第62話 死闘
ネイビス達はAランクダンジョン『ドラゴンの巣』を順調に進んでいた。今ではビエラも本格的に戦闘に関わるようになり、以前よりも戦闘の効率が格段に上がった。第三階層をクリアした際、ビエラが一つレベルアップして、レベル56になっていた。
名前:ビエラ
年齢:17
性別:女
職業:僧侶Lv.56(経験値二倍)
HP:471/471
MP:717/642+75
STR:157
VIT:157
INT:314+25
RES:371
AGI:157
DEX:157
LUK:214
スキル:『プチヒール』『プチキュア』『プチリジェネ』『プチホーリー』『ヒール』『キュア』『リジェネ』
アクセサリー:『蒼天の指輪』『ミスリルバングル』
第四階層、第五階層は両端を溶岩で挟まれた陸地が一直線上に続く道だった。第四階層では、炎のブレスを吐く火竜が現れ、第五階層ではその火竜が二体で出てきた。火竜は朱魔法のダメージが半減するため、ネイビスの『プチメテオ』だけでは仕留められなかったが、ビエラの『プチフリーズ』やイリスの剣撃が不足分のダメージを補うことでなんとか倒すことができた。
一度、イリスが火竜のブレスを喰らい、左腕にかなりの火傷を負うというアクシデントはあったものの、ネイビスが火竜を『プチストーム』と他の魔法スキルで直ぐに屠り、その後ビエラが『キュア』と『ヒール』を唱えることで、傷一つ残ることなく事なきを得た。
休憩の後、次に三人が踏み入れたのは白銀の地。第六階層へ続くゲートの先は大雪山を彷彿とさせる山々に囲まれた雪原だった。
「これじゃあどっちの方向に進めばいいか分からないじゃない」
イリスは辺りを見回しながらそう言ってため息をつく。イリスの言う通り、辺りには目立った道や目標物などはなかった。
「ネイビスくん、どうするの?」
「そうだなぁ。久しぶりに俺のノービスのスキルが役に立つかな、『サーチ』!」
ネイビスはビエラの質問に答えると、『ノービスの本気』以外出番が殆ど無いノービスのスキルのうちの一つである『サーチ』を使った。ちなみに残りは『応急処置』と『リカバリー』で、どちらもビエラの回復系統魔法スキルの下位互換である。
ネイビスが『サーチ』のスキルで敵のいる場所を調べると、一体の魔物の反応があった。ネイビスはその位置を察知するや否や頭上を見上げて二人に緊迫した声で声をかけた。
「上だ! 二人とも、俺の所に来い! 『マジックウォール』✕3」
ネイビスの突然の指示にイリスとビエラはたじろぐも、指示通りにネイビスのもとまで寄った。ネイビスの防御魔法スキルが空に三つ展開され、天から降り注ぐ白銀の奔流とぶつかった。その途端一つの半透明な壁が割れ、続いて二つ目の壁も割れた。
「これはやばいな。二人とも、避難だ! 『マジックウォール』」
ネイビスは一枚追加でマジックウォールを張ると、駆け出してその場から離れる。イリスとビエラも続いた。
「はぁ、はぁ……。何よあれ?」
「おそらくは氷竜だとは思うが、明らかに今までと様子が違うな」
ネイビスの『サーチ』はエリア全体を調べることはできないものの、それなりに広範囲を探知できる。だが、引っかかったのは一体だけだったのだ。その一体の氷竜らしきドラゴンは今まで戦ってきた白竜や火竜よりも一回り小さかった。異様なオーラを纏って空をその白銀の翼で力強く羽ばたく竜は白銀のブレスを先程まで三人がいた場所に吐いていた。
「あれ、喰らったらひとたまりもないな」
「ネイビスくん……。あれと戦うの?」
ビエラの心配そうな眼差しをネイビスは受け止める。氷竜らしき白銀の竜のブレスが生み出した巨大なクレーターを横目にしながら、戦略的撤退という言葉がネイビスの脳裏を掠めた。ネイビスも本能的にあの竜がやばい相手だとはわかっていた。突然変異か、世界のバグか。何れにせよ、棒立ちは悪手と判断したネイビスは戦うことに決めた。
「戦うぞ! イリスはビエラを頼む!」
「ええ、分かったわ」
「ありがとな。『ノービスの本気』!」
白銀のドラゴンは空を舞い続けていた。優雅に、気高く飛んでいた。地上に降りてくる気配は今のところない。ネイビスはイリスの剣は届かないと判断して、ビエラの護衛を任せることにした。
一騎打ち。ネイビスはこの世界で前世の記憶を思い出してからというもの、一人だけで戦ったことなどなかった。思い返せば、常にイリスとビエラとの三人で協力して戦っていた。一人で戦うということに少なからずの緊張を抱く。
「『プチマジックミサイル』✕3」
『プチメテオ』は当たらないと踏んだネイビスは、ホーミング効果のある『マジックミサイル』を連発する。しかし、白銀の竜が力強く羽ばたくとそれらは雲散して、キラキラとした光となって宙に散った。
「やばいな……。どうする?」
それからしばらくネイビスと空を飛ぶ白銀の竜の戦いが続いた。ネイビスが遠距離魔法スキルを放つたびに、竜は避けるか翼によって生み出される風で無効にした。運良く数発当たったものの、致命傷は与えられなかった。
一方、竜はブレスをネイビスに向けて吐くが、ネイビスに当たることはない。ネイビスは減っていくMPに危機感を感じ始める。ネイビスはこの極寒の地で、汗をかいていた。それは嫌な汗だった。もしかして、倒せないのではないかと言う弱音が心に宿る。だが、ネイビスはもう後に引けなくなっていた。男としての矜持からか、イリスとビエラを守るためか、それともここで逃げたらこの先成長できないと思っていたからなのかもしれない。
ネイビスが逡巡していると、白銀の竜は急降下し始め、勝負を決めるためにネイビスに迫った。
竜の鋭利な爪がネイビスを襲う。ネイビスはレベル99の勇者にはまだ劣るものの、それなりに高いAGIを活かして避けようとしたが、彼我のスピード差に回避が間に合わないことを悟った。その刹那、ネイビスは策を考える。それは無謀とも取れるものだったが、ネイビスは喜々としてそれを実行することを腹に決めた。
「喰らえ、『プチメテオ』!」
白銀の竜の爪がネイビスの腹に突き刺さったのと、『プチメテオ』が白銀の竜に向けて落ちたのは同時だった。
「ネイビス!」
「ネイビスくん!」
白銀の竜は地に落ち、ネイビスはその下敷きになった。イリスとビエラは悲痛の声を上げ、力なく横たわるネイビスのもとへと駆け寄る。ネイビスを中心に真っ白な大地に赤が広がる。竜はまだかろうじて息をしていた。その爪はネイビスの腹に刺さったままだった。
「やべぇ、失敗した……」
駆け寄るビエラとイリスに、霞んでいく視界の中で彼女たちを見つめながら、ネイビスはそう言おうとした。けれど、その言葉は二人の耳には届かなかった。ネイビスは声を発することができなくなっていたからだ。
イリスとビエラは泣きながらネイビスの両手を取って、呼びかける。「まだ死んじゃだめ」「死なないで」と。
「『ヒール』『ヒール』『ヒール』『ヒール』『ヒール』『ヒール』『ヒール』……。ネイビスくん、お願い! 逝かないで!」
ビエラは『ヒール』をMPが切れるまで何度も使った。けれど、ネイビスの傷は一向に治らない。ネイビスの体からは次第に生命の象徴としての熱が消えていった。
「愛している」
ネイビスはこの想いを伝えようとして、イリスとビエラの、愛する二人の顔を見つめる。遠退く意識のさなかでネイビスは男なのか女なのかは分からないが、とても透き通る美しい声を聞いた気がした。
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