【10】 ◆公爵令嬢の事情
「はあ、エステル、きゃわわ……」
公爵令嬢カンデラリア=ジョンバルトは、自室で一人呟いた。
「んっふふふ……」
カンデラリアは上機嫌であった。
「ああいった場面、本来はルイスが助けるべきなんだけど……。良いところ奪ってしまったかしら。でも、ルイスが来るかどうかわからなかったし、私は私で腹が立ったしつい出しゃばっちゃったわよ。……ああでも、懐いてくれるエステル可愛いいいい……私は黒子に徹したいのに……もう☆」
自分の頬を両手で包み、赤面してキャーッと左右に首を振る。
*****
――彼女は、『前世の記憶』というものを持っていた。
彼女は前世でそこそこ売れてる作家だったのだが、健康面に気を配らないタイプで自分の不節制がたたって死んだ。
死ぬ時、ひどい頭痛がしたのでよく覚えている。
頭痛がひどすぎてそのうち気を失って――目がさめて痛みが引いていたので頭痛が治まったのかと思い目を開けたらば、この公爵家の令嬢になっていたのである。
そして成長していくに連れて、気がついた。
「これ、私の小説じゃん……」
カンデラリラは小学校入学時に、ルイスを見て、あれ、こいつどっかで見たな、と思った。
私が作ったキャラにそっくりじゃね?、と。
しかも、名前も同じルイスだし……。
それを起点として、自分の名前――カンデラリア。それもどっかで聞いたと思ってぼんやりとしていたのがくっきりした。
私、自分の小説の悪役令嬢に生まれ変わってるよ!!
うっわ、どうしようこれ!
作者だけに、顛末知ってるわよぉ!!
ルイスに惚れてエステルを最終的に殺そうとして殺人で裁判よぉ!!
お決まりの断罪、追放ルートよぉ!
そして追放先で惨めに死ぬのよぉ!!
これ、どうしたらいいのかしら。小説通りに生きなきゃいけないのかしら?
いや、そんな事ないわよね?
私って人間がここに存在する限り、すでに小説通りではない。
世の中の事柄なんてちょっとした事ですぐにずれ込むに決まってるのだから。
死ぬ前の小説サイトでも運命の強制力うんたらで悩む悪役令嬢ものをいくつか見かけたけど、なんだかんだ……少なくともオリジナル通りの結果にはならない。
だいたい悪役令嬢(あいつら)の思い通りにいかないほうが強制力働いてるだろアレ。
つまりは世間の
……だけど。
念の為に一つ自問自答を。
私ってルイスに惚れる可能性あるかしら??
いや、多分それはない。
私は自分の作ったキャラとしては、ルイスを愛してはいるけれど、私自身が結婚したいかっていうと……たくさんいる我が子の1人にしか見えない!!
それなら、平気?
普通に公爵令嬢として生きていけばいいのかしら。
公爵令嬢として生きていくってのもめんどくさそうだけど、とりあえず変な結婚相手とかに当たらなければまあいいか。
確か、この国は、カンデラリアの年齢で婚約者になるような王子もいなかったはず。
なら、王妃教育や王妃レースなどの超厄介事にも巻き込まれる事なく生きていけるはず。
貧民やら奴隷やらに生まれ変わるよりは断然良いしね。
Oh!! 悪くないじゃん!
よーし、せっかくだし、小説の通り、ルイスとエステルがくっつくかウォッチしよう!
作者だから気になるわよ!
うっわ、楽しみ!!
今確か、4月になったばかりだから、お見合いはもうすぐよね……。
ルイスはつまりもうすぐ……やらかすわねえ。
うわあ! 現場を見に行きたいわぁ!!
エステルの家でお見合いするから、さすがに潜りこめないなぁ、残念。
まあいいわ。
本格的にウォッチしてやるわ……エステルが入学してきたらね!!
そして二人がうまく行かなさそうなら、何かしら補助してやるわ、うふふふ。
私の小説だもの! 二人がうまく行かないなんて許さないんだから!!
――どうやら、ルイスには影で味方してくれる特殊な存在がいるようだった。
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