親と俺は違う
俺はこの世の全てに絶望していた。だから、外面だけは良くして、自分の本音の部分である内面は誰にも見せてこなかった。見られるのが怖い。それに、思っていることは何も言わない。言わなくても伝わると思っているから。
唯一俺の味方をしてくれているのが音楽だった。音楽を聞いているとき、ピアノを弾いているときだけは嫌なことを全部忘れられるような気がした。ベートーヴェンに、モーツァルト、ロッシーニ。過去の偉大な作曲たちの曲は、清く、美しい。
でも、俺は偉大な音楽家たちの曲は好みでない。確かにオーケストラの曲は美しく聞いていて楽しい。だが、高揚感がない。もっとドキドキして、はっとさせられるような曲が好きだ。だから、俺はクラシックよりも、ボカロのほうが好きだ。
「奏音、先生はお前は音大に行くべきだと思うぞ。そんなピアノの才能を持っているのにここにいるだけじゃもったいない。もっとその才能を世に知ってもらうべきだ。」
今日は進路面談だ。俺は進路とかどうでもいいと思っている。親のレールに沿って走るだけ。だが、俺は音大だけは嫌だった。もっと自由な音楽を聞きたい、作りたい、学びたかった。
「音大だけは嫌です。」
「なんでだ? 別に反対するわけじゃないが、推薦も狙えるぞ。」
「音楽は嫌いなので。」
別に嫌いなわけじゃないけど。
「そうか……わかった。じゃあ、具体的な進路はどうするんだ。」
「しばらくはバイトしながら、自分で曲作ってYouTubeとかで上げていくつもりです。ゆくゆくは、レーベルに所属して、音楽だけで食っていけたらなと。」
「だったらなおさら音大に言ったほうがいいんじゃないか。」
「音大には行きません。」
「うーん……わかった。とりあえず、もっとよく考えるように。親御さんともよく相談しなさい。来週もう1回面談な。」
ありがとうございました、とつぶやき教室をあとにする。
教室に戻り、下校の準備をする。クラスメイトとの約束に間に合うか。時間を気にしつつ、急いで荷物をまとめ教室を出る。
ドンッ、
「すみません! 前をよく見て無くて……」
「俺は大丈夫だけど……お前は大丈夫か?」
ぶつかった相手はクラスメイト・蒼だ。
かわいい、可愛すぎる。襲いたい。
そう、俺はクラスメイトの蒼に恋をしていた。
「僕は大丈夫! ごめんね、ぶつかって」
「あ、奏音くん。ちょうどよかった。明日広報委員の集まりがあるからよろしく!」
可愛すぎだろ。何よろしく!って。もう俺の心臓もたねー。
「おう、わかった。よろしくな。」
もうこれデートと変わらないだろ。あー、早く明日になってくれないかな。
「ただいまー」
「おかえり、奏音。ちょっと話があるんだけど座ってもらえる?」
「おう、わかった。」
「今日、学校から電話があって。音大目指さないんだってね。私は、貴方の道を貫いてほしいって思ってる。好きなように生きてほしい。別に、わたしたちみたいに音楽を続けなくてもいいの。」
「だから、音大目指さないにしても、今後どうしようか考えてるだけ教えてほしいな。」
クソ担任が。勝手に話すんじゃねーよ。
「とりあえずバイトしながら自分なりに音楽を続けようかなって思ってる。」
「そう……。わかった、だけどそれだったら大学に行ったほうがいいんじゃない? 音楽だって学べるに、人間関係もいろい……」
「そうやって、勝手に親のエゴ押し付けないでくれる? 俺好きな人いるし。大学行く意味がよくわからない。あんな高い金払うぐらいだったら別のことに使えよ」
「ちょっと! 奏音、待ちなさい!」
母親は心底ショックだっただろう。今まで反抗期というものが来たことなかった俺が、あんな高圧的な態度を取ったから。
奏音に会いたい
今まで誰かに会いたいなんて思うことはなかった。俺は奏音が本気で好きなんだ。奏音にだったら自分の弱いところも、カッコ悪いところも見せられるような気がする。
スマホで奏音の写真をボーっと眺める。かわいいな。そう思いながらいつの間にか深い眠りに落ちていた。
「奏音! 起きろ!! 一体どういうことなんだ?」
父の怒鳴り声で目が覚める。
「なにが?」
敢えて個圧的な態度をとってみる。
「親に向かってそんな高圧的な態度とるのか?」
「で、要件は?」
「……音大に進学しないんだってな?」
「そうだけど? それがどうかした?」
父の顔がどんどんこわばっていく
「音大に行かないのは絶対に認めないからな。なにがあっても行け。」
「だから、さっき母さんにも言ったけど、あんな高い金払う必要ある? そんなこ……」
バチッ!
父親にビンタされた。
俺はなにも言わずに家を出た。嫌いだ。何もかも。
近所の土手に行き、階段に腰を掛ける。疲れた。このまま親のレールの上を走っていくしか無いのだろうか。みんなの心に刺さるような曲を作りたい。あー、どうしよう。
「あれ奏音くん! こんなところでなにしてるの?」
蒼だったらいいなと思ったが、案の定違った。俺によくつるんでくるクラスの女子・結衣だった。
「べつに。ただ座ってる。」
「親と大喧嘩して家出てきた?」
「……。」
「図星かよ! 奏音の家の事情はよくわからないけどさ、私にもできることあったら言ってよね。」
「わかった。ありがと。」
「……あとさ、一つ聞いてもいい?」
なんだ、めんどくさいなと思いつつ
「なに?」
「奏音って好きな人いるの?」
やっぱり、と思った。
「……いるよ。大好きな人が。」
「その人とは付き合ってるの?」
「……付き合ってない。絶対振られるから告白するつもりも、付き合うつもりもない。」
男から告白されても蒼は絶対に戸惑うだろうから。普通じゃないし。
「そっかー、なんか安心した。」
「どうして?」
「奏音ってさ、人付き合い良いように見えて、どっか一歩引いてるよね。本当の自分を見せてないような気がする。」
バレてた。うまく隠せてたつもりだったのに。
「……別にそんなことないと思うけど。」
「そう? じゃあこんなこと言ってごめん。」
「奏音にも人間らしいところがあって安心した!」
「人間らしいってなんだよ?」
「てか、奏音イケメンなんだから告白したら絶対OKもらえると思うんだけどな~」
「……告白しなくていい。」
「もしかして? 振られるのが怖いの?」
「そういうことじゃない。」
結衣とくだらない話をしていたら3時間が過ぎていた。
「そろそろ帰らなくていいの?」
「俺には帰る家がない。」
「あっ、そうだったね。でも親御さん心配するから一回帰ったほうがいいよ。」
「……そうするか。なんか色々話聞いてくれてありがとう。」
「私も楽しかった。じゃあまた明日!」
「送ってくれないんだ……好きな人が私かもって期待したのに。私にも本当の自分見せたくないんだね」
結衣は小さな声で呟いた。
「なに?」
奏音が聞く
「ううん、なんでもない! また明日!」
あー、帰りたくない。結衣とだったらうまくいったのかな。普通のカップルだもんな。蒼に対してこの気持ちは一生隠さないと。好きな人に迷惑かけたくない。
あっ、きれい。
帰る途中にビー玉を見つけた。ビー玉を通して世界をみると全てが逆さまに写った。きれいだった。とりあえず帰るか。きれいなビー玉をポケットに入れ、家へ向かった。
親はなにも聞いてこなかった。そのほうが都合が良かったからいい。
次の日学校へ行き、授業を受け、放課後になった。今日は蒼と広報委員の仕事がある。荷物をまとめ多目的室へ向かう。蒼はすでに多目的室で待っていた。写真を取ることが趣味の彼は、一生懸命カメラの手入れをしていた。
「あ、奏音くん! こっちだよ!」
かわいいかよ。マジで俺のものにしてー。そんなことを思いながら蒼の隣に座る。
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