第四章 世界編 そして、また物語が終わる
第67話 始まりの公園にて
「あれ? 俺生きてね?」
ネイビスは素っ頓狂な声を上げては自身の体を確かめた。二回目の死からの復活を体験してもなお、やはり慣れることはない。
「ここどこ?」
「明るい……」
ネイビスが顔をあげると、そこにはネイビスと同じくぽかんとしているイリスとビエラの姿があった。ネイビスは二人の頭を見て尋ねる。
「お前ら、髪切ったか?」
「切ってないわ……。それに、今それ訊く?」
イリスとビエラの髪は短くなっているようにネイビスには見えたが、今はそれどころではなかった。ネイビスは辺りを見回す。ここは見覚えのある広場だった。始まりの町の始まりの噴水。ゲームのスタート地点としてネイビスの記憶にある場所であった。時刻も夜ではなく、太陽は頭上にあって世界は明るい。
「俺らって、Aランクダンジョンをクリアして、七大聖騎士に襲われて死んだよな?」
「七大聖騎士に襲われて死んだ? 何言ってるのよ。Aランクダンジョンをクリアしたところまでは覚えているけど、私は死んでないわ。現に今生きているでしょう?」
「うん、私もそう思う。確か、『ドラゴンの巣』をクリアしたよね。それで、ゲートを潜って外に出たら受付の前の広場に人集りができてて、ネイビスくんが話を聞きに行って……。それで気がついたら明るくなってた?」
「そうね、それに着ている服も違うし……。というかこの服、勇者学院が支給してる冒険服じゃないかしら? 懐かしいわね」
イリスに言われてネイビスは自身の服を見る。確かに今着ている服は三人が冒険を始めた頃に着ていた服だった。
「どうして私達がこの服を着ているのかしら?」
「分からない……」
イリスの問いにビエラは首を傾げる。一方、ネイビスはこの状況に既視感を覚えていた。そう。つい最近も似たようなことがあった。
「まさか……」
「「まさか?」」
ネイビスの呟きに二人は反応して凝視する。
「おいおい。まさか、またツァーネの仕業か?」
ネイビスがそう呟いて雲一つない快晴の空を見上げていると、その肩に手が置かれた。
「呼んだか?」
ネイビスの呼びかけに応じたのは一人の男だった。ネイビスは不意に肩に手を置かれたことに驚き、そして気配を察知できなかったことに恐れを抱いた。ネイビスはすかさず振り返って、インベントリから愛剣毒牙を取り出し、最大限の警戒をした。そこにいたのは正装を着て畏まった、白髭がよく似合う一人の紳士だった。
「お前は誰だ?」
「もう忘れたのか? まぁ、声も姿も変わっているから分からないのも仕方ないか」
ひとりごちる男に対してネイビスは眉をひそめ、語気を強めて再び訊いた。
「いいから答えろ! お前は何者だ?」
「命の恩人に対する態度ではないな。私の名はツァーネ。これで思い出したか?」
「ツァーネ? ツァーネはドラゴンのはず……」
「そうか。まだわからんか。では仕方ない」
「な、何をするつもりだ!」
ネイビスの不信感を払拭するためにツァーネと自称した男は右腕の袖をまくるとネイビスに見せた。ネイビスはもちろん、イリスもビエラも警戒し恐る恐る袖が捲くられて露出した彼の前腕を見つめた。
「見ておけ」
ツァーネと自称した男がそう言い放った途端、彼の右腕にざざっと白銀の鱗が逆立つように生成された。ネイビス達は眼を見張る。少ししてネイビスは改めて男に訊いた。
「お前、本当にツァーネか?」
「ああ。そうだとさっきから言っている」
「命の恩人というのは?」
「本当にわからず屋だな、貴様は。何故、アリエル様はこのような愚か者を……」
ツァーネはそう言って頭を抱える。
「アリエル?」
「ああ。私は今、王宮でアリエル様つきの執事だ。貴様らがランダム教に殺されると知って、アリエル様が私を遣わしたのだ。アリエル様とは確か一度会っていたはずだが、もう忘れたのか? まぁ、今から会うことになるから忘れていても関係はないがな」
そう言うとツァーネは白い手袋に包まれた左手を近くに留めてあった馬車に向けた。
「さぁ、あの馬車に乗りなさい。アリエル様が王宮にてお待ちだ」
ツァーネの指示に従おうとして一歩を踏み出そうとしたネイビスをイリスとビエラが引き止める。
「ちょっと、ネイビス。これどういうこと? 景色は変わるし、知らない人はいるし、服は変わるしで訳わからないんだけど」
「うん。私もちゃんと説明してほしいな」
イリスとビエラの詰問に、ネイビスは答えあぐねる。
「それが、俺も詳しくはわからないんだよな。ただ、どうやら過去に戻ったらしいことは察してる」
「「か、過去!?」」
ネイビスの言葉にイリスとビエラは驚きの声を上げるも、少ししてから納得するように頷いた。
「おおよそその理解であってるな。昨日は勇者学院の卒業式の日。今日は貴様らが旅立った日だ」
ネイビスの考察をツァーネは肯定して、現在の日時を教える。
「詳しいことは私が馬車で説明する。いいから乗れ」
そう言うとツァーネは馬車の元まで歩いて、乗口の脇で待った。ネイビス達はまだ不信感はあるものの、仕方なく馬車に乗ることにした。
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