追いかけても
櫻井賢志郎
第1話
いつかきっと夢は叶うし、努力は報われる。
そう言われ続けたし、それを信じてきた。
けれど今になって思えば、本当に夢だったのか、必要な努力をしていたのかさえ分からなくなってしまった。
いつか私は、カメラを片手に世界中を旅して、その国の景色も人も最高の一枚として写真に収めてるはずだった。
英語だって勉強をしたし、色々な写真を撮り続けて来た。
だけど、一度も海外に行く事はできなくて、気が付けば今は都内のビルの間を、みんなと同じ色のスーツを着て就活をしていた。
全部コロナのせいだ。みんなが口々に言っていたから、私も一緒になって口にした。
仕方ない、自粛自粛ってずっと言われていたし、海外なんてもってのほかだった。
大学生が1番のチャンスだったけど、もう諦めるしかない。
そうだ、まずは働いてお金貯めよう。そうすればきっとまた海外に行くチャンスが来るかも。
それより前に結婚したり、子供ができたりしてたらそれもそれで良いかも。
今はそう思いたい。
なのに、頭の片隅で夢を追いかけていた私が、本当にそれで良いのかと囁く。
コロナ前とコロナ禍、それを超えた今を必死に俯瞰して見ようとする。
夢を持って日常を楽しく生きた日々と、夢が遠のき日常が非日常へと変わった日々を思い返した時に、日常とは、当たり前とはなんなのか疑問に思う。
そしてこれから私が選ぶ日常はどんなものなのだろう、コロナが無かったら本当に夢のままに生きることができたのだろうか。
夢を叶える事が大切だったのか、夢を追う自分のことが好きなだけだったんじゃないか。
もしかしたらコロナすらも、私にとっては都合の良い言い訳なのかも知れない。
悔やむべきは過去ではなく過去ばかり見つめる今の私自身なんじゃないか。
そんな事を考えながら面接を終えた私は電車に乗って家路に着く。
電車に揺られながら、携帯の写真を見返す。
そこには今まで写真を通して出会った沢山の笑顔が並んでいた。
砂浜で出会った家族を撮った一枚の写真が、私の胸を締め付ける。
沢山の笑顔を写真に収めたい、そう思うきっかけにもなったこの写真があったから、今までの私はあった。
感染拡大と共に押すことの減って行ったシャッターから完全に離れることができないのは、夢への悪足掻きなのかもしれない。
だとしても、私のカメラへの想いを無くさないことがレンズ越しに出会ったあの人たちへの恩返しだと信じたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます