第14話 ウサギパラダイス その2

 三人はなんとか『ウサギパラダイス』の三階層を突破して四階層に続くゲートの前で休んでいた。そこでネイビスが自身のレベルが上がっていることに気づく。


「ノービスの第二スキル『リカバリー』覚えたぞ!」


 第二スキルはレベル25で覚えることができる。


「ああ、あの『プチキュア』の下位互換スキルね」


 イリスが事実を言うとネイビスは落ち込んで言い返す。


「それは言ってくれるな。否定できないだろ」

「やっぱりミスリルバングルのおかげなのかな。ネイビス君のレベルアップ早いね」

「まぁ、経験値二倍だからな。それより次から敵が魔法を使ってくるぞ」

「火の玉を放ってくるのよね。掲示板に書いてあったわ」

「そうだ。先ず基本的に当たらないことだな。レッドツノウサギは予備動作でその場で二回跳ねるから、そうしたら警戒だな」


 三人が次の階層へと続くゲートに入ると、次は草原ではなく荒涼とした砂漠に出た。遠くの方に次の階層へと続くゲートが小さく見える。


「今までと全然雰囲気が違うわね」

「そうだな。これだと不意打ちはされなさそうだな」


 結果から言ってレッドツノウサギはホワイトツノウサギよりも弱かった。魔法は予備動作を確認すれば簡単に避けられるし、むしろイリスやネイビスにとっては攻撃チャンスになっていた。

 五回層ではレッドツノウサギが二体で出てくるが、それも難なく斬り伏せて三人は先に進む。

 六、七階層の雪原では氷の玉を飛ばしてくるブルーツノウサギが出てきた。八、九階層は風の刃を飛ばしてくるグリーンツノウサギが出てくる平野だった。

 グリーンツノウサギの魔法は見づらくネイビスが一度被弾してしまう事故はあったものの、それもビエラが直ぐに治療して事なきを得た。


「いよいよボスね」

「ブラックツノウサギ……大きいんだよね」


 三人は十階層へと繋がるゲートの前で最終確認をしていた。十階層は所謂ボス部屋だ。出てくるのは人間くらいの大きさのブラックツノウサギだ。

 掲示板によるとブラックツノウサギの肉はとても美味しいらしい。その肉が高値で売れることから『ウサギパラダイス』はFランクダンジョンでありながらも挑む高ランクの冒険者は多かったりする。

『ウサギパラダイス』はダンジョン都市イカルにあるダンジョンの中で唯一食用の肉が取れるダンジョンなので人気なのだ。

 イカルという巨大都市の食生活を支えているのがこの『ウサギパラダイス』なのである。

 ちなみに今まで倒したツノウサギは全部イリスのインベントリに入っている。


「イリス。MPは?」

「私は満タンよ」

「OK。なら『スラッシュ』連続で畳み掛けろ」

「りょーかい!」

「私は後ろで待機だよね?」

「そうだな。もし俺かイリスが攻撃を受けたら『プチヒール』頼めるか?」

「うん! でも、私の残りMPだとあと二回しか『プチヒール』使えないから注意ね!」

「分かった。じゃあ行くか」


 ゲートを潜るとそこは平原で、三人の前方にはブラックツノウサギがいた。


「実際に見ると強そうね」


 ブラックツノウサギは人間の背丈ほどの大きさでかなり迫力があった。


「そうだな。だが臆するなよ。今の俺らなら勝てるはずだ」


 このFランクダンジョン『ウサギパラダイス』の推奨レベルは10から15だ。いくら初級職が弱いからといってレベル20代の三人なら十分勝てるとネイビスは考えていた。


「じゃあ私からいくわね。『スラッシュ』!」


 イリスが真っ先にブラックツノウサギに向かって駆けて行きスキル『スラッシュ』を放つ。攻撃を受けたブラックツノウサギはイリスに向けて角を突きつけるが、イリスはそれを見て回避する。

 そこに反対側から近寄っていたネイビスがブラックツノウサギの背中に一撃を入れる。今度はネイビスの方にヘイトが向かいブラックツノウサギは角を突き出して突進する。迫り来るブラックツノウサギの攻撃をネイビスは軽く避け、カウンターで攻撃を入れる。


「『スラッシュ』! 『スラッシュ』!」


 突進の後、隙が生まれたブラックツノウサギにイリスがスキルを連続で決めていく。このパーティー唯一の攻撃スキルなだけはあってブラックツノウサギはみるみる血を流し弱っていく。

 それからは一方的だった。イリスとネイビスが交互に剣戟を入れ、イリスが限界までスキル『スラッシュ』を使った。六回目の『スラッシュ』でブラックツノウサギはとうとう動かなくなった。


「やったわ! 倒したみたいね」

「疲れたなぁ」

「みんなお疲れ様。私は何もしてないからあまり疲れてないかも」


 まだまだイリスとビエラは元気だったがネイビスはかなり疲れていた。戦闘に参加していないビエラが疲れていないのは当然だが、人一倍戦っていたイリスが何故そこまで疲れていないかには実はステータスが関わっている。

 ステータスのVITはその人の活力を示す。それは単純な防御力を表す数値であると同時に現実世界となったこの世界では持久力にも影響するのだ。

 イリスのVITはシルバーバングルの効果も含めて96もある。対してネイビスのVITは26。その差は歴然だ。


「さあ、戻りましょう!」


 ブラックツノウサギをインベントリに締まったイリスが、ブラックツノウサギの死体の後方に現れた帰還ゲートを見てそう言った。


「そうだな。みんなお疲れ様」

「お疲れー」

「お疲れ様です」


 三人は帰還ゲートを潜る。その時ネイビスはこの後昼休憩をして午後に一回だけ潜ろうかなと考えていた。

 その予定が直ぐに崩れ去ることになるのをこの時のネイビスはまだ知らない。

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