第41話 人類最高到達レベル
「おー! お前ら無事だったのか!」
「ええ。まあ」
三人が再び風林山の頂上に辿り着くとギルガルドとアイーナが出迎えた。
「『虎穴』はクリアできたか?」
「出来ましたよ。これが成果物です」
ネイビスは翡翠の指輪を二人に見せびらかす。
「へー。カッコいいな。アクセサリーか?」
「はい。効果はMPプラス50です」
「それはなかなかね」
ネイビスは二人に嘘をついた。隠しエリアで手に入る指輪はいずれも国宝級以上の価値のある物だ。それ故に三人は他の人には内緒にすることに決めていた。
その後二人はネイビス達について来た。仕方なくネイビスは一緒に下山することにした。
「じゃあまたな」
「また会いましょー」
ギルガルドとアイーナが手を振って別れる。三人は『風林の宿』に泊まり、翌朝飛空艇に乗ってダンジョン都市イカルへと帰還した。飛空艇発着場にて『6月18日朝7時発 王都行き』の便があるのを確認してから三人はBランクダンジョン『アンデッドの墓場』に向かった。
「いよいよ明日が王都ね」
「三ヶ月ぶりだよね?」
「そうなるな」
「少し早く着いちゃうね。謁見は21日だったよね?」
「まぁ早いに越したことはないだろ。もし謁見をドタキャンしてみろ。どうなるか考えただけで鳥肌ものだ」
その後三人は王都に行ったら何をするだの何を買うだの会話に花を咲かせながらBランクダンジョン『アンデッドの墓場』を目指した。ダンジョン入り口に着くと列ができていたので最後尾に並ぶ。
「あれ? いつもよりも進むの遅いね」
ビエラが疑問を口にした。確かにいつもよりもひとパーティーにかかる受付の時間が長くなっていた。しばらくして三人の順番が来る。
「次の方どうぞ」
三人が受付の前に立つと受付の女性は営業スマイルで話し始めた。
「今日から新しい制度が追加されましたので連絡いたします。これからダンジョンに入る際は毎回こちらのカード更新機でギルドカード及びマギカードを更新していただくこととなりました」
その説明を受けて三人は冷や汗をかき始めた。
「それって強制ですか?」
ネイビスが代表して受付の女性に質問すると彼女は頷いて答える。
「はい。もし更新されない方がいればダンジョン入場の許可が出せません」
「ネイビス、どうするのよ?」
イリスがネイビスに確認する。ネイビスは悩んだ。今ネイビスは魔法使いレベル68に到達していた。これは人類最高到達レベルを塗り替えることになる。そしてイリスとビエラは55レベルになっていた。どこからどう見ても普通ではない。
「どうかなさいましたか? もしかして何かやましい事でもあるんですか?」
受付の女性が考え込むネイビスに疑いの目で尋ねる。
「ま、いっか。更新すればいいんですよね」
結局ネイビスはいずれバレることだし、なるようになると思考を放棄した。
「いいの? ネイビス君」
「ああ。隠してても居心地悪いだろ」
「それもそうだけど大丈夫なの?」
「平気平気。俺から行くぞー」
ネイビスはむしろ開き直ってこれからどうなるかを楽しみにしていた。ネイビスはカード更新機に自身のマギカードを置いて右手を機械にかざす。
『カランカラン! 新しくSランク冒険者が誕生しました』
「何? Sランクだと!」
「え!? Sランク冒険者!?」
列の後ろの方がざわつき始めた。
「もう乗りかかった船ね」
イリスが諦めて自身のマギカードをカード更新機に置いて右手を機械にかざす。
『カランカラン! 新しくAランク冒険者が誕生しました!』
その後にビエラも同じようにマギカードを更新した。
「えい!」
『カランカラン! 新しくAランク冒険者が誕生しました!』
それを見ていた受付の女性は目を見開いて驚く。
「Sランク冒険者とAランク冒険者でしたか! これは疑ってしまい失礼しました! 実は最近マギカードの職業とレベルの改竄の報告が上がっていまして、カード更新機で確認するようにしていたんです」
「そうでしたか。はいどうぞ」
ネイビス達三人は各々のマギカードを受付の女性に見せる。
「えーっと。剣士レベル55に僧侶レベル55に、あれ? 魔法使い……レベル68!?」
受付の女性はネイビスのマギカードを見ると一瞬固まり、次の瞬間驚きの声を上げた。
「レベル68!?」
「今確かにそう言ってたよな」
「それって、人類最高到達レベル超えてね?」
再び列の後ろがざわつき始める。
「こ、これは大変です! 今ギルドマスターを呼ぶのでここで待っていてくれますか?」
受付の女性は大慌てでギルド職員用のカードを使ってダンジョン都市イカルのギルドマスターへと連絡を入れる。
「どのくらいかかりますか?」
「恐らく2時間程かと」
ダンジョン都市イカルはとてつもなく広いので、イカルには東西南北と中央の5つギルドがある。ギルドマスターは中央のギルドにいるので、外れにあるBランクダンジョン『アンデッドの墓場』に来るのに時間がかかるのだ。
「なら、その間にクリアしてくるので、行ってもいいですか?」
「それは……はい。まぁ、いいでしょう。ですが、必ずギルドマスターには会ってもらいますからね!」
「分かりました」
ネイビスが受付の女性との話を終えるとイリスとビエラが言う。
「早くダンジョンに入りましょう。私達物凄く見られているわ」
「うんうん! 早く行こ?」
ネイビスが周りを見ると人集りが出来ていた。
「そうだな。すぐ潜ろう」
三人はダンジョンのゲートを潜りその場を脱出する。
「それにしても何で急に更新の義務なんてできたんだろうね」
ダンジョンの中に入るとビエラが言った。ネイビスが顔をしかめて答える。
「職業とレベルの改竄って話だったよな。そんなこと出来るのか?」
「普通はあり得ないわ。マギカードやギルドカードなどのカード類や更新機は大昔の優れた錬金術士達が作った物なのよ? 改竄出来るとしたら彼等と同じくらいの錬金術士としての技能を身につけた者じゃなきゃ無理なはずよ」
イリスの語りを聞いてネイビスは更に訳が分からなくなる。
「ま、気にしても仕方ない! ささっとダンジョンクリアしますか」
「それもそうね」
三人は気持ちを切り替えてダンジョンの奥へと歩み始めるのだった。
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