第2話 Sideヴァイオレット
カナタが休んでいる部屋を出た私は、その足でお父様の部屋に向かっている。
ラインの様子がいつもと違うのはすぐに気が付いた、いつもの彼は命令には忠実だが常に不愛想で銅像のようなつまらない男だった。
しかし目を覚ました彼のはまるで好奇心旺盛な少年のようにキョロキョロとあたりを見渡し、
私の姿を見た時、一瞬表情を崩していた。
そこで私は揺さぶりをかけてみたところ、思わぬ収穫を得た。
ラインは前世の記憶を持った転生者であると語った
それが真実なのか、次の話し合いの時に偽証感知の天秤を準備しておくつもりですが
表情がコロコロと変わるこの男に隠し事はできないと思われる
仮に隠し事があっても顔に出やすいタイプなのですぐに気づくことができるでしょう。
時刻は夕方になったばかり、今日はまだ時間があります。
「お父様、ヴァイオレットです。緊急のお話があります」
「ん、入れ」
お父様に言われるままに静かに部屋に入るとこちらに顔を向けることもなく、
忙しそうにペンを持って書類作業をしていた。
「どうしたのだ、ヴィオラ」
「私の執事のラインは前世の記憶を持っている疑いがありますので
明日の偽証感知の天秤を使って確認します。」
「そうか。」
「ラインの言う前世の話を信じるなら、私たちは物語の中の世界だそうです。」
「わかった。」
「その場合、近い将来王子に婚約破棄される確率が高いようです。」
「ん?」
「王子に婚約破棄されたら執事のラインを婿に迎えます。」
「ちょっと待て!」
「冗談です。」
お父様はペンを置いて顔をこちらに向けた
「ラインの話はともかく、何故王子に婚約破棄されることになる?」
「光の魔力を持ったヒロイン、
ネイア・パトラーという平民を見初めて真実の愛に目覚めるようです。」
「卒業するまでのただの火遊びではなく?」
「はい。その後、私は闇に魅入られて暴走し我がティスデイル家の存亡、
いえティスデイル家だけではなくシャラーヴィン王国に多くの血が流れることになります。」
私はまずカナタとの会話内容をお父様に説明する。
お父様は驚きで目を見開きながらも最後まで黙って聞いてくれた。
「なるほど、ラインの話が真実であるならばワシも少し動こう
まずはそのネイア・パトラーと言ったか?その者を調査をする。
しかし名前が分かることが幸いした、これならさほど時間もかからず見つけられる」
お父様は外に向けて小さな探知魔法を飛ばした。
「それと、一つだけ気がかりなことがある、転生者は人知を超えた何かを持っている可能性がある
ネイア・パトラーしかり…」
「ラインのことですね
今は私直属のメイドに睡眠香を焚かせて監視させております。
彼が深い眠りに入った時に詳しく彼の能力を解析するつもりですが、
念のため第三者にも立ち会っていただくつもりです。私はすでに何かの影響を受けている可能性も捨てきれてない」
何かを持っていたとしても、少し詰め寄っただけで全てしゃべったカナタなら何も仕掛けていないと思われますが、
その考えこそがすでに操られている可能性もあります。
部屋にノックの音がしてメイドが入ってくる
「お嬢様、ラインが深い眠りに入った事を確認しました。」
「ワシも今、ネイア・パトラーという人物を確認した。
では、明日の午前中までにラインの言葉が真実かどうか判明させるのだ。
真実であれば一度王城に出向く。」
「分かりました。
ではお父様、私も行ってまいります。」
私はそういって父上の部屋を出てカナタが休んでいるの部屋に戻っていく
ラインの前世の名前、カナタ
ヒロイン、ネイア・パトラーが転生者である可能性がある以上、決してその名を知られてはならないと思っている。
転生者からすれば物語の登場人物が全く別の名前を名乗っている事を知れば少なからず警戒するだろう。
その影響で行動が変わり、全く予期せぬ未来に辿り着く可能性もある。
しかし、シナリオ通りに進むという事は
婚約破棄されて私は闇堕ちし、ティスデイル家に破滅が訪れる
それを機にシャラーヴィン王国に攻め入る北のアラゴー帝国
そして、私とアラゴー帝国を操っている黒幕の魔族
聖女の力で闇堕ちした私を倒してハッピーエンドとのことですが
シャラーヴィン王国はアラゴー帝国と魔族による侵略でボロボロ
立て直すのに数百年はかかることになるでしょう。
そしてそれを待ってくれる国はない、必ず攻めてくる国がある。
それがネイア・パトラーが聖女に覚醒した場合に起こる結末
もう一つは婚約破棄をされないため、私が闇堕ちすることはなくなりますが
聖女へと覚醒することもなくなってしまう。
ネイア・パトラーは自身が見初めた相手と婚約してハッピーエンド
ハッピーエンド?
カナタは物語の世界と言ってましたが、これは紛れもなく現実だと私は認識している、つまりそれで終わりではない。
シャラーヴィン王国を狙っているアラゴー帝国と魔族が野放しになる
アラゴー帝国はともかく、聖女がいない以上魔族を倒す手段がなくなる。
いえ、カナタは"理論上倒せなくないが現実的ではない"と言ってましたか…
・
・・
・・・
道筋は見えました
何故闇堕ちするのかはよく覚えてないとカナタは言っていましたが、魔族が絡んでいるなら検討がつく
ストレスや心の弱り、精神の弱化に付け込んで私の性質を反転させたものだと
カナタからの未来の情報がなければ私は闇堕ちしていたかもしれませんが
事前に知ってしまった以上闇堕ちすることはまずないと思われる。
ひとまずここまで、後はカナタが真実を語っているのかを確認してから考えましょう。
「カナタ、貴方はシャラーヴィン王国の救世主となってくれるのですか?」
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