第34話 ゴブリンの巣窟

 翌朝、ネイビス達三人は寝不足だった。宿の人に朝の六時に起こしてもらうように言っていたので何とか起きることはできたが、三人は起きた後もしばらくはうつらうつらとしていた。


「ビエラ。『キュア』頼む」

「私にも『キュア』ちょうだい」

「分かったよ。『キュア』×3」


 ビエラの『キュア』で三人は寝不足を回復させる。


「ありがとうな。それじゃあ発着場に行きますか!」


 三人は七時発のイカル行きの飛空艇に乗り、午後五時くらいにイカルに着いた。発着場にて明日のロッカ行きの飛空艇の時刻を調べる。


「朝の九時だな」

「なら、近場の宿屋に泊まりましょう。それより、早くDランクダンジョン『ゴブリンの巣窟』に行くわよ!」

「うん!」

「ちょっと待て。その前に行くところがある」


 早速ダンジョン攻略しに行こうとしていたイリスとビエラを制止してネイビスは言う。


「冒険者ギルドに寄るぞ。マギカードの更新とダンジョン発見の件についてだ」

「そう言えばそんなものもあったわね。なら早く行きましょう」


 飛空艇発着場から冒険者ギルドは近い。三人は直ぐに冒険者ギルドに着き、マギカードを自動で更新してくれる装置でマギカードを更新する。ちなみに三人が転職していることがバレなかったのはこの装置のおかげである。


『カランカラン! 新しくAランク冒険者が誕生しました!』


 ネイビスがマギカードを更新した時、装置から鐘の音とアナウンスが流れた。


「そう言えばAランク以上になるとこんな仕掛けがあったわね」


 三人はジエンの町でマギカードを更新した時のことを思い出していた。あの時はネイビスがSランク、ビエラとイリスがAランクになったのだ。

 Aランク冒険者とSランク冒険者はそれ以下の冒険者と一線を画す。というのも、彼らにはオリエンス世界大会の出場資格があり箔がつくのだ。加えて第三スキルの有無も大きい。それ故にAランク及びSランク冒険者は崇め讃えられる存在なのだ。

 あの時は三人のAランク以上の冒険者の誕生によりギルド内が大騒ぎになって、ネイビス達は逃げるようにその場から去ったのを覚えている。

 今回も案の定、ギルド内がざわつき始めた。


「おい、Aランクだってよ」

「見に行くか?」


 このような会話がギルドに併設された酒場から聞こえてくる。三人はそれらの声を無視してそそくさと受付に行った。


「あのー。この証書を見せればいいと言われまして」

「かしこまりました。確認します」


 受付の女性が証書を受け取って確認すると自身のギルド職員カードを操作し始めた。


「確認しました。まだダンジョンの方は調査の最中ですので情報提供料は出せませんが、後日国王に謁見していただくことが決まりました。日時は十日後の朝十一時ですのでお忘れなきようにとのことです」

「十日後ってことは六月の二十一日であってますか?」

「はい。前日までに王都の冒険者ギルドに行って諸々の確認をお願いします。恐らくですがその時に情報提供料が支払われると思います」

「分かりました」


 後八日で残りの二つのアクセサリーを集めなくてはならないなとネイビスは少し焦るが、まぁ行けるだろうと思っていた。


「以上で話は終わりになりますが、何かご質問はございますか?」

「いえ。特にないです」

「それではまたのお越しを」


 その後三人は集まる視線をかいくぐり、逃げるように冒険者ギルドから出てDランクダンジョン『ゴブリンの巣窟』へと向かった。

 ダンジョンの入り口で受付を済ませて三人はダンジョンの中へと入る。


「ゴブリンは一体一体は弱いが、数で攻めてくる。だから、今回は俺の『マジックウェーブ』とビエラの『プチフリーズ』で攻めるぞ。イリスはビエラを敵から守ってくれ」

「分かった!」

「りょーかい!」


 三人は作戦会議を終えると一階層の攻略を始めた。

 結論から言ってゴブリンは弱かった。INTが468のネイビスの放つ範囲魔法『マジックウェーブ』で一掃できてしまったのだ。

 一階層から三階層まではゴブリンが、四階層と五階層ではホブゴブリンが、六階層と七階層ではゴブリンメイジが、八階層と九階層ではゴブリンジェネラルが出てきたが、出てきた瞬間にネイビスが『マジックウェーブ』を唱えてまとめて瞬殺してしまう。そのせいでビエラとイリスは退屈していた。


「せめてボスは私とビエラにやらせてちょうだい」

「うんうん!」

「分かったよ」


 ネイビスはゴブリンを魔法で一掃するのに快感を覚えていたが、仕方なくボスだけは二人に譲ることにした。


「ゴブリンキングだったわよね」

「ああ。そうだぞ。二人なら余裕だな」

「私『プチフリーズ』使ってみたい!」

「いいぞ。ただ『プチフリーズ』は全方位攻撃だから使い方注意な」

「分かってるよ」


 三人は十階層に続くゲートを潜った。三人の目の前にはゴブリンキングとその近くに五体のゴブリンがいた。


「『プチフリーズ』いくよ?」

「オッケー。『マジックウォール』×2。イリスこっち来い」


 ネイビスが自分とビエラの間にマジックウォールを二枚張る。フリーズコングと戦った時一枚だけだとダメージを食らったからだ。イリスはその後ろに駆け込んだ。二人はゴブリン達に近づいていくビエラを見守る。


「『プチフリーズ』!」


 ビエラがそう唱えると冷気がビエラの体を包み込み、円状に放たれる。辺りは吹雪いて気温が一気に下がる。ゴブリンキングやゴブリンはだんだんと凍っていき、そのまま凍りついてしまった。


「凄いな。こりゃオーバーキルだ」

「もしかして私の出番無し?」


 ネイビスが感嘆の言葉を漏らし、イリスが出番を奪われたことを悔しがる。


「ふぅー。涼しかったよ」


 吹雪が止んで、その中からビエラがテクテクと歩いて出てきた。


「『プチフリーズ』凄いね」

「ああ。カッコよかったぞ」

「蒼魔導士も顔負けね」


 ネイビスとイリスに称賛の声をかけられてビエラははにかんで笑った。


「えへへ。でも、凄いのはこの指輪だよー!」

「それもそうね」

「確かにな」


 三人は蒼天の指輪の優秀さを改めて実感するのだった。


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