第36話 朱雀の指輪
ネイビス達はボス戦を前にしてMP回復兼作戦会議をしていた。
「敵の名前はメテオキメラだ。もうわかるとは思うが『プチメテオ』を使ってくる」
「メテオって隕石ってこと?」
「そうだな。空から隕石を降らしてくるぞ」
「でもここ地下だよ?」
ビエラの問いにネイビスはチッチと人差し指を左右に振った。
「地下でも隕石は降るんだぞ。上空に火球が召喚されてそれが落下してくる。多分俺の『マジックウォール』だと防げないから回避一択だな」
「それは気をつけないとだね」
「基本的に俺とイリスが剣で攻撃して、ビエラは待機だな」
「『プチフリーズ』は使わないの?」
「今回はやめとこう。エリアが狭いから下手にやるとフレンドリーファイアする可能性が出てくる。ビエラは回復要員って事で」
「分かった!」
「強さ的にはフリーズコングと同じくらいなんでしょ?」
「そうだな。初手で俺とイリスが『ノービスの本気』と『剣士見習いの本気』を使って畳み掛けよう。メテオキメラは魔獣に属するからイリスは『魔獣斬り』を連発して欲しい。もし一分間で倒しきれなかったり、途中で敵が『プチメテオ』を使ってきたりしたらビエラの元まで後退して今度は俺とビエラの魔法で遠距離攻撃するって感じでいいか?」
「いいわよ」
「うん!」
作戦会議が終わり、いざ三人はメテオキメラのいる場所へと続く道を歩き始めた。メテオキメラは近づく三人に気付くも、悠然として地面に座っていた。ただ、その鋭い眼光だけは三人を強く見据えていた。
「いくぞ! 『ノービスの本気』!」
「『剣士見習いの本気』!」
「『リジェネ』×3!」
ビエラは三人に『リジェネ』をかけ、ネイビスとイリスはスキル発動と同時に一気に駆け出してメテオキメラの元へと近づく。メテオキメラは立ち上がって接近する二人を警戒し、ネイビスに向かって炎のブレスを吐いた。ネイビスは『ノービスの本気』で二倍になったAGIを活かしてするりと炎のブレスを避け、毒牙をメテオキメラの右脚へと突き刺した。一方イリスはネイビスの方へと注視して隙だらけのメテオキメラの左半身へとスキルを連発していく。
「『魔獣斬り』! 『三連切り』! 『魔獣斬り』!」
メテオキメラはイリスの猛攻を受けて大きく怯み、ネイビスの毒牙によって毒状態になっていて、HPがじわじわと減っていく。メテオキメラは後退ると咆哮をした。
「『プチメテオ』来るぞー!」
イリスとネイビスの上空に半径一メートルはある火球が生成された。辺りは火の粉に包まれて気温はぐんと上昇していく。ネイビスとイリスは作戦通りビエラの元まで後退する。
「ドカァァァーン!!!」
ネイビスとイリスが先程までいた場所に火球が落ちて辺りを火の海に変えた。地形はえぐれて、小さなクレーターができていた。もし巻き込まれていたらと思うとネイビスはゾッとした。
「ビエラ行くぞ! 『プチマジックミサイル』! 『マジックアロー』!」
「『プチホーリー』×3」
二人から放たれた合計五つの魔法はメテオキメラの頭に当たってその視界を奪った。ネイビスとイリスは再びメテオキメラに接近する。
「『マジックアロー』! 『プチマジックミサイル』!」
ネイビスは駆けながら魔法を放っていく。そしてイリスとネイビスがそれぞれの剣を大きく振りかざしてトドメの一撃を入れる。
「これでトドメだ!」
「『魔獣斬り』! 『一刀両断』!」
イリスの放った『一刀両断』がメテオキメラの首を切り、それが致命傷となってメテオキメラは力尽きた。
「やったわね」
「そうみたいだな」
「二人ともお疲れ様!」
ビエラがメテオキメラの死体のところまで来て勝利を確認し合う二人にねぎらいの言葉をかけた。
「『プチメテオ』凄かったね」
「ああ。あれだけは食いたくないわね」
「イリスの『スラッシュ』も同じくらい食いたくないけどな」
ネイビスがそう言うとイリスが雷鳴剣をカチャリと鳴らした。
「一発行っとく?」
「ああ。うそうそ。ごめんなさい」
「ふふふ。それより宝箱はいいの?」
「ああそうだったな。開けに行くか」
入り口の反対側の陸地の端に青白く輝く宝箱が置いてあった。三人はそこまで歩いていき、いっせーので開けた。
「赤い指輪だね」
「まぁ、予想通りと言えば予想通りだけど」
「これはな。朱雀の指輪って言うんだ」
「効果はMPプラス75とINTプラス25と『プチメテオ』で合ってる?」
「正解だ、ビエラ。正解したビエラにはこの朱雀の指輪を贈呈しよう、と言いたいところだが、俺が付けていい?」
「私はいいよ」
「どうしてなの?」
イリスが理由を尋ねるとネイビスは真剣な眼差しで答えた。
「俺が『プチメテオ』を唱えたいからだ!」
「呆れた。そう言うことね。いいんじゃない?」
「私もいいと思うよ」
「二人ともありがとうー!」
そう言ってネイビスがイリスとビエラを抱き寄せた。
「ちょっと暑苦しいわよ。ただでさえ暑いのに」
「私は平気だよ?」
「ビエラは優しいな」
「なによ。私が優しくないみたいじゃない!」
「イリスはそこまで優しくないだろ」
ネイビスがそう言うとビエラが首を振って否定した。
「イリスちゃんは優しいよ! でもネイビス君にだけ素直になれないんだよ!」
「ちょっ、ビエラ」
イリスの顔がほんの少しだけ赤くなった。それは暑さだけが原因ではないだろう。
「いい加減離れなさいよ。ネイビス、汗臭いわよ」
「それはお互い様だろ」
ネイビスは観念して二人を離した。そして宝箱から朱雀の指輪を取り出してロコルリングと付け替えた。
「ロコルリングとももうお別れか。コイツは売らずに記念としてインベントリの中にしまっておこう」
「それがいいんじゃない? 私もミスリルソードはインベントリに入れてるし。それよりも早く帰りましょう」
「そうだな。帰るか」
三人は元来た道を戻り、ロッカの町の宿で夜を明かして、翌朝イカル行きの飛空艇に乗ってイカルへと戻るのだった。
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