第43話 魔力と魔素。

ヴァト達が戻って来て約1ヶ月後、紅蓮の鐘もすっかり旅館が気に入ったらしく、毎日温泉に入って寛いでいる。


偶に6階層で魔物と戦い、腕を鈍らせないようにしながら過ごし、俺はお土産を用意したり、建国したらどんな施設を作ろうかと考え過ごしているが、美味い物を食べられるだけ今までの人生と比べたらなんて事を思っていた。


そんな日々を過ごしてる中俺は、この世界の美味い物も食ってみたいと思うが知らないので物質錬成で作る事が出来ない事を知り。

街に行ったら美味い物を食う、ツアーをやろうと心に決めた。


ある日晩飯を食っているとヴァトが、そろそろ街に向かおうと言うので、街に向かうメンバーに3日後、街へ向かう事を伝え、いつものように日々を過ごして出発の日を迎える。


旅館で朝食を済ませると城門に集まり、残る深淵の光のメンバーが見送りに来ていた。


「飯はラビーに出すよう言ってあるから、のんびり待っててくれ」

「分かった……酒も良いだろうか?」


とクラムがキリっと真面目な顔で言うので、笑いながら頷く。


「僕は毎日唐揚げを頼むからね!」

「野菜も食べるようにって、ラビーに出された物は全部食べろよ?」

「勿論!」


リビッツは唐揚げを気に入ったようだ。


「スイーツも良いだろうか?」

「ああ、でもそればっか食ってたら太るからな?」


頷くウィーデル。

一度ケーキを出したら気に入ってしまい、毎晩食べるようになってしまった。

まあ、昼間は魔物と戦って動いてるから良いけど。


「報告したらすぐ戻って来る」


ゼイルがそう言うと紅蓮の鐘が歩き出し、それに続くように神官、俺とルタ、そしてゼイルが最後尾を歩き出す。


ちなみにガトとアルはお留守番だ。

2人は見た目が魔物だからね。

街には入れないと思ったので置いてきた。



街門から外に出て森に入ると俺は、この世界に生まれて初めて入る森に感動し、周囲をキョロキョロ見回しながら進む。


ちなみに服装は、白シャツに黒いズボン、黒いブーツを履いて上に黒いコートを着ている。

更に街に行くので呪収納は、人前で使えないと思い茶色いリュックを背負ってるぞ。


このリュックは、物質錬成で作ったマジックリュックで、収納量は東京ドームが余裕で入るくらいあり、時間経過が無いものとなっている。

5万ちょいのLEを消費して作った代物だ。


森の中を歩いていると後ろから、ゼイルが声を掛けてきた。


「そんなに珍しいか?」

「生まれて初めての森だからね。それに、この森の木は大きいな」


城の上から見た時も思ったが、周囲の森の木が結構高いのだ。

遠くから見ただけだったのでその時はなんとも思わなかったけど、こうして近くで見ると異様だ。


「あぁ、そりゃ魔素が濃かったからだな」

「へ~、魔素が濃いとデカくなるんだ」

「あとは、魔力が濃いと魔力の影響で変種になる事もあるぞ」

「ん? 魔素と魔力は違うの?」

「魔素は元から空気中にある魔力の事を言い、空気中の魔力は、生物が放出した魔力の事を言う」

「……それって何が違うんだ?」


ゼイルがすぐ後ろを歩きながら教えてくれた。

魔素は世界を循環してるいわば色の付いてない状態で、魔力は生物の色が付いた状態の事を言うらしい。


そして全ての生物は、常に魔力を微量に放出してると言う。

これはラビーに聞いたので知ってる。


その色の付いた魔力が濃いと、その場に居る生物は魔力の影響で変異するらしい。

それが魔素なら純粋にデカくなったり、特性が強くなったりするとの事。

ただし、その魔素や魔力に濃い瘴気が混ざっていると生物は、精神や肉体に異常が起こるため、本能的に近づく事はしない。


だから街の中に生物が殆ど居ないのか。

ヴァトやゼイルも、この辺りは魔境って言ってたもんな。

そんな魔境だが入る事は出来る。


「それを可能にするのが魔道具だ」

「浄魔のお守りってやつね」

「あと、魔境で生きられるのが魔物だな」

「魔物は瘴気の影響を受けないのか?」

「いや、受ける魔物も居て魔境に近付かない魔物も多い」


魔境で生きられる魔物とそうでない魔物。


「その違いは分かってるの?」

「はっきりとはしてないが、学者の間では、強さが関係してるんじゃねぇかって話しだ」

「強さねぇ」


本当にそうか?

と思っていると頭の中にラビーの声が響いた。


『ある意味強さで合ってますが、詳しく良いますと、魔石が関係してます』


魔石?

魔石があるとどう変わるんだ?


『魔石が大きいのは、生まれて時間が経った魔物の体内に生成される物です。ですが、どの魔物にも魔石は存在します。ただ魔石が小さいと瘴気を吸収しきれず体内に溜まり、異常を起こすので小さい魔石を持つ魔物は、本能的に魔境に近付きません』


へ~、そういう仕組みなのか。

って、まだ世間が知らない事実をいきなり知ってしまった件。

あれ?

迷宮の魔物はどうなんの?


『迷宮の魔物は、魔物ではなく迷宮の生物になるので、その性質や生体は異なります』


そうか、迷宮生物だった。

面倒臭いから魔物と一括りにしてたけど、そこまで性質が違うなら魔物とはまったく別物だな。

今度から迷宮生物を『L魔物』と呼ぼう。



俺は今の話をゼイルに話す。


「はっ? それは本当の事か?」

「らしいよ。ラビーが言ってるからね」

「……なるほど、魔石が関係してるのか」

「更に、迷宮の魔物と地上の魔物はまったく別物なんだってさ」

「……マジか?」

「マジ、性質や生体がまったく異なるんだって」

「……あぁ、誰かそんな事言ってたな」

「何を?」

「迷宮の魔物と外の魔物の違いだ。迷宮の魔物は、時間が経てば復活して誰が来ても襲い掛かって来るが、地上の魔物は復活しないし、自分より強い者からは逃げる事もあるのが違いだと言ってたぞ」


だってさラビー。


『迷宮生物は、コアによって生み出された生物です。コアを護るため入って来た者を襲うのは当然です。地上の魔物は誰の指示をありませんから、生存本能が優先され逃亡します』


そういう事か。

迷宮は、エネルギーを吸収するために生物を招き入れるが、コアを破壊されないようにその途中で殺すため、魔物やトラップがあるんだな。


『そのとおりです。マスターを管理者にしたのも防衛のためです』

「ん? どういう事?」

「何がだ?」

「いや、ラビーと話してたんだけど、俺を管理者にしたのは防衛のためって言うからどういう意味かなと思って、つい口に出てしまったよ」

「何の話をしてるんだ?」


俺は迷宮と外の魔物の違いを話し、管理者になった意味を聞いたところだと説明した。


「ほう、そういう違いがあるのか……で? 防衛のためってのは?」

「ラビー?」

『はい、コアに触れられる者は居ないと思っていましたが、コアに触れられると生き残るため、触れた者の下に付く事になります。より安全を確保するため魂の接続をする事で、生き残る事が出来ました』


へ~、コアって面白いな。

触れられるまでは「殺す」という意思なのに、触れられた瞬間に「すみません! 子分にして下さい!」ってなるんだろ?

なんか可愛い。


俺が今の話をゼイルに伝えると。


「はは、コアにそういう意思があったとは知らなかったな」


ゼイルの顔を見ると、今まで破壊したコアの事を考えてるのか、何か思い込んでいた。


そりゃ玉に意思があるとは思わないよね。

まあこれまで、瘴気があるから近付けなかったのが原因なんだろうけど。

誰かが触れていたら他の管理者が生まれてただろう。

そうなると今の世界は、もっと変わってたかもな。


「破壊したコアの事を考えてた?」

「ん? まあそうだな、もしコアと会話が出来ていたら、俺ならどうしてただろうと思ってな」

「ゼイルなら話しかけられても信用せず、そのまま破壊してると思うぞ」

「ははは、確かにそうだな、俺の立場ならそうするしかない」


ゼイルはパーティーリーダーだ。

メンバーを危険に晒す賭けは出来ないだろう。



そんな話をしながら森の中を進み、途中で何度か野営をして過ごし、8日目の昼前に俺達は、ドルソラが見える丘に立っていた。


「おお! 大きい街だ」

「シドは身分証を持ってないから、俺が身元を保証して入るからな」


と、ヴァトが説明してくれる。

身分証はおそらくギルドカードとかだろう。


「ありがとう。迷惑は掛けないようにしよう」

「はは、本来シドは、国からしたら客だが一般人には、今回の話し合いの事は、伝わってないからな」

「そうなの?」

「どうなるか分からないのに、隣に建国宣言した王が来るなんて言えないだろ?」

「確かに」


まだ国として認めてもらってないからな。

お土産を渡せば、国として認めてもらえるはず!

無理だったら勝手に国を名乗ろう。


そうして俺達は、ドルソラの門へと向かった。

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