ハヅキ=ミンファン、ダンザ=クローニン。確かに確認した。入ってよし」


 俺たちは馬車に乗り込み、門からカムラ聖堂院に入る。

 俺とユウキは窓から街の様子を眺める。


「あの中央にあるでっかい城が本校舎か」

「そうですね。見学できていないので、恐らくとしか言えませんが」

「入学予定者も見学させないなんて、厳重な警備だな」


 厳重、と言うべきか。


「当然でしょ」


 アイは眠たげな顔で腕を組んでいる。


「王族もいる場所よ。生半可な警備なわけないでしょ」

「まぁね」

「ん? アレはなんでしょうか?」


 ユウキの視線の先には雲に届くぐらい高い塔がある。


「アレは……タワー型の迷宮だな」

「こんな街中に迷宮があって大丈夫なんですか?」


 迷宮を放置していると魔物が迷宮から溢れてくるからな。ユウキが心配するのもわかる。街中に置いているのだから、何かしらの対策はしているはずだが――


「勉強不足ですわねお姉さま。アレは人工迷宮ですよ。カムラ聖堂院が授業用に作り出したもので、塔から魔物が出ない仕組みになってます」

「そんな情報……一体どこで」

「聖堂院卒業生の方々から」


 ラスベルシア家にはカムラ聖堂院の卒業生が多く存在する。その卒業生たちに聞いたのだろう。無論、呪いの子と揶揄されているユウキには下りてこない情報だ。


「着きました」


 ハヅキはそう言うと、馬車を止めた。

 俺たちは馬車から降りる。正面には豪勢で大きな建物――寮が建っている。


「ここがアイ様と私の寮、クイーン寮です」


 ちなみにアイ&ハヅキペアと、俺&ユウキペアの寮は別々だ。


「大きいな……さすがはカムラ聖堂院」

「私とアイ様の荷下ろしが済み次第、お二人の寮にも馬車を走らせます。少々お待ちください」


 俺はユウキの方を向く。


「ユウキ。せっかくだし、ここから俺達の寮まで歩いて行かないか? 荷物は俺が持つからさ」

「いいですね。少しでもここの地理に慣れたいところです。歩いて土地勘を養いましょう」

「わかりました。では、ここでお別れということで」

「ああ。ありがとなハヅキ」

「貸し一つですよ。ダンザ様」

「さようならお姉さま。またねダンザさん」


 俺たちはアイとハヅキと別れ、街道を歩く。


「荷物、重くないですか?」

「誰に言ってるんだ。余裕さ」


 背中に巨大リュック、両肩に巨大手提げバッグ、前に木箱を抱えているが余裕だ。人間時代だったらこれだけの荷物持ったら一歩も動けなかっただろうな。

 ユウキが地図を持ち、先導して道を案内する。

 道は次第に荒れはじめ、森林に入っていく。


「ユウキ。本当にこっちで合ってるのか?」

「……はい」


 不安そうに頷くユウキ。なんだこの既視感のある展開……。

 森林の中に草原があり、その草原の中心に目当ての建物はあった。


「ここが……私たちの寮、ポーン寮だそうです」


 さっきのクイーン寮の、およそ1000分の1の予算で作られたであろうおんぼろ寮。いや、万分の一か……。

 木造建築の三階建てだ。


「……確か寮はラスベルシアの連中が決めたんだよな」

「……はい」

「……やっぱ潰しておけばよかったかあの家」

「……落ち着いてください。潰すのはまだ早いです。まだ」




 ――――――――――

【あとがき】

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